2022年9月にお披露目されたフェラーリの新型「プロサングエ」を、イタリア北部のスノーリゾート・ピンツォーロで試乗することができました。跳ね馬初の4ドア・4シーターモデルは、内外装の仕立ても走りも文句のつけようがないほどの完成度を見せてくれました。

トレンドに乗って生み出されたSUVではない

 2022年9月にワールドプレミアされ、同年11月には京都の仁和寺にてジャパンプレミアがおこなわれたフェラーリ初の4ドア・4シーターモデル「プロサングエ」。その初試乗の舞台はイタリア北部のスノーリゾートであるピンツォーロだった。

 とはいえ、訪れた2月末は雪もだいぶ溶けていて、スタッドレスタイヤこそ履いていたもののほぼドライ路面で試乗することができた。

 プロサングエは昨今のSUVトレンドに乗って生み出されたモデルではなく、フェラーリの“2+2 GT”の長い系譜の延長線上にある存在だとうたわれている。実際にその姿を見れば、なるほど納得である。

 全長4973mm、全幅2028mm、全高1589mmの堂々としたボディは、V12ユニットをフロントミッドに搭載するレイアウトのおかげで伸びやかなフロントノーズを持ち、相対的にコンパクトなキャビン、高すぎない全高、22インチの大径タイヤ&ホイールなどとの組み合わせで、きわめて独創的なプロポーションを描き出している。

 近年のフェラーリに共通する、空気の流れを可視化したかのようなデザインも大胆だ。フロントノーズからルーフ後端までのラインは、きわめてスムーズにつなげられている。リアワイパーがないのは、気流がきれいに流れてリアウインドウが汚れないためだ。

 特徴的な前後のホイールアーチにはスリットが入れられ、フロントバンパーから導かれた空気はここを通過することでホイールハウス内の乱流を封じ込める。フロントフェンダー後方からドアに向けての“えぐれ”は、フード上をとおってきた空気の気流を加速させて後方へと素早く流し、空気抵抗を低減するためのものだ。

 こんな具合に、目に見えるところはもちろん、床下まで含めて空力は徹底的に煮詰められている。前面投影面積は大きくエンジンはパワフル。そのため要求は、これまでになく厳しかったようである。

フェラーリ初の4ドア・4シーターモデル「プロサングエ」

 注目は4枚のドア。リアドアはウインドウフレームの隅に小さなノブがついていて、これを軽く少し長めに引くと、後ろ側のヒンジを支点に79度まで大きく自動的に開く。そう、いわゆる観音開きで、かつ自動開閉式なのだ。さすがにセンターピラーレスではないが、これにより乗降性は上々。乗り込んだらスイッチを押せば、やはりドアは自動的に閉じられる。

 インテリアは左右ほぼ対称のデザインとされ、コックピットには10.2インチのディスプレイが組み込まれている。ダッシュボード中央にはプッシュするとせり上がるロータリースイッチが備わり、空調などの操作を直感的におこなえる。パッセンジャーディスプレイの画面も大きく、助手席でも一体感のあるドライビング体験を味わえる。

 注目はインテリアに使われている素材である。シート表皮にはリサイクルポリエステルを68%使った新開発のアルカンターラを採用。ルーフライニング、カーペットなど、他の各部にも再生素材が活用されている。無論、クオリティは文句なしなのだから大したものだ。

 後席も、やはり左右独立のバケットシートとされる。着座位置が前席より高く、それでいて頭上にも十分な余裕があり、快適な空間である。シートヒーター、独立した空調も備わるなど、フェラーリが2+2ではなく4シーターと呼ぶのも納得である。

 ラゲッジスペースの容量は通常時で472L。驚くほどの大きさではないとはいえ、フェラーリとしては過去最大級なのは間違いない。しかも必要に応じて、後席バックレストを倒して広いスペースを得ることも可能だ。

スポーツカーに匹敵する理想的な前後重量配分

 プロサングエの車体は、アルミニウムを基本に高強度スチールなどを組み合わせたもので、ルーフパネルには中間層に防音素材を挟み込みながらもアルミ製より約20%軽く仕上がったというCFRPを用いる。新しい構造により、シャシーは従来の2+2モデルよりも軽く、しかも高い剛性を確保したとされる。

フェラーリ初の4ドア・4シーターモデル「プロサングエ」

 エンジンは前述のとおりV型12気筒で、排気量6.5リッターの自然吸気である。最高出力725ps/7750rpm、最大トルク716Nm/6250rpmというアウトプットは、エンジン前方に置かれたPTU(パワー トランスファー ユニット)により前輪に、そして、トランスアクスルレイアウトのデュアルクラッチ式8速ATを介して後輪へと伝達される。

 シャシーの目玉は“フェラーリ・アクティブ・サスペンション・システム”。これは各輪のライドハイトを電気モーターによって個別に制御するもので、単に車高を調整できるだけでなく、ロールやピッチングといった挙動の抑制も可能になる。これに減衰力の可変機構、後輪操舵、eデフ、ブレーキ・バイ・ワイヤシステムなどさまざまなシステムが統合制御されていて、快適性と高いパフォーマンスを実現する。

 実際にステアリングを握って、まずうならされたのが、軽快なそのハンドリングだ。操舵に対して軽やかに向きが変わり、車高の高さも、乾燥重量で2033kgというから実際には2.2〜2.3トンはあるだろう車重も、掛け値なしに全く意識させないのには本当に驚いた。

 トランスアクスルレイアウト、後輪操舵、eデフ……あらゆるアイテムが見事に連携しあって、一体感ある走りとして結実している。目線は高めだが両足を前に投げ出すようなドライビングポジションも含めて、操縦感覚はまさしくフェラーリだ。

 乗り心地も上々である。何よりロールやピッチングといった姿勢変化が抑えられていて、フラットライドを保ち続けるのが好ましい。これぞアクティブサスペンションの威力だろう。後席も試したが、おかげで非常に快適に過ごすことができたのだ。

 V12ユニットは2100rpmで最大トルクの80%を発生させる柔軟性に富んだ特性で、特に中間加速が心地いい。自然吸気らしいダイレクトなレスポンス、ギア比の刻まれたデュアルクラッチ式8速ATの恩恵もあって、加速もやはり軽やかだ。

 そしていざ右足に力を込めれば、8250rpmからのレッドゾーン手前までよどみなく一気に回り切るのだからたまらない。何やらありがたいものに触れている、そんな気持ちにさせられるエンジンはほかにはそうはないだろう。

フェラーリ初の4ドア・4シーターモデル「プロサングエ」

 走行モードを自在に変更できる“マネッティーノ”には、新たに各モードでダンパー減衰力だけ個別に調整できる機能が追加された。つまり、「SPORT」モードでもダンパーだけ「MEDIUM」にセットする、といったことができるのだ。

 先進運転支援機能もかつてないほどに充実。よってリラックスした走りも楽しめる辺りは、他の跳ね馬とは一線を画すところかもしれない。なお、オーディオは初の採用となるドイツ・ブルメスター製。その豊かな音色を楽しみながらのドライブも悪くない。

 優れた居住性や使い勝手を実現する一方で、新技術をうまく活用してフェラーリ“らしさ”をむしろより高い次元で表現して見せたプロサングエ。いやはや、さすがというほかない、今回はフェラーリブランドの圧倒的な実力を見せつけられる試乗となった。

●Ferrari Purosangue
 フェラーリ プロサングエ
・車両価格(消費税込):4760万円
・全長:4973mm
・全幅:2028mm
・全高:1589mm
・ホイールベース:3018mm
・車両重量:2033kg
・エンジン形式:V型12気筒DOHC
・排気量:6496cc
・変速機:8速AT(デュアルクラッチ式)
・最高出力:725ps/7750rpm
・最大トルク:716Nm/6250rpm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)ダブルウイッシュボーン式、(後)ダブルウイッシュボーン式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)255/35R22、(後)315/30R23