将来的に人や荷物の短距離輸送の担い手として期待されるeVTOL(電動垂直離着陸機)に対し、いくつもの自動車メーカーが関心を寄せています。ジープなどでおなじみのステランティスもそのひとつ。eVTOLメーカーに出資し、さらに生産拠点の建設計画も進める彼らのねらいとは?
多くの自動車メーカーがeVTOLに注目
先ごろステランティスが、興味深い発表をおこないました。eVTOL(電動垂直離着陸機)のメーカーであるアーチャー・アビエーションに対し、最大1億5000万ドル(約203億円)の追加出資をおこなうだけでなく、製造技術や人材の供与も約束したのです。
ここへ来て、eVTOL業界が熱くなっています。将来的な人や荷物の短距離輸送の担い手として期待されるeVTOLは、ヘリコプターと比べて部品点数が少なく、量産化に成功すれば機体の製造コストを抑えられます。また、部品点数が減ることで、整備費用の圧縮が見込めるほか、将来的に自動操縦が実現すればパイロットが不要になるため、運航費用も安くなるかも、と期待されています。
eVTOLのマーケット規模についてはさまざまな予測がありますが、2022年1月にエレクトリカル部門を新設し、eVTOLなど電動推進システムビジネスに参入したロールス・ロイス社は、少なく見積もっても2030年までに世界で約7000機が運航するといっています。航空機とはケタ違いの需要数で、空を飛ぶことがより身近になるのかもしれません。
自動車メーカーは、品質を保ちながら大量の組み立て生産をおこなうという量産技術に強みを持つことから、実はeVTOLと親和性があります。ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)はトヨタと、スカイドライブ(SkyDrive)はスズキと、イヴ・エア・モビリティ(Eve Air Mobility)はポルシェと、ヴォロコプター(Volocopter)は吉利やメルセデス・ベンツと、スパーナル(Supernal)はヒョンデと、といった具合に、多くの自動車メーカーがeVTOLメーカーとパートナーシップを結び、出資や協業を発表しています。
●出資だけでなく大量生産までをも目指すステランティス
そんななか、ジープやフィアット、プジョーなどを傘下に収めるステランティスは、すでに2020年に出資したeVTOLメーカーのアーチャー・アビエーションに対し、追加出資を決めただけでなく、製造技術や人材の供与も約束しました。
ステランティスはアーチャーと協力し、アメリカはジョージア州コビントンに生産工場を建設し、2024年にはアーチャーの主力モデルとなる「ミッドナイト」の生産を開始する予定だといいます。
アーチャーにとって、サプライチェーンの確保、人材やノウハウの確保、工場建設費の抑制といったメリットずくめの今回の発表から、ステランティスの「空におけるモビリティの覇権を得たい」という姿勢が垣間見えます。
しかもプレスリリースには、「独占契約メーカーとして、アーチャーとeVTOLの大量生産を目指す」とも明示されていました。出資だけではなく技術供与をした上で、eVTOLの生産受託もおこなうというわけです。つまりステランティスは、遅かれ早かれ、航空機メーカーとしての活動もスタートさせる、ということですね。
ちなみに、アーチャーの主力モデルであるミッドナイトは、5名乗り(1名はパイロット)で航続距離100マイルのeVTOLですが、「約20マイル(約32km)の短距離を往復し、その間に約10分の充電ができるよう最適化されている」そうです。
もっといえば、各国の主要空港と都市部を結ぶ移動手段としての活躍が見込まれています。そして、いずれは自動運転を導入し、既存のタクシーと同じ料金程度で“空飛ぶタクシー”として活躍するだろう、ともいわれています。
日本では現在、ヘリコプターは航空局が認可したヘリポートのみでしか離着陸ができません。eVTOLを推進するには、安全性を確保した上での規制緩和が急がれます。
ゴルフ場、マリーナ、スキー場など国内旅行におけるアクセスの向上、過疎地への物資運搬、移動のスピードアップなど、eVTOLが普及したらいろいろと楽しみです。子どもの頃に思い描いた空飛ぶクルマは、“大きくなったドローン”というカタチで実現するのではないでしょうか。