中国・BYDが自動車業界に参入したのは2003年。つまり20年ほどしか経っていませんが、昨年2022年の世界でのEV販売台数は約180万台と、世界一のEVメーカーとなりました。日本でも2023年1月に「アットスリー」を初導入しましたが、今回登場した「ドルフィン」はそれに続く第2弾モデルとなります。車両価格は9月20日に発表されますが、それに先立って試乗会がおこなわれました。どんなクルマなのでしょうか。

「スタンダード」と「ロングレンジ」の2グレード展開

 BYDジャパンは2023年8月末、この秋に発売を予定する新型バッテリーEV(BEV)「DOLPHIN(ドルフィン)」の公道試乗会を横浜市で実施しました。

 同社は同年1月にSUV型のBEV「ATTO3(アットスリー)」を発売しており、ドルフィンはそれに続く第二弾となるモデル。今回はそのドルフィンの試乗レポートをお届けします。

 BYDジャパンは2022年7月、BEVである「ATTO3「DOLPHIN」「SEAL」の3車種を2023年中までに日本市場に投入する計画を発表しました。

 すでにATTO3は販売が開始され、8月末までに約700台が販売されたということです。BYDジャパンはこれについて「まぁまぁのすべり出し」としていますが、その発言の裏には「もっといけるはず」との思いも見え隠れします。つまり、ベーシックモデルのドルフィンには、そんなBYDブランドを拡販する重要な役割が課せられていると言っていいと思います。

 その新型ドルフィンのボディサイズは全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mmで、BセグとCセグの中間に位置付けられます。

 ATTO3と同じ、EV専用「e-Platform3.0」を採用し、バッテリーには安全性が高いことで知られるリン酸鉄系リチウムイオン電池を使う「ブレードバッテリー」としました。

 その新型ドルフィンはエントリーグレードとなる「スタンダード」と、より上級な装備を搭載した「ロングレンジ」の2グレード構成となっています。

 ロングレンジで最大のポイントとなるのが、パワートレーン系に大容量バッテリーと高出力モーター組み合わせていることです。

 58.56kWhとしたバッテリー容量は、一充電で476㎞もの航続距離を可能にし、組み合わせるモーターも最大出力150kW(204馬力)・最大トルク310Nmというハイパワータイプ。

 これがスタンダードになるとバッテリー容量は44.9kWhにとどまり、一充電あたりの走行距離は400km。モーター出力も最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nmと、その差はスペックの上からも明らかです。

実際の試乗でもその差は歴然でした。走行モードを「スポーツ」にしてアクセルを踏み込むと、車重が1680kgもあるとは思えない圧倒的な加速力で目標の速度域に到達。走行モードを「エコ」に切り替えたとしても十分な加速力を実感することができたのです。

 一方で回生ブレーキは2段階を用意しますが、ATTO3と同様、ワンペダルで走れるほど強くはありません。ただ、スポーツモードにするとやや減速感が強くなるので、峠道を走る時にはより楽に走れるのではないかと思いました。

 では、スタンダードではどうでしょう。絶対的なパワーは決して不足している印象はありませんが、やはりロングレンジのパワーを体験してしまうと物足りなさは否定できません。高速道を走り機会が多いなら、迷うことなくロングレンジを選ぶことをオススメしたいところです。

詰めの甘さも見られるが 日本市場に向けてさまざまな対応をおこなっている

 またサスペンションにもグレードによる違いがあり、フロントこそストラットで共通ですが、リア用にはロングレンジが路面に対して追従性が高いマルチリンクを採用。対するスタンダードはシンプルなトーションビームとなります。

 この差は乗り心地にも現れており、ロングレンジは路面からの突き上げ感がかなり抑えられており、トーションビームのスタンダードを比べても後席の乗り心地にプラスとして作用しているように思いました。

BYD新型「ドルフィン ロングレンジ」のインテリア。中央の12.8インチタッチスクリーンは電動で回転し横表示も可能だ

 そして、BYDは日本市場に参入するにあたり、使い勝手の上でもさまざまな気遣いをしています。

 ATTO3と同様、ウインカーレバーを日本で一般的な右側にしたり、急速充電をCHAdeMO方式に対応。さらに新型ドルフィンは日本仕様だけ、全高を立体式駐車場に対応できる1550mmに変更(本来は1570mm)しています。

 また、日本で搭載が義務化されている誤発進抑制システムの開発も進め、搭載を予定しているそうです。ここからは日本での新型ドルフィンの成功を願うBYDの思いが伝わってきます。

 一方で、今回の試乗ではそのインターフェースに詰めの甘さが散見されたのも事実です。

 シフト切り替えはセンターにあるダイヤル式スイッチを前後に動かして行いますが、スイッチにはシボが彫り込んであって操作しやすいものの、そこに並ぶ他のスイッチは表面がツルっとしていて今ひとつ操作しにくいのです。

 また、運転席前のディスプレイはかなり小さめで、速度計や走行モード、使用電力の表示こそ容易に読み取れますが、制限速度やADAS系の表示はこれまた小さい。老眼が進んだ年代にはかなりキツく感じるでしょう。

 逆にセンターディスプレイは「タブレットか?」と思わせるようなビッグなサイズ。ここには回転機構も備え、カーナビの他、さまざまな車両情報を表示できるようになっていました。

 ただ、ここでも操作するためのアイコンは小さめで、タッチ操作するにも画面を直視しないと難しいと思えるほど。さらに日本語での音声認識に対応したのは車載側の機能のみ。カーナビの目的地検索にはATTO3同様、対応していないのは残念に思いました。

 とはいえ、インテリア全体はとても質が高いものです。

 シンプルながら緩やかにラウンドするダッシュボードに、DOLPHIN(イルカ)のヒレを彷彿させるドアノブなど、随所にデザインへのこだわりが伝わってきます。

 ソフトパッドも随所に施され、コンパクトハッチに見られるようなチープさはほとんど感じません。特にロングレンジにはスマホ用ワイヤレス充電器が追加され、そういった面での満足度は高いといっていいでしょう。

 加えて驚くのが、先進運転支援システムです。アダプティブクルーズコントロール(ACC)をはじめ、自動緊急ブレーキ(AEB)やレーンキープアシスト(LKA)、フロントクロストラフィックアラート(FCTA)&ブレーキ(FCTB)、ブラインドスポットインフォメーション(BSD)といった多数の先進機能を装備。さらに室内に2つのミリ波レーダーを備えて、子供やペットの置き去り検知機能も備え、これらがすべてグレードを問わず標準装備されるのです。

 ここまで装備して新型ドルフィンはいくらで販売されるのでしょうか。

 すべてはもうまもなく、9月20日に明らかになりますが、これが仮に300万円前半で販売され、補助金85万円が設定されるとすれば200万円台半ばで買えることにもなります。

 となればヒットしている軽EVをコスパでもしのぐことにもなるでしょう。“HEV”主流の日本でBEVが普及するきっかけとなるか。今後の動向に注目です。

BYD新型「ドルフィン ロングレンジ」

BYD DOLPHIN Long Range
BYD ドルフィン ロングレンジ
・車両本体価格(消費税込):未定
・全長:4290mm
・全幅:1770mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:1530kg
・電動機:TZ200XSQ
・モーター最高出力:204ps/5000−9000rpm
・モーター最大トルク:310Nm/0−4433rpm
・総電力量:58.56kWh
・一充電走行可能距離:476km
・交流電力量消費率(WLTC):138Wh/km
・駆動方式:前輪駆動
・変速機:1段固定式