上陸したばかりのアルファ ロメオのコンパクトSUV「トナーレ」を試乗することができました。そのルックスや走り味はまさにアルファ“らしさ”が濃密。快い退屈知らずのドライビングを楽しめる仕上がりでした。
歴代の名車の個性を継承した印象的なルックス
日本に上陸したばかりのアルファ ロメオ「トナーレ」を試乗することができた。2022年4月末にイタリアで初めて走らせて以来、久しぶりのドライブだったものの、走り始めて5kmもしないうちに僕はあらためて実感していた。「ああ、こいつはやっぱり楽しいな」と。
トナーレは、ブランド初の電動化モデルということに目が向きがちだけど、このモデルの本質はそこじゃない。そう、このクルマは“あくまでもアルファ ロメオである”ということが何より重要なのだ。およそ10か月ぶりにスタイリングをじっくり眺め、ステアリングを握り、ペダルを踏みしめて、トナーレがアルファ“らしさ”をたっぷり備えたクルマであることを強く感じられたのが僕はうれしかった。
アルファ“らしさ”というのは、実は定義づけがとても難しい。昔からクルマ好きの心をたっぷり誘惑してきた長い歴史を持ち、クルマの世界では最も個人の感性に評価が左右されるブランドである。誘惑の手口が、興奮させられるエンジン、熱くさせられるハンドリング、浸ってしまうスタイリングと多岐に渡っているから、人によって感じ入るところが異なる上に温度感も違う。千差万別なのだ。
僕もアルファ乗りのひとりだから思うところはあるし、これまで多くのアルファ好きと出逢い、彼ら、彼女たちの声も耳にしてきた。そうして今では、「普遍性を秘めた蠱惑(こわく)的なスタイリング」「のめり込む操縦感覚」「心くすぐるドライビングプレジャー」「乗ることを考えただけで気持ちが浮き立つ日常の中の非日常性」といった要素が、アルファ“らしさ”をはかる指標となっている。もちろん最新モデルのトナーレも、それらをちゃんと満たすクルマに仕立てられているのだ。
スタイリングに関しては、多くを語る必要はないだろう。もちろん美醜は個々の感覚でほぼ無意識的に判断されることが多いから、好みじゃないという人もいるかもしれない。が、イタリアでも日本でも注目度は高かった。というか、関心を持たれることが多く、逆にたずねてみると「カッコいい」という声が圧倒的多数だった。海外メディアなどを見ても世界的に好評であることが分かる。
トナーレのデザインを事実上取りまとめたアレッサンドロ・マッコリーニによれば、デザイナー陣はトナーレのスタイリングを創造するに当たり、かつてアルファ ロメオの生産拠点であったアレーゼにある「ムゼオ・ストリコ・アルファロメオ」(アルファ ロメオ博物館)でそれぞれがずいぶん長い時間を過ごしたらしい。電動化という新たな時代を迎えるタイミングだからこそ、彼らは自分たちのブランドが持つ豊かな歴史と向き合い、クルマにオマージュを散りばめようとしたようだ。きっと名だたる名車たちを延々と眺め、湧いてきたインスピレーションをスケッチしまくったのだろう。
その証が、トナーレのさまざまな箇所に見て取れる。近年のアルファ ロメオのアイコンのようになっている“スクデット(小さな盾)”を中心に構成されたトリロボ=三つ葉飾り。それは初代「ジュリエッタ」などさまざまなモデルに刻まれた代表的な意匠といえる。デザイナー陣が“GTライン”と呼ぶショルダーの流れは「ジュリア クーペ」から、3つ目のヘッドランプはES30型「SZ」や「RZ」、「プロテオ コンセプト」、「159」、「ブレラ」、939型「スパイダーなどから、サイドウインドウとリアウインドウの開口部の処理は「8Cコンペティツィオーネ」から、それぞれインスピレーションを受けたことが明言されている。
それ以外にも、「スプリント スペチアーレ」、「ディスコヴォランテ」、「スパイダー デュエット」、1930年代の「8C2900」、「164」、916型「GTV」&「スパイダー」などなど、さまざまな歴史的アルファ ロメオの面影が薫る部分がたくさんある。それらは決して過去のコピーではなく、無理なく1台の新しいアルファ ロメオに同居している。しかも、何とも魅力的な造形として。

そんな造形を持つトナーレのサイズは、全長4530mm、全幅1835mm、全高1600mm。これは姉に当たる「ステルヴィオ」より160mm短く、70mm細身で、80mm低い数値だ。ステルヴィオに惹かれながらボディの大きさで躊躇っていた人にとって、これは喜ばしいことだろう。
実際、都心の混み合った幹線道路や住宅街の裏道、タイトなワインディングロードでも、トナーレはかなり扱いやすいサイズに感じられた。その分だけ室内も荷室もコンパクトだが、十分に実用的であるだけのスペースは用意されている。思い浮かべただけで気持ちが上がるような非日常的といえる雰囲気を持ちながら、一部のスペシャルモデルを除けば実用性を無視しない。それも昔ながらのアルファの公式なのだ。
MHEVながらモーターだけで走行できる領域が広い
今回上陸したトナーレは、MHEV(マイルドハイブリッド)モデルだ。デビューの際にはPHEV(プラグインハイブリッド)仕様の存在もアナウンスされているが、そちらはヨーロッパで2023年春ごろの発売予定。先に世に送り出されたことからも価格の面からも、MHEVモデルをメインストリームに据えていることが察せられる。

パワートレインの柱となるエンジンは、“ファイアフライ”系を基礎にはしているものの、エンジニアによれば「ほぼ新開発といえるくらい手が加えられた」可変ジオメトリーターボつきの1.5リッター直列4気筒。そこに、48Vモーターを内蔵した7速デュアルクラッチ式トランスミッション、エンジンの始動と回生ブレーキを担うベルトドリブンスタータージェネレーター、リチウムイオンバッテリーが組み合わせられている。
気になるパワーとトルクは、エンジンが160ps/5750rpmと240Nm/1700rpm、48Vモーターが単体で20psと55Nmとなるが、トランスミッション比の関係で、モーターのトルクはギアボックス入力値で135Nmに相当するという。それらをフロントタイヤで路面に伝え、1630kgの車体を走らせるというわけだ。
面白いのは、MHEVでありながらモーターだけで走行する領域が広いということだ。バッテリー容量が限られているので常に、というわけじゃないが、基本、発進時や低速域ではモーターだけで走行する。メーカーは「15〜20km/hくらいまで」と公表しているが、充電量がたっぷり残っている状態でアクセルペダルをジワジワ静かに操作していくと、30km/hくらいまではモーターだけで走る様子を確認できた。
さらに、巡航状態からアクセルペダルをオフにするとコースティングもするし、制動力に大きく作用しているとはいえないが、減速時は回生によって充電されていることが分かる。それらが燃費に好影響を与えているだろうことは想像に難くない。さらにいうなら、巡航時にアクセルペダルを踏み込むと、エンジンのトルクがついてくる前の一瞬、別の推進力を得ていることが感じられるから、それほど大きいわけじゃないとはいえ、ちゃんと加速をアシストしていることも分かる。電動化のメリットは間違いなくあるのだ。
とはいえ、電動化はエンジンとの組み合わせで活きる、トナーレの魅力のほんの一部に過ぎない。1.5リッター直4ターボはバリバリのスポーツユニットというわけじゃないし、決してパワフルといえる類でもないが、レスポンスはなかなか鋭いし、トップエンドまでよどみなく気持ちよく回っていく。回転が伸びていくときには、いかにも4気筒といった感じのかなり快いサウンドを聞かせてくれる。もちろん時代が時代なので、昔のアルファのエンジンのような濃厚さはないが、はっきりと回していくことが楽しい高回転型。回転の低い領域は、持ち前の比較的豊かな低中速トルクとモーターによるアシストの相乗効果でまかなっているから扱いづらさもない。
総じるなら、十分スポーツドライビングを楽しむことができるパワートレインだし、スピードも不満なく伸びていく。バカっ速いクルマではないけれど、爽快なことこの上なし。ブンブン回しながら走ってるときの爽快感に関しては、もしかしたらステルヴィオの2リッター直4をわずかに凌駕しているかもしれない。

誤解を恐れずにいうならば、スピードの多寡よりも快さや楽しさを重視したクルマづくりをおこなってきたのがアルファのプロダクションモデルの伝統である。トナーレもまさしくその系譜の上にあるわけだ。
ハンドリング系SUVと呼びたいくらいの鋭いハンドリング
アルファのプロダクションモデルの伝統は、ハンドリングにおいても実感できる。というか、さらに強烈に実感できる。
トナーレはいやはや、とにかくよく曲がる。素晴らしく気持ちのいい曲がりっぷりを味わわせてくれるのだ。ステルヴィオも曲がることが抜群に得意なスポーツ系SUVだが、このニューモデルも決して負けてはいない。

トナーレのステアリングギア比は、ステルヴィオの11.7対1に対して13.6対1と、一般的にはクイックな値ではあるものの、ステルヴィオほどではない。ただし、ホイールベース/トレッド比でいうなら、トナーレのそれはスポーツカーとしての黄金比に近い数値で、ステルヴィオより曲がりやすい資質を持つ。そのショートホイールベース気味のシャシーに加え、だいぶ前下がりに設定されたロール軸や電子式LSDなど、徹底的に曲がることを念頭においたシャシー設定となっている。
だからトナーレは、どこまでもアンダーステア知らずだ。ステアリングの切り始めの反応は一般的なクルマと比べたら明らかに鋭いものの、ステルヴィオほど劇的にクイックというわけではない。けれど、ロールが始まったらそこから先、曲がり方の密度がグッと濃くなっていく。
曲がり始めたそこからものすごく曲がっていく印象。ヘアピンのようなタイトコーナーでも前輪がグイグイとイン側へと入っていき、それに後輪もしっかりついていく。まるで強烈に出来のいいホットハッチを走らせているかのような感覚になる。すさまじいくらいに気持ちよくコーナーをクリアできるのだ。
その印象は、スポーツ系SUVというよりも、ハンドリング系SUVと呼びたくなるくらいのレベルにある。慣れるまでは戸惑いを感じるかもしれないが、トナーレで曲がっていくときの高揚感は極めて鮮烈。これに並ぶ快感を味わわせてくれるモデルは、少なくとも同じ“Cセグメント”SUVの中には見つけることができない。
ディーラーのショールームからスタートするテストドライブでは、そこまで体感することは難しいかもしれない。けれど、クルマの基本的な動きの方向性は、コーナーをひとつふたつ、あるいは交差点のひとつふたつでも、間違いなく感じとることができるはずだ。そこで気持ちよさや楽しさを感じたなら、きっとトナーレのことがどんどん好きになるに違いない。その先にはもっと快い、退屈知らずのドライビングが待っている。アルファ ロメオとはそういうブランドなのだからして。
●Alfa Romeo TONALE TI
アルファ ロメオ トナーレ TI
・車両価格(消費税込):524万円
・全長:4530mm
・全幅:1835mm
・全高:1600mm
・ホイールベース:2635mm
・車両重量:1630kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
・排気量:1468cc
・変速機:7速AT(デュアルクラッチ式)
・エンジン最高出力:160ps/5750rpm
・エンジン最大トルク:240Nm/1700rpm
・モーター最高出力:20ps/6000rpm
・モーター最大トルク:55Nm/2000rpm
・駆動方式:FWD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)ストラット式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/45R19、(後)235/45R19