日本を旅していると、「これまでなぜこの素晴らしい場所を知らなかったのだろう!」と衝撃を受けることがあります。日本酒を新たなラグジュアリーの高みへと昇華させた「リンク8」の里もそんな町でした。超メジャーな観光地とは一線を画す、密度の濃い体験が待っている場所。富山、北陸、そして日本の魅力を再発見させてくれる、富山市岩瀬地区をご案内します。

●酒造りの情熱が繋いだ、日本酒とウイスキーの幸せな縁

 富山駅から車に乗ること15分。路面電車ライトレールなら約20分。神通川と富山湾に並ぶように広がっているのが富山市の岩瀬地区です。食の世界で「富山が熱い」と噂には聞いていましたが、なかでもここは、特に注目されているという知る人ぞ知る美食エリア。決して広くない地区に飲食店はもちろん、酒蔵、食を支える食材店、陶器やガラス工芸の工房などが集まっています。

 岩瀬地区は、江戸時代から北前船により隆盛を極めた港町。歴史的な町並みが当時の風情を今に伝えています。その中心にあるのは、1893年創業の富山を代表する蔵元「桝田酒造店」。現社長の桝田隆一氏は、“吟醸酒のパイオニア”とも称されるこの蔵元の五代目当主です。

「美味しいものを知らなければ、美味しいお酒を造れない」という「美味求眞」をモットーの象徴とも言えるのが、国内外で高い評価を得ている「満寿泉(ますいずみ)」。

 その銘酒の里であり、食材の宝庫でもある富山で、食と調和し味を引き立てる酒を追求し続ける社長の思いが、これまでにない“新しいラグジュアリーの極み”としてカタチになったのが、うれしい驚きに満ちた日本酒「リンク8」です。

樽出しの「リンク8」をいただくと、日本酒のさらなる可能性が感じられました。

「リンク8」は、桝田社長が、スコットランドはキースにあるストラスアイラ蒸留所で、名酒「シーバスリーガル」の元マスター・ブレンダーのコリン・スコット氏と出会ったことから生まれました。

 数種類の異なる酒米に、数種類の酵母で発酵させた原酒をブレンド。さらに、スコッチウイスキーのシングルモルトの熟成に3回ほど、およそ18年以上使用され、そのエキスがたっぷり染みこんだ熟成樽で10カ月以上熟成させています。

「シーバスリーガル」は、1801年に歴史をスタートさせたスコッチウイスキーの象徴とも言えるトップブランド。そのDNAである“アート・オブ・ブレンディング”(ブレンドの芸術)と、富山の銘酒「満寿泉」の職人技が出会い、全く新しい美味が誕生したのです。

 ウイスキー樽の風味に負けないパワフルな日本酒の元となったのは、力強い旨みと個性を持つ酒米「山田穂」。さらに、その古酒もブレンドすることで、深みのあるドライフルーツのような香りと甘みも表現されているとか。そこに、ふくよかな樽香りが加わることで、香りも味も豊かかつ複雑になったと言います。

 実際にグラスに注いでいただくと……。クリアながらほのかな黄味色が、飲む前から深い味わいを期待させてくれます。そして、ひと口。口当たりやファーストインプレッションは確かに米を感じる日本酒ですが、すぐにそれとは明らかに違うバニラ系の樽香と、ナッツや洋梨を感じさせるクリーミーな味わいが口いっぱいに広がっていきます。

 余韻が長く、蜂蜜やいちじくを思わせる華やかなアロマはまるでウイスキー。もはや、日本酒か洋酒かとジャンルを問うのも無粋な気がしてくるほどの「美酒」なのです。

 名前につけられた“リンク“という言葉が表現するのは、尊敬と友情、伝統、職人技、高品質と酒造りへの熱意という、2ブランド共通の豊かな価値観を繋ぐ“架け橋”。「リンク8」そのものが、幸せな融合の結晶なのです。

 キャップとボトルには、4つの「8」が重ねられています。これは、日本の禅庭の波、スコットランドの古い装飾「ケルティックノット」を象徴するもので、二つの文化の繋がりも表現。さらに、「シーバスリーガル」のストラスアイラ蒸留所と富山市の距離「8,888km」を表わしています。

 今回は、桝田酒造店の酒蔵にもおじゃまし、「リンク8」に使用する酒米「山田穂」の生酒と火入れした原酒、そして、シーバスリーガルの樽で熟成した「リンク8」を樽出しでテイスティング。原酒でも爽やかで十分に美味しいのですが、樽熟成することで、味や色が深まっているのを体感できました。

 さらに、桝田社長おすすめの沖縄のチーズと「リンク8」とのペアリングを試してみると、またしても驚きが。そのままいただいたときより少し甘さが強調された口当たりに、「これは本当に先ほど頂いたお酒と同じですか?」と伺ったほど。

 一緒にいただくものの味を引き出しながら、自らの味わいの印象も変えていくこの日本酒の懐の深さを実感。お料理とのペアリングがますます楽しみになりました。

●富山の旬に、これでもかというほどまみれる。そんな幸せなひとときを

 この日、旬を豪勢に味わうために向かったのは、「御料理 ふじ居」。ここは、ミシュラン2つ星の名店。富山の恵みを味わえる懐石コースと「リンク8」とのペアリングを楽しめます。

 筆者がお邪魔した早春は、ホタルイカのシーズン。沖漬け、茹でたて釜揚げポン酢あえ、炭火焼でさっと焼きとしっかり焼きの食べ比べ、なばなの土鍋飯と一緒にいただくなど、バリエーション豊かに旬の味を満喫。これを目当てに訪れる人も多いというホタルイカは、GW頃までいただけるそうです。

鮮魚店を営む父の背中を見て育った藤井さん。魚を見極める目が確かなのは、お料理をいただけばわかります

 その他にも、贅沢に3種をいただく「富山湾めじマグロ 塩すだち 山葵醤油」、春が薫る「八尾の絹漉し豆富の木の芽味噌田楽」、皮が香ばしい「富山湾桜鱒、炭火焼き」、甘みたっぷり「富山湾、新港漁港の本ずわい蟹」、ぷりぷりの「蟹出汁のしゃぶしゃぶ」、濃厚な旨みの「蟹身のカニ味噌がけ」、滋味深い「富山の月の輪熊と、氷見のうどんの熊うどん」などで富山の幸まみれに。

 それらを「リンク8」といただくのですが、お料理には桝田酒造店の仕込み水を使っているというのですから、合わないわけがないのです。

 テイスティングで感じたように、「リンク8」は、食前酒、食中酒、食後酒と通していただいても、全く飽きることがありません。

 お酒自体の味はしっかりしていて、つまみなしでも満足できる主役級の存在であるにもかかわらず、料理と合わせるとその引き立て役も喜んでかって出る。

 その様子は、野球のWBCで一人何役もこなし、単身でスターの風格を漂わせながらも、優勝に私欲を廃して貢献した大谷翔平のようでもあり、ときにはソロで、ときにはオーケストラで名演を実現させる音楽家のようでもあるのです。

 東京の調理学校で学び、金沢、京都で修行したという店主の藤井寛徳さんは、「富山は港と漁場が近いので、魚介がとにかく新鮮なまま届くのが魅力」なのだと、帰郷して店を開いた理由を教えてくれました。

 さらには、食材の魅力を活かす才能をのびのびと発揮でき、多彩なチャレンジも受け止めてくれる岩瀬地区の大らかさに惹かれて、ここに出店を決意したそう。

 なるほど、大胆さと繊細さを併せ持つお料理、そして食を最大限に楽しむためのプレゼンテーションなど、藤井さんの創造力が存分に活かされていることを感じるひとときでした。

●期待を遙かに超える、知る人ぞ知る美酒と美味の里

 まるで美酒に吸い寄せられるように、「御料理 ふじ居」をはじめ、北陸ミシュランに掲載されている星つきレストランが6軒も集まっている岩瀬地区。きっかけは、数年前に町並みが修復され始めたため。景観が美しく整うことで人が集まる。

 そんな風に、岩瀬地区の再生をすすめている人こそが、桝田社長。美味しい酒と美味しい料理、それらを彩る美しい器、楽しい時間を豊かにするアート、さらには美食体験を包み込む風情ある町並みまで、地区全体でダイナミックなマリアージュを実現させているのです。

GAKU ceramics:陶芸家 釋永岳氏のギャラリー。漆のような色と質感が表現された美しい器は、岩瀬地区のレストランで今日も、ジャンルを問わずお料理を引き立てています/[住所] 富山県富山市東岩瀬町146

 全てのお店を訊ねることはできませんでしたが、日本酒と共にそば懐石が楽しめる「くちいわ」、喫茶スペースで桝田酒造店のお酒や氷見はSAYSFARMのワインを岩瀬拠点の作家たちの器でいただける「つりや東岩瀬」など、今回覗かせていただいたお店すべてが、日本らしい洗練とホスピタリティに溢れる居心地の良い空間がしつらえられていました。

「ぜひ再訪したい」「今度はこちらのお店でも、あちらのお店でもゆっくりしたい」と感じました。筆者は日帰りでかなり後悔したので、旅のプランを立てる際は、ぜひ最低でも1泊は予定してみてください。

 日本を旅していると「どこへ行っても、驚きの美味がある」と実感しますが、裏を返せば、この国には探索すべき素敵な場所がまだまだあるということ。富山県の岩瀬地区は、明らかにその筆頭。

 街全体が、ハイエンドなクリエーションに包まれていて、町歩きもとにかく楽しい。わざわざ訪れる価値ありのこの街は、期待を遙かに超える、知る人ぞ知る“美食天国”だったのです。