マツダの創立100周年を機に、大幅にリニューアルされた「マツダミュージアム」。その一角に、かつてモーターショーで大反響を呼んだ美しいスポーツクーペ「RX-VISION」が展示されています。その市販化は叶わぬ夢なのか? 現状を探ってみました。

マツダミュージアムに鎮座する美しいロータリースポーツ

 マツダの本社工場に隣接している、マツダ車に関する博物館「マツダミュージアム」。そこに、2015年の東京モーターショーで公開されて大反響を呼んだコンセプトカー「RX-VISION(RXビジョン)」が展示されています。

 マツダの創立100周年に合わせて大リニューアルを受けたマツダミュージアムの展示スペースは10のテーマに分かれており、その最後のコーナーとなるのが「TOWARD THE NEXT 100 YEARS〜人と共に創る〜」。ここはマツダの“これから”をイメージしたスペースで、美しいコンセプトカーが目を楽しませてくれます。

 並べられているのは、大人気のカーシミュレーターゲーム『グランツーリスモ』とのコラボレーションから生まれ、2015年の東京オートサロンで実車がお披露目された「LM55 ビジョン グランツーリスモ」や、RX-VISIONや「VISION COUPE(ビジョン クーペ)」といったかつて東京モーターショーで公開されたコンセプトカーです。

 それぞれお披露目されてから5年以上の時間を経ていますが、その輝きは今なお失われていません。それどころか、あらためて見ても息をのむほどの美しさを保っています。この3台を見るだけでもマツダミュージアムを訪れる価値があるといっても過言ではありません。

「マツダは市販車に結びつかないコンセプトカーはつくりません」。筆者はかつてマツダの関係者から、コンセプトカーに関するそんな方針を聞いたことがあります。

 例えば、2010年のロサンゼルスオートショーで公開された「靭(SHINARI)」は、2011年の東京モーターショーで現実に即したコンセプトカー「雄(TAKERI)」となり、その後、2012年に「アテンザ」として市販されました。

 また、2017年に公開されたハッチバックのコンセプトカー「魁CONCEPT(KAIコンセプト)」は、2019年に新設計プラットフォームを用いた新世代商品群の第1弾「マツダ3」として市販化されています。

 このようにマツダのコンセプトカーは、市販車を到達点に見据えたモデルであることが慣例になっているのです。では、RX-VISIONやVISION COUPEも市販される日が来るのでしょうか?

数々の特許出願ーーRX-VISIONの開発は現在進行形!?

 LM55 ビジョン グランツーリスモは架空の世界のレーシングカーをイメージしたマシンに過ぎませんが、RX-VISIONやVISION COUPEはその完成度の高さから、なんらかの市販車を示唆したモデルであることは明白です。

 ここからは、マツダファンならずとも気になるRX-VISIONやVISION COUPEの未来を、筆者の推測も交えながら深掘りしたいと思います。

残念ながら開発はストップしていると推測されるマツダ「VISION COUPE」

 まずVISION COUPEですが、こちらは残念ながら現在、市販化プロジェクトは止まっているようです。

 このモデルはクーペといいながら、2ドアではなくエレガントな4ドアクーペスタイルを採用。2017年の公開当時は、近い将来登場する大型モデルの方向性として、当時のマツダの市販車には存在しなかった“後輪駆動プラットフォーム+直列6気筒エンジン”の組み合わせをマツダは提唱していました。

 そんなVISION COUPEは、ふたつの役割を持つコンセプトカーでした。ひとつは後輪駆動+直列6気筒エンジンという次世代アーキテクチャーを世に知らしめること。そしてもうひとつが次世代デザインの提案です。それは、マツダの次世代フラッグシップセダンを想起させるもので、アテンザ、現在の「マツダ6」の“未来のカタチ”をイメージしたコンセプトカーだったと思われます。

 しかしその後、セダンを取り巻く状況はガラリと変わってしまいました。SUV人気の拡大により、日本だけでなくラージセダンのメインマーケットと考えられていた北米でも市場が急激に縮小。一方、各自動車メーカー内では、市場規模がますます拡大するSUVに開発資源を集中するという大きな転換が起きました。

 その結果、後輪駆動プラットフォーム+直列6気筒エンジンを組み合わせる“ラージアーキテクチャー”を活用したマツダ車は、次期マツダ6ではなく「CX-60」に始まるラージSUVシリーズとして誕生。現時点では、マツダ6のフルモデルチェンジは予定されていません。

 もしもマツダ6に次期モデルが登場する場合、そのルックスはVISION COUPEのそれを踏まえたものになるでしょう。しかし現時点では、残念ながら白紙の状態です。

迫力と美しさを兼ね備えたマツダ「RX-VISION」

 では、2015年に公開されたRX-VISIONはどうでしょうか?

 マツダは当時、RX-VISIONを「マツダブランドの魂を宿す、いつかは実現したい夢」と説明しています。「世界一美しいFR車のプロポーションをつくりたい」という意気込みとともに、「ロータリースポーツコンセプト」というキャッチコピーを掲げていることからも明らかなように、搭載を想定するパワーユニットはマツダの魂ともいえるロータリーエンジン。「RX-8」を最後に途絶えてしまった「RX」シリーズの復活を期待させるモデルです。

 そんなRX-VISIONを、筆者は当時「発売の見込みが全くない夢のモデル」と、とらえていました。しかし、マツダ関係者に話を聞いているうちに、「そうとも限らない」と思うようになりました。もちろん、気軽に買える価格帯のモデルではないでしょうが、先の関係者は「市販化を考えていないわけではない」というのです。

 事実、RX-VISIONに関しては、まるでレーシングカーのようなスペースフレームを持つ“車両前部構造”を始め、“リアのアクティブスポイラー”、“トランスアクスル方式の駆動系”など、他のマツダ車に使われるとは到底思えない技術特許が多数申請されています。なかには、つい最近出願されたものもあり、現在進行形で開発が進んでいる様子がうかがえます。

 もしも市販される際には、例えばレクサス「LC」のように1000万円を軽く超える少量生産のフラッグシップ・スポーツクーペになることだけは間違いありません。その場合、原動機としてのロータリーエンジン復活も期待できるでしょう。実際、燃費を向上させるべく、電気モーターを組み合わせたパワートレインの開発を進めているとの情報もあります。

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 燃費や騒音に対する規制がどんどん強化され、スポーツカーを取り巻く環境は厳しくなる一方です。そのため、RX-VISIONの市販化プロジェクトが仮に進んでいたとしても、いつ休止に追い込まれるかわかりません。しかし、マツダの夢を実現するモデルとして、RX-VISIONの市販化には大いに期待したいところです。