アルファ ロメオのコンパクトSUV「トナーレ」に、プラグインハイブリッド仕様が登場しました。おなじみ“ヘビのマーク”も専用の電動車仕様となっています。アルファ ロメオの電動化の新章を切り拓くこのモデルは、果たしてどんな走りを味わわせてくれるのでしょうか?

ジープ「レネゲード」のメカをよりスポーティ仕立てに

 アルファ ロメオ「トナーレ」は、ブランド初の電動化モデルとして2022年にデビューしました。そのドライブフィールは、マイルドハイブリッド(以下、MHEV)ながら確かに電動化のメリットを感じさせてくれるものでしたが、それよりも鮮烈なハンドリングフィールで運転そのものを楽しませてくれる、実にアルファ ロメオらしいSUVだと感じました。

 そんなMHEV版から遅れること数か月。プラグインハイブリッド版(以下、PHEV)が日本にようやく上陸しました。正式な車名は、MHEV版の「トナーレ」に対し、「トナーレ・プラグインハイブリッドQ4」。そんなアルファ ロメオの電動化の新章を拓くPHEVモデルに、先日、試乗することができました。

 トナーレPHEVのシステムは、いうまでもなくMHEV版のそれとは大きく異なります。MHEVがエンジンとデュアルクラッチ式ATの間に48Vのモーターを挟み込んだ前輪駆動となるのに対し、PHEV版はエンジンが前輪を、リアアクスルにマウントされたモーターが後輪を駆動する4WD。フロントにも小さなモーターを持ちますが、そちらは主に回生用です。

 それらは統合制御され、モーターのみで走らせるのか、エンジン+モーターで走らせるのか、その駆動力配分はどうするのか、などをコントロールしています。実はこのシステム、同じステランティスグループに属すジープ「レネゲード」に先行採用されたものと基本的には同じものですが、トナーレPHEVのそれはさらに進化を遂げ、アルファロメオらしいスポーツな仕立てとなっています。

 パワートレインは、最高出力180ps、最大トルク270Nmを発生する1331ccの4気筒ターボ“マルチエア”エンジンに、7速ATと128ps/250Nmのリアモーターを組み合わせたもの。システム最高出力280psという値は、MHEV版より100ps以上も力強いばかりか、「ステルヴィオ」のガソリンモデルと同じ値であり、“Cセグメント”SUVとしてはかなり強力といえるでしょう。ちなみにバッテリー容量は15.5kWhとなっています。

●モーターだけで72kmの航続距離を実現

 アルファ ロメオ独自の走行モード切り替えダイヤル“DNA”は、トナーレPHEVにももちろん備わっています。しかし、他のアルファ ロメオ車とは異なり、“A(=アドバンスドエフィシェンシー)”がEVモードとなっています。

 モーターのみでの航続距離は72kmで、日常生活をカバーするには十分な値といえるでしょう。ちなみに、その際の最高速度は135km/hに制限されます。ただし、イタリアを始めとする欧州のいくつかの国では130km/hが高速道路の制限速度ですし、日本では高速道路の一部区間で制限速度120km/hですから、臆することなく走れそうですね。

 なおトナーレPHEVは、家庭用充電機などを使った普通充電のみに対応。急速充電には対応していません。

 ただし、レネゲードからの進化点として、トナーレPHEVのシステムではセレクターレバー手前のボタンで「e-Saveモード」をオンにすると、従来の“節約”だけでなく“充電”を選べるようになっています。この場合、エンジンを利用して最大80%までバッテリーをチャージできるので、必要なときに起動させることでモーター駆動の得意分野を絶えず味わい続けることができます。

 カーボンニュートラルの大切さを十分承知していながら、クルマを走らせる楽しさとの両立点を見つけようとしている辺りは、アルファ ロメオらしいなと感じます。

リアシートに座る同乗者も「乗り心地がいい」と高評価

 今回、ステアリングを握ったトナーレPHEVは、上級グレードの「ヴェローチェ」でした。装備類が充実しているのはもちろんですが、積極的に変速しながら走れるシフトパドルや、特にPHEVとのマッチングがいい電子制御サスペンションを備えていることから、僕としてはPHEVのイチ押しグレードだと考えています。

MHEV版とは全く異なるメカニズムを採用したアルファ ロメオ「トナーレ」のPHEV版は、GTカー風味のドライビングフィールが印象的

 ドライバーズシートに収まって電源をオンにすると、予期せず心地いい風が腰や背中をなでていきます。そう、「ヴェローチェ」のフロントシートには、ベンチレーション機能が備わっているのです。

 MHEV版の装着モデルで電子制御サスペンションの乗り心地に好感を抱いていたのと相まって、PHEV版でのドライブは快適なものになりそうだと予感しました。

“DNA”ダイヤルは“N(=ナチュラル)”のまま普通にアクセルペダルを踏むと、トナーレPHEVはスルスルとなめらかにモーターだけで走り出します。EVモードといえる“A”にしなくても、バッテリー残量がエンプティに近づいたり、アクセルペダルを強めに踏み込んだりしない限り、できるだけモーターによる後輪駆動で走らせようとする性格です。

 今回の試乗中では、都心から首都高速を走り、高速道路に入るまでの間、意図せずともずっとモーターだけで走っていました。通勤やショッピングなどの日常的な用途は、モーターだけでまかなえてしまえそうです。

 EV走行中の車内はもちろん静か。重いバッテリーを積んでいることと、電子制御サスペンションとの相乗効果で、乗り味はMHEV版よりしっとりしていて高級感があり快適です。リアシートに座っていた同乗者も「乗り心地がいい」と高く評価していました。

 高速道路ではあらかじめ“充電”をチョイスしてある「e-Saveモード」をオンにし、“DNA”ダイヤルは“N”のままで移動。モーターだけの駆動で結構な距離を走ってきたため、ワインディングロードへすべり込む前にバッテリー残量を増やしておきたかったからです。結果、45%ほどまで減っていた数値を63%まで取り戻すことができました。

●ワインディングでも駿足ぶりを披露

 いつものつづら折りに差しかかったところで、トナーレPHEVの実力をたっぷり発揮してもらいます。

“DNA”ダイヤルを“D(=ダイナミック)”に切り換えて元気のいい加速を試みると、トナーレPHEVはなめらか、かつ素早く速度を上げていきます。速いか遅いかでいえば、間違いなく俊足といえる部類です。

 興味深いのはそのときの加速フィール。途中からモリッと力が膨れ上がったり、逆にドロップしたりするようなところはあまり感じられず、クール&フラットに「シュパーッ!」と速度を稼ぎ出していく印象です。

 なので、体感的に速さを感じにくい性格ではあるのですが、気づくと窓の外の景色は結構な勢いで後ろへと流れていきます。いわゆる、どのタイミングからアクセルペダルを踏んでいっても速いタイプ。モーターのサポートがあるとはいえ、1.3リッターの4気筒ターボでよくこの速さを生み出せるな、と感じます。しかも、昨今のエンジンにしてはなかなか心をくすぐるサウンドを聴かせてくれるのも好印象でした。

アルファが理想とするハンドリングに寄せてきたPHEV

 2015年に「ジュリア」がデビューして以来、アルファ ロメオの代名詞のようなものになったシャープでファンなハンドリングも、トナーレPHEVには見事に継承されています。

MHEV版とは全く異なるメカニズムを採用したアルファ ロメオ「トナーレ」のPHEV版は、GTカー風味のドライビングフィールが印象的

 ステアリングをスッと切り込んだ次の瞬間から、コーナーのイン側へ向けてフロントノーズを食い込ませるようにして曲がっていきます。このフィーリングは、MHEV版のそれとよく似ています。

 実はPHEV版は、MHEV版の13.6:1というステアリングギア比に対して14.8:1と、レシオ自体は少々ゆっくり目に設定されています。にも関わらず、かなり似たコーナリングフィールを実現できているのは、チューニングの妙というべきでしょう。

 なぜそれを実現できたのか、技術的なアナウンスや資料もなければ、たっぷり走っての検証もできていないので現時点ではなんともいえませんが、いずれにしろアルファ ロメオのエンジニアたちが理想とするハンドリングの世界観が確固としてあり、そこにしっかり寄せてきた、ということなのでしょう。

 個人的に、この驚くほど切れ味のいいハンドリングは大好きです。素晴らしく気持ちのいい曲がり方を楽しみながら走れますからね。

 一方、明確にMHEV版と異なるのは、やはり駆動方式と重量による動きの違いです。

 先述したように、PHEV版を“D”で走らせている際は、前輪はエンジン、後輪はモーターで駆動しています。しかし、ストレートを加速しながら走る際は当然のごとく4輪駆動、ブレーキング時にアクセルペダルを戻すと前輪駆動、そして、立ち上がりで加速しようとアクセルペダルを踏み込んだ際には再び4輪駆動……といった具合に、駆動力配分の調整が瞬時におこなわれます。

 なので、立ち上がり加速の際には、フロント側が車体を引っ張っていこうとする動きを感じられるのに加え、リア側が蹴り出そうとする感覚が伝わってきます。その分、コーナーからの立ち上がりは速く、しかも安定しています。

●軽快で俊敏なMHEV、安定して速く走れるPHEV

 MHEVと比べると250kgほど車重が重いことが影響し、PHEV版でタイトコーナーが続くようなルートを元気よく走っていると、ほんの一瞬、ターン時の動きのシャープさがマイルドに感じられることがあります。

 もっとも、“D”のときにはトルクベクタリング機構がひっそりと介入しているので、結局のところはMHEV版に似た感覚を得られます。その乗り味をあえて区別するなら、軽快にして敏捷なところが際立つMHEVに対し、安定して速く走れるPHEVといえるかもしれません。

 そういう意味では、MHEV版はスポーツカー風味、PHEV版はGTカー風味が強いように感じられます。というのも、PHEV版で曲がりくねったワインディングをたっぷり楽しみ、バッテリー容量が6%まで減ってしまってからの帰路に、長い下り道でバッテリー充電モードをオンにして回生を多用するドライビングを心がけたところ、麓に着く頃には20%ほどにまでバッテリー容量が回復していたからです。そしてそこから都心までの高速道路では、50%オーバーまで回復しました。

 もちろんその間、アクセルペダルを深く踏み込むようなことはせず、ゆっくりのんびりと乗り心地の快適さを味わいながら走っていました。実はそういったツアラー的な使い方にも、PHEV版はピタリとはまるのです。

* * *

 アルファ ロメオのトナーレは、MHEV版もPHEV版もドライビングの楽しさを満喫できるモデルですが、それぞれ乗り比べてみると同じベクトル上にありながら、少しずつ個性が異なることが分かりました。

 ちょっとした試乗でもトナーレならではの楽しさやそれぞれの違いを感じられると思います。気になる人はまず興味本位で試乗してみてはいかがでしょう?

●ALFA ROMEO TONALE Plug-In Hybrid Q4 Veloce
 アルファ ロメオ トナーレ プラグインハイブリッド Q4 ヴェローチェ
・車両価格(消費税込):740万円
・全長:4530mm
・全幅:1835mm
・全高:1615mm
・ホイールベース:2635mm
・車両重量:1880kg
・エンジン形式:直列4気筒SOHCターボ+モーター
・排気量:1331cc
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:180ps/5750rpm
・エンジン最大トルク:270Nm/1850rpm
・フロントモーター最高出力:45ps/8000rpm
・フロントモーター最大トルク:53Nm/8000rpm
・リアモーター最高出力:128ps/8000rpm
・リアモーター最大トルク:250Nm/2000rpm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)ストラット式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/40R20、(後)235/40R20