人気モデルへと返り咲いたトヨタ新型「プリウス」。そのPHEV仕様を公道で試乗することができました。実際にステアリングを握ってみて驚いたのは、フツーのバイブリッド版との違いが大きかったこと。果たして新型「プリウスPHEV」はどんな実力の持ち主なのでしょう?

HEVとPHEVの概念を打ち破る新型「プリウスPHEV」

 HEV(ハイブリッドカー)の代名詞的存在ともいうべきトヨタ「プリウス」。そのPHEV(プラグインハイブリッドカー)仕様である「プリウスPHEV」の新型を試乗したところ、HEV版との違いの大きさに驚きました。

 HEVは走行中、エンジンを使って発電し、モーターを動かすための電気を獲得しています。それに対してPHEVは、電源ケーブルを介して外部からバッテリーへと充電することも可能。この外部充電機構を活用することで、PHEVはエンジンを始動させることなくモーターだけで数十kmほどの距離を走行することができるのです。

 つまり、近距離移動はEV(電気自動車)感覚で、長距離ドライブは一般的なHEVと同じノリで走行できるのが、PHEVの美点。まさにEVとHEVを“いいとこ取り”したクルマなのです。

 トヨタの新型プリウスは、ひとつのボディにHEVとPHEVの双方をラインナップしています。今回、公道で2台を比較試乗したところ、差異が想像していた以上に大きいことに驚きました。PHEVは単に、エンジンを始動させずに走れる距離が長いだけのクルマではなかったからです。

 ここからはそんな、新型プリウスのHEVとPHEVの違いについて深掘りしていきたいと思います。

●モーターだけでの航続距離は先代比75%アップ

 走り始めてまず感じたのは、動力性能の違い。同じ感覚でアクセルペダルを踏んでみたところ、PHEVの方がより力強く加速していくのです。しかも、PHEVの加速はなめらかで、速さもHEVより格上。ガソリン車に例えるなら、同じ車体にひと回り大きなエンジンを積んだかのような力強さです。

 実は、新型プリウスPHEVは、HEV版よりも強力なモーターを搭載しています。それは、「ハリアー ハイブリッド」などが搭載する2.5リッターHEVと同じモーターで、システム最高出力は223psを発生。プリウスHEVのそれは196psですから、14%ほど出力がアップしています。

 加えて、モーターだけで走れる速度の上限は、高速道路の制限速度を超える135km/hに設定。実際、高速道路では、エンジンを止めた状態でクルージングを楽しむことができました。

 このように、外部充電にも対応する大型バッテリーを、航続距離の延長だけでなく、モーターの出力アップにも活用することにより、新型プリウスPHEVはHEV版よりも動力性能のゆとりがアップ。これだけでも、HEV版とはまるで違うクルマであると実感させてくれます。

 その上、新型プリウスPHEVは、先代モデルに対してバッテリー容量が約1.5倍にアップ。モーターだけで走れる距離がより長くなりました。気になる航続距離は、17インチタイヤ装着車で従来比75%アップの105kmを達成。つまり、日常的な使用シーンでは、ほぼエンジンを始動させることなく移動することができるのです。

PHEVのエンジンとシャシーはHEV版とは別物

 もちろん状況によっては、135km/h以下でもエンジンが始動することがあります。そんなシーンにおいて感心させられたのは、エンジンが始動した際のスムーズさでした。

 エンジンがいつ始動したのか、メーターを見ていないと分からないほどのスムーズさ。しかも何より驚いたのは、エンジンが始動してもエンジン音が聞こえてこないことでした。

HEV版に対してモーターでの航続距離を伸ばしただけでなく、走りの力強さと快適性も格段に引き上げたトヨタ新型「プリウスPHEV」

 新型プリウスのHEVは、エンジンが始動すると当然のようにエンジンの音が聞こえてきます(決してうるさくは感じませんが)。しかし、新型プリウスPHEVは、エンジンを積み忘れたかのように、ほぼ無音なのです。まるでエンジンをかけず、常時モーターだけで走っているかのようでした。

 エンジンが始動しても静かな理由は、「遮音材などを増やして静粛性を高めているのだろう……」と思いきや、そうではありませんでした。実はエンジン自体に秘密があったのです。

 エンジンの基本構造はHEV版のそれと同じですが、新型プリウスPHEVは“バランスシャフト”という機構を追加してエンジンの振動を低減。エンジン音が発生しづらく、もし発生しても乗員には伝わりにくい、というカラクリです。快適性にとってこれは、大きなアドバンテージにほかなりません。

 余裕が増した動力性能に、明確に向上した快適性……。HEV版と乗り比べれば、すぐにメリットを実感できる新型プリウスPHEV。そんなPHEV版には、さらにもうひとつ優れた部分がありました。それはドライブフィールです。

 新型プリウスPHEVは、路面の段差を乗り越えた際に生じる車体の揺れがすぐに収まり、走行中、車体がグラグラしません。その上、足回りがバタつく感覚もHEV版より少なく、いわゆる“フラットライド感”に優れています。いうなれば、HEV版よりも走りの質感が高いのです。

 実は、新型プリウスPHEVのシャシーは、リアフロアの構造がHEV版とは異なっています。開発者によると、「車体構造が異なるからといって、剛性が高くなっているわけではありません」とのこと。それよりも、「大型バッテリーを搭載することで増した車両重量をハンデとすることなく、むしろメリットとなるように走り味をつくり込んだ」といいます。

 そうした開発陣の努力やこだわりが効いているのでしょう。新型プリウスPHEVの走り味は文句なしに上質です。

PHEVはかつての「マジェスタ」のような存在

 振り返ってみると、先代プリウスまでのPHEV版は、極論すると、「HEV版に対してモーターのみで走れる距離が長いだけ」という存在でした。しかも、HEV版も燃費が良好だったため、PHEVを積極的に選ぶ理由を見つけにくかったのも事実です。

HEV版に対してモーターでの航続距離を伸ばしただけでなく、走りの力強さと快適性も格段に引き上げたトヨタ新型「プリウスPHEV」

 しかし、新型プリウスPHEVは、燃料消費量がHEV版よりも少ないのは当然のこととして、パワフルで静か、その上、乗り味が上質という走りを実現してきました。HEV版と比較すると、動力性能も快適性もひとクラスから、ふたクラスほど上、といった仕上がりなのです。

 試乗中、同乗していた編集者が、「HEV版が『クラウン』だとすれば、新型プリウスPHEVは(クラウンの上級仕様として存在していた)『クラウン マジェスタ』のような存在だ」と評していたのですが、まさにいい得て妙だと思いました。

 それくらい、同じボディを採用しながらも、新型プリウスPHEVは中身と乗り味が明らかにグレードアップしているのです。“より上級のプリウス”、それが新型プリウスPHEVだと強く実感しました。

 PHEVのメリットをフルに引き出すなら、自宅に充電環境が整っていることが必須でしょう。しかし、万一そうでなくても、筆者はHEV版よりプリウスPHEVの方を選びたくなりました。それくらい新型プリウスPHEVは、魅力的に仕上がった1台なのです。

●TOYOTA PRIUS PHEV Z
 トヨタ プリウスPHEV Z
・車両価格(消費税込):460万円
・全長:4600mm
・全幅:1780mm
・全高:1430mm
・ホイールベース:2750mm
・車両重量:1570kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHC+モーター
・排気量:1986cc
・変速機:電気式無段変速機
・エンジン最高出力:151ps/6000rpm
・エンジン最大トルク:188Nm/4400〜5200rpm
・モーター最高出力:163ps
・モーター最大トルク:108Nm/400rpm
・駆動方式:FWD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)ダブルウイッシュボーン式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前)195/50R19、(後)195/50R19