ボルボは2030年までに完全な電気自動車(BEV)メーカーになると宣言しています。現在、日本では「C40リチャージ」「XC40リチャージ」という2車種のBEVを展開していますが、その1台XC40リチャージに改めて乗り、BEVの走りを体感してみました。

ボルボは2030年までに完全なEVメーカーになるという戦略

 ボルボの電動化戦略は他メーカーより早く、2020年以降の新型車はすべて電動化すると早々に宣言しました。

 電動化といっても最初はMHEV(マイルドハイブリッド)、PHEV(プラグインハイブリッド)で、BEV(100%バッテリーEV=電気自動車)が登場したのは2022年でした。しかしその後の追い上げはすごく、2025年には40%をBEVに、2030年は100%BEVにする計画を掲げています。

 そんな電動化スケジュールの中で、BEVの比率をそんなに急に高められるのは、ボルボの年間生産台数が約70万台程度だからです。

 今ではBEVの生産に欠かせない希少な金属をどう手に入れるかを各カーメーカーが競っています。

 トヨタが生産台数の35%をBEVにすると言っていますが、その数は350万台にのぼります。ボルボが100%BEVにしても70万台ということは、レアメタルの調達に関してはトヨタより楽にできるはずです。つまりボルボの規模は、さまざまなことに躊躇なくチャレンジできるカーメーカーとしてちょうど良い企業の大きさということだと思います。

 今回、改めて試乗したのは、ボルボとして初めて世界デビューしたBEV、「XC40 Recharge Ultimate Twin Motor(XC40リチャージ アルティメート・ツインモーター)」です。

 新時代の乗り物らしさは、まずは運転の仕方に表れています。

 ドアを開けてクルマに乗り込みます。シートポジションを合わせて、シートベルトを装着すれば出発準備完了です。つまりセレクターレバーをDレンジに入れて、アクセルペダルを踏み込めば走り出すのです。スイッチをオンにしなくてはダメでしょ!というのはエンジン付き車の常識ですが、BEVではこのような運転ができます。

 ドライブが終わってクルマから降りるときには、走り終わってDレンジかRレンジに入れたまま、シートベルトを外し、ドアを開ければ自動的にPレンジに入って、電源はオフになります。こういうことができるのもBEVならではかもしれません。またこれから増えていくBEVも多かれ少なかれこのような運転スタイルになっていくことでしょう。

 新しい動力源としてのバッテリーEVですが、走りは意外に気持ちが良いのです。

 アクセルペダルを踏み込んでいくと、その動きに遅れなく加速が始まります。電気モーターはほぼゼロ回転から最大トルクを発揮することができます。ボルボXC40はアクセルペダルに対するゲイン(反応)は過敏ではないので、穏やかでスムーズな走りができますが、突然床までアクセルペダルを踏み込んだとしたらヘッドレストに頭を打ちつけるほどの加速力を発揮することも可能です。

 とくに今回の試乗車はツインモータ−という、前後軸にモーターが付いているAWDなので、ホイールスピンすることなくそのまま加速していくからです。

BEVの走りのメリットと今後、解決すべき課題とは?

 現代のエンジンの多くは、排気量を小さくしてターボチャージャーで過給していますが、エンジン回転数が低いときにはアクセルレスポンスは一歩遅れる傾向があります。

 しかし電気モーターは遅れなく反応するので気持ちよく走れます。これがBEVの大きなアドバンテージだと思います。

電気自動車(BEV)のボルボ「XC40リチャージ」。WLTCモードでの一充電航続可能距離は484km

 2024年モデルからは、日本に導入されるXC40リチャージはAWDではなく後2輪駆動になります。

 それでもFWDでないので発進時にアクセルペダルを深く踏み込んでも、さほどホイールスピンせずに力強い加速は可能です。それが後輪駆動のメリットです。その準備として、すでに後輪の方が幅の広いタイヤを履いています。

 走行中にCO2の排出はなく、アクセルレスポンスも良く走りやすければ、良いことだらけのような気もします。

 しかし、最初にお話しした、製造するときのレアメタルの供給の問題は、BEVの製造が増えれば増えるほど大きな障壁になります。この解決策としてはレアメタルを使わないバッテリーが作れるかが鍵になります。全個体電池もその解説策のひとつといわれていますが、実用化までには温度による容積変化が大き過ぎるなど、まだまだ大きな難関があるようです。

 さらに電気の供給がうまくできるかということも、BEVが増えていくためには解決していかなければならない問題です。

 それは走行中にCO2の排出がなくても、火力発電によってCO2を出しながら電気を作っていれば、カーボンニュートラルとは言えないからです。つまり風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電気が必須になります。

 もちろん原子力発電もCO2を発生せずに電気を得られますが、今の日本でこれから各地に原発を作るのはなかなか難しいテーマです。

 こうしたBEVの逆風は日本だけでなく、欧州でも問題になっています。欧州委員会が2035年以降はエンジン付きのクルマは販売できないルールにしようとしていましたが、ドイツ勢が反対の狼煙をあげて話し合いを続けてきました。結果としてeフューエルというカーボンニュートラル燃料ならエンジン車でも良いということになりました。

 回収したCO2を入れたガソリン用とディーゼル用燃料を使ってエンジン車を走らせることで、結果的にCO2を新たに発生しないという考え方を認めたわけです。

 まだ価格はガソリンの5倍くらいと高価ですが、生産方式などによりコストダウンが可能なようです。eフューエルはこれまでのガソリンスタンドやタンクローリーなどの供給網が使えるし、エンジン車も使えることになればさまざまな可能性が出てきます。

 それが普及したとしても、BEVは次世代のクリーンなパワートレインとして必要なものです。ボルボはそんな状況のなかでBEVだけを供給する会社に徹するようになるかもしれません。

ボルボ「XC40リチャージ」

Volvo XC40 RECHARGE ULTIMATE TWIN MOTOR
ボルボXC40リチャージ アルティメート ツインモーター
・車両本体価格(消費税込):739万円
・全長:4440mm
・全幅:1875mm
・全高:1650mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:2150kg
・電動機:EAD3−EAD3
・モーター最高出力:408ps/4350−13900rpm
・最大トルク:660Nm/0−4350pm
・総電力量:78kWh
・一充電走行可能距離:484km
・交流電力量消費率(WLTC):188Wh/km
・駆動方式:4WD
・変速機:1段固定式