伊・マセラティの2代目となる新型「Gran Turismo(グラントゥーリズモ)」は、内燃機関モデルに加え、ブランド初となる100%電動モデル(EV)の「フォルゴーレ」を用意しています。イタリア本国で試乗しました。

マセラティが開発した初のEV「フォルゴーレ」も用意する

 新型「グラントゥーリズモ」は、マセラティが作り上げた次世代のスポーツカーだ。

 そのことを端的に示しているのが、同じボディでエンジン車と電気自動車(EV)の2タイプを用意した点にある。

 エンジン車のフロントに搭載される3.0リッターV6エンジンも、最新のF1パワーユニットと同じ副燃焼室方式を採用するなど見どころは多いのだが、それ以上に注目されるのが「フォルゴーレ」と呼ばれるEV版で、最高出力が408psのモーターを前後あわせて3基も搭載! 計算上は1224psものパワーを発揮できるモンスターマシンなのだ(ただしバッテリー出力などの関係で、実際の最高出力は761psに制限される)。

 フォルゴーレについてもう少し詳しく説明すると、3基のモーターはフロントに2基、リアに1基がレイアウトされ、フロントの左右輪は片側1基のモーターで独立して駆動される。勘のいい読者であればすでにお気づきのとおり、これは左右輪で駆動力に差をつけることで、ハンドルを切らなくてもクルマが曲がろうとする力を生み出すトルクベクタリングと呼ばれる機構。重くなりがちなEVで軽快なコーナリング性能を実現させるためのテクノロジーと捉えていいだろう。

 同様の考え方は、2代目ホンダ「NSX」やフェラーリ「SF90ストラダーレ」といったハイブリッドスポーツカーでも採用されたが、量産モデルのEVでこれを採り入れたのは、おそらくグランツーリズモが初めて。しかも、グラントゥーリズモ・フォルゴーレはマセラティが開発した初のEVである。

 こんなところにも、マセラティの先進性とグラントゥーリズモにかける彼らの意気込みが表れているような気がする。

 今回は、イタリア・モデナのマセラティ本社に2台のグラントゥーリズモ(エンジン車とフォルゴーレ)を揃え、それらを私がまるまる1日独占できるという、実にぜいたくな機会を用意してもらったので、まずはトロフェオと呼ばれるエンジン車のトップグレードから試乗することにしよう。

 前述した副燃焼室式V6エンジンはマセラティ自身が独自に開発し、モデナにあるマセラティの工場で生産されるオリジナル・ユニット。

 かつてマセラティのトップグレードにはフェラーリ製V8エンジンを搭載するのが慣わしとなっていたが、マセラティがフェラーリ傘下を離れてステランティス・グループの一員になったことを受け、自分たちの手でゼロから開発したのがこのネットゥーノ・エンジンだった。量産車として初めてF1由来の副燃焼室方式を採用したのも、フェラーリV8に負けない魅力を備えるためと考えていただければいいだろう。

 同じエンジンは、2020年に発表されたミッドシップ・スポーツカーの「MC20」にも搭載されているが、グラントゥーリズモでは潤滑方式をウェットサンプにするとともに、出力特性などを見直したうえでフロントに搭載。8速ATと電子制御式油圧多板クラッチを介して4輪を駆動するドライブトレインとされた。ボディ骨格にアルミを多用したトロフェオの車重は1795kg。そして550psの最高出力と650Nmの最大トルクにより、最高速度が320km/h、0-100km/h加速は3.5秒を達成したハイパフォーマンスカーである。

エンジン車だけでなくフォルゴーレにもマセラティらしさはある?

 トロフェオでモデナの街並みを走り始める。

マセラティ新型「グラントゥーリズモ トロフェオ」を試乗する筆者の大谷達也氏

 乗り心地は少し硬めだが、サスペンションの動き自体が素直なうえ、ボディ剛性が高いのでイヤな感じは一切しない。

 それどころか、この少し硬めの足回りがマセラティらしい機敏で正確なハンドリングを実現。しかも直進性が素晴らしいから、高速道路を走っていてもリラックスしてステアリングを握っていられる。

 同様にしてコントロール性が高いので、イタリアの郊外によくある狭い一般道でのすれ違いでも不自由することはなかった。グランツーリズモの全幅が1957mmもあることを考えれば、これは異例のことといっていい。

 MC20がそうだったように、グラントゥーリズモでもネットゥーノ・エンジンは軽快なスロットルレスポンスを発揮。しかも低速域のトルクも十分なので、とても扱い易い。

 最高出力550psと聞いて想像される「神経質さ」とは無縁の、とても洗練されたパワーユニットだ。

 もうひとつ、このエンジンの魅力といえるのが、V6エンジン特有の、歯切れのいいビート感である。

 それも、いつまでも聞いていたくなるような音質と音量でドライバーの心を潤してくれる。決して刺激的なスポーツカーではないのに、どれほど走っても退屈させることなく、しかも疲れることがないのは、このエンジン音に大きな秘密が隠されているような気がする。

 ところで、新型グラントゥーリズモは、いまも述べたようにアドレナリンがあとからあとから湧き出してくるような刺激的なクルマではないけれど、ワインディングロードでは、正確なハンドリングと優れたドライバビリティにより安心してスポーツドライビングが楽しめる。おそらくサーキットに持ち込んでもかなりのコーナリング性能を発揮してくれるはずだが、そういうパフォーマンスを決してひけらかすことのない上品さもまた、マセラティらしいキャラクターといえる。

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 もう1台のフォルゴーレは、こうしたグラントゥーリズモの基本的なキャラクターをベースとしながら、EVらしい低速域での圧倒的なトルク感や優れた静粛性が魅力的。

 冒頭で触れたトルクベクタリングに関しては、自然な仕上がりなので明確な効果を感じることはなかったが、開発を担当したエンジニアによれば、滑りやすい路面やサーキットなどでの限界的なコーナリングでは、その効果が顕著にあらわれるという。

 もっとも、フォルゴーレでワインディングロードを走ってなにより印象的だったのが、アクセルペダルのオン/オフで自然な荷重移動を生み出し、これによってコーナリングラインを微調整できる点にあった。

 一般的にEVは大量のバッテリーをフロアの低い部分に広く敷き詰めているために重心が低く、それゆえに荷重移動を生み出しにくい傾向が見られた。エンジン車のスポーツドライビングに慣れたドライバーにとって、これはやや不自然に感じられるはずだが、グランツーリズモ・フォルゴーレは意のままに操るのが容易。その意味でも、マセラティらしいスポーツEVであると感じた。

 いずれにしても、最新のグラントゥーリズモに試乗して強く感じたのは、従来のマセラティに比べてハードウェアの完成度やクォリティ感が飛躍的に向上するとともに、デザインの純度が高くて極めて美しい点にある。こうした印象はMC20や「グレカーレ」にも共通するもの。電動化という目新しさだけでなく、クルマの本質的な価値が著しく向上しているという面でも、現在のマセラティが変革期にあるのは間違いなさそうだ。

マセラティ新型「グラントゥーリズモ トロフェオ」

Maserati GranTurismo TROFEO
マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ

・全長:4959mm
・全幅:1957mm
・全高:1353mm
・ホイールベース:2929mm
・車両乾燥重量:1795kg
・エンジン:V型6気筒ターボ
・エンジン排気量:2992cc
・駆動方式:4WD
・0−100km/h加速:3.5秒
・最高速度:320km/h

マセラティ新型「グラントゥーリズモ フォルゴーレ」

Maserati GranTurismo FOLGORE
マセラティ グラントゥーリズモ フォルゴーレ

・全長:4959mm
・全幅:1957mm
・全高:1353mm
・ホイールベース:2929mm
・車両乾燥重量:2260kg
・電動機:3モーター
・モーター最高出力:761ps
・最大トルク:1350Nm
・総電力量:92.5kWh
・一充電走行可能距離(WLTC):450km
・駆動方式:4WD
・0−100km/h加速:2.7秒
・最高速度:325km/h