東京・水道橋にある「とんかつと旬のお料理 かつ吉 水道橋店」をレポート。店主の豪快な昔話と、今なお人気のとんかつと、海老かつのうまさに迫ります。

●飾っている器は全部で2000個ぐらい

 水道橋の駅を出て、交差点の信号を渡ってすぐの場所にあるのが、とんかつと旬のお料理 かつ吉 水道橋店。大きな木の看板が目印です。

 地下に降り店の中に入ると、ビルの中とは思えないほど、太い柱や梁、大きくて厚みのあるテーブルなど、木に囲まれた贅沢な空間に圧倒されます。

「実はここ、ビルの地下1階なんですが、創業者である先先代が『ビルを建てる前に店を作ってくれ』と言ってできたもの。なので、建ってから木材を運んだのではなく、先に柱や梁を組んでから、上物ができたんです」。と店長の品川勝巳さん。

 どう見ても手彫りの跡が残る、年季の入った飴色の柱や梁。「古民家を解体して作ったと聞いています。一軒家にいるみたいでしょ?」。

 どっしりとした柱や梁だからこその重厚感、そして、同じくらいインパクトがあるのは、壁一面、いや二面にずらっと飾られたそば猪口。

「先先代である祖父のコレクションです。飾っている器は全部で2000個ぐらいですかね。某鑑定番組にも出たことがあるのですが、高価なものはないけれど、これだけ数があるのがすごい、と褒めていただきました」。と話すのは社長の吉田大介さん。

 木へのこだわり、そして器のコレクションなど、マニアじゃなくとも探検したくなる店内。とんかつの美味しさはもちろんですが、まるで民藝系博物館に来たような楽しさもある、かつ吉のおすすめのカツを3品紹介します。

●脂の甘さ、旨みがたまらない「ロースカツ(180g)定食」

「うちで使っているのは『岩中豚』。脂がとても甘くて美味しいのが特徴です。元々は黒豚だったんだけれど、岩手にこういう豚があるんですけど、どうですか? と言われてから、ずっとこの豚肉ですね」

岩中豚ロースかつ定食(180g)3,100円。単品での注文の場合2,700円。

 確かに食べてみると、脂身のところがジュワッと旨い! ロースカツの醍醐味を感じます。衣はカリッと、そして中の肉はむっちり、出てくる肉汁がたまりません。

 定食にすると、大根の千枚漬け、キムチ、野沢菜などの小皿と、ご飯、味噌汁がついてきます。ご飯は『しそごはん』。「大葉を3〜4kgぐらい仕入れて、茹でてフードプロセッサーにかけて水分切って。買ってきたものじゃないですよ、全部作っているんです」。

 ええっ! ふりかけを買って混ぜているんじゃないの!? 「うちはほとんど手作り。タルタルソースも店で作っています」。作れるものは作るのがかつ吉の方針です。

「実はソースもオリジナルでね。元々うちはフルーツパーラーだったんだけれど、フルーツパーラーって捨てる食材が多くてもったいないと。で、カレー屋としての知識もあり、フルーツの知識もあるから、ソースを作って。現在は食品会社にレシピを渡して、オリジナルのソースを作っています。無添加のソースで、店頭で販売もしているんですよ」。

 まさかのソースまで自家製! もぉ、豚を育てている以外は、ほぼ全部自家製なのでは!?

●ロースカツと同じぐらい人気なのはもちろん「ヒレかつ(180g)」

 こだわりはもちろん揚げ方にも。

「使用している揚げ油はコーン油に少しごま油をブレンドしたものです。パン粉はパン粉専門店と共同開発した生パン粉ですね。そのため、揚げたてはカリッと、そしてほのかにゴマの香りを感じるんですよ」

ヒレかつ(180g)単品2,800円、定食3,200円。ヒレかつとロースかつは、120g、150g、180gから選べる

 揚げる際、油は贅沢に使っています。「一斗缶丸ごとの量をフライヤーに入れて、140〜150度の低温でじっくり揚げています。揚げるというか、油で煮込んでいるような感覚で、肉にストレスを感じさせないように火を通しています。

 油から上げたあとは、余熱で火を入れることにより、中はピンク色に仕上がるようにしていますね」と店長。

 素材、揚げ方、揚げた後、全ての工程一つ一つにこだわりがあるからこそ、極上のとんかつに仕上がる、ということですね。

●あのバーガーが生まれたきっかけはこれ!「海老かつ(160g)」

 意外なきっかけ、というのも古くからあるお店ではよくあること。「祖父が四国でエビカツを食べて、これはうまい! となって。その店の仕込んでいるところを、ビール飲みながら見て覚えて。それを東京に戻ってきて、うちのやり方で作ったのが、「海老かつ」なんですよ」。

海老かつ(160g)単品2300円、定食2700円。中はエビの身がゴロゴロと。130gもある

 そして、この海老かつを食べた某ファーストフード会社の社長。「なんだこれは!」と美味しさに驚き、作り方をいろいろ聞いてきたとのこと。そして数ヶ月後に生まれたのが『エビバーガー』。

「許可? 全くなかったよ。うちで某ファーストフード会社の社長が食べた後、バーガーになってたからね」。日本初、いや、世界初の海老バーガーは、ここの海老かつがきっかけ。「まぁうちも、四国で祖父が食べて、美味しかったから出すようになったからね」。と笑いながら話す社長。

 海老かつが美味しかったから、バンズに挟もう! と思った某ファーストフード会社の社長もすごいけれど、わかっていて笑い飛ばしているかつ吉の皆さんもすごい!

 店内をいろいろ見渡していると「天狗煙草」と書かれたアンティークなものもいくつか。「曽祖父はタバコが専売制になる前はタバコを作っていたので、そのブランド名ですね」。

 調べてみると、社長の曾祖父である岩谷松平氏が営む岩谷商会は、明治時代のたばこ業者の一つで、奇抜な発想でタバコの宣伝をし、大いに人々の注目を集めた人物。そして「祖父は53人兄弟の52番目だったって聞いているからね」と社長。

 ええっ! ものすごい人物だったんですね。もしや子だくさんの日本記録かも!?

店の常連でもあった川端康成の書を先先代である社長の祖父が彫ったもの。木の看板などそのほとんどが先先代の作品

 さりげない会話の中に、驚くことがいっぱいあるので話が尽きない。社長のひいおじいさんがタバコの実業家で、52番目に生まれたおじいさんがかつ吉の創業者で、そば猪口など器のコレクター。親戚はわかるだけで何人いるんだろう。冠婚葬祭、想像しただけでなんかすごそうです。

 そして、店の並び、数十メートル先にある洋食の店「菩提樹」は姉妹店。「こっちではカツ丼やカツカレーを出していないけれど、菩提樹では出しています。なので、とんかつが食べたかったらこっちに、カツ丼が食べたかったら菩提樹に。でも菩提樹は最近、ハンバーグが人気だけどね」とニッコリ。

 A5等級の牛肉を使った料理が人気の菩提樹。そっちももちろん食べに行きたい! ちなみに、菩提樹の方にはそば猪口ではなく大皿が飾ってあるとのこと。次回水道橋に来た時には、菩提樹でハンバーグかカツ丼を味わいたと思います!

 エピソード豊富、そして古民家のようなどっしりと落ち着いた雰囲気、何より揚げたてのとんかつが絶品なかつ吉。常連さんが親子3代、4代にわたって通い続けるというのも納得のお店でした!