幻のスーパーカーとして知られているチゼタ「V16T」ですが、10台生産されたうち、最初の1台だけが、実は車名が違っていました。それはなぜなのでしょうか。

世界に10台、その1号車の「V16T」はどうして特別なのか

 RMサザビーズが、2022年1月27日に「アリゾナ・オークション」を開催する。毎年1月の最終週は、大手のメジャー・オークショネアが、揃ってアメリカのアリゾナ州、スコッツデールを中心に大規模なオート・オークションを開催することから、自動車のコレクターやファンにとっては見逃せない1週間となっている。同社のアリゾナ・オークションも、もちろんその例外ではない。

●かつてテストドライブした個体

 誰もが気になる出品車のラインナップは、これから徐々に発表されていくが、RMサザビーズから最初に発表された1台は、驚くべきことにメジャー・ブランドのスーパースポーツやプレミアム・カーなどではなく、1988年に生産された「チゼタV16T」、その第1号車(S/N:001)だった。

 チゼタとは、パートナーとなった世界的な音楽家、ジョルジョ・モロダーとともに、創業者であるクラウディオ・ザンポッリの姓を組み合わせ、チゼタ・モロダー社として、イタリアのモデナに設立されたスーパーカー・メーカーである。

 ザンポッリはかつてランボルギーニで、メカニックやテストドライバーの職にあった人物。同社が本社兼ファクトリーを置いたモデナのティーポグラフィー通りの近くには、スチールパイプを使用したスペースフレームの製作で有名な、あのマルケージ社も本社を構えるという、まさにスーパーカーを生産するには絶好の環境のもとで、チゼタ・モロダーは誕生したのだ。

 当時の本社ポストの表札は、ガムテープにマジックで「CIZETA」と手書きされた粗末なものだった。社内にはわずかな数のスタッフが昔ながらの製法でV16Tを生み出していたことが思い出される。なぜここまでのディテールを自分は覚えているのか。

 それは今回オークションに出品される、このS/N:001がまだプロトタイプとしてさまざまなテストを繰り返していた頃、実際に同社を訪れ、そのテストドライブをおこなった経験があるからだ。

 こうしたこともあって、30年以上の時が過ぎたにも関わらず、今もなお新車時のコンディションを誇るこの車両には特別な感情を抱かずにはいられないのである。

 チゼタ・モロダー社は、その後モロダーがビジネスから撤退したことでシンプルにチゼタ社となり、またザンポッリもビジネスの拠点を、かつてイタリア車のディーラーを経営していたロサンゼルスへと移す。チゼタはオープン仕様を含め、トータルで9台のV16Tを生産。

 RMサザビーズの調べによると、このプロトタイプを含め、モデナ時代に生産されたものとともに、世界にはわずか10台しかV16Tは存在しないことになっている。

世界に1台の「チゼタ・モロダー」の名がつく「V16T」とは

 S/N:001にはさまざまな特徴があるが、エクステリアで大きなアイコンとなるのは、リアフェンダー上のスリットが水平方向に刻まれることと、リアのエンブレムが10車のうち唯一、「CIZETA MORODER」となることだろうか。

 大きなエンジンフードを開けると、目に飛び込んでくるのは、プロトタイプ時には560ps、プロダクション仕様では520psにデチューンされ横置きされた、6リッターV型16気筒自然吸気エンジンである。トランスミッションは5速MTで、それがエンジンとは対照的に縦置きされることから、車名に「T」の文字が加えられている。

最初の1台だけ、リアに「CIZETA MORODER」の文字がつく(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●期待高まる1号車のハンマープライス

 シャープなボディデザインは、マルッチェロ・ガンディーニの手によるものだ。本来これは、ランボルギーニが「カウンタック」の後継車、すなわち「ディアブロ」のためにガンディーニに依頼したデザインが原型になったものとされるが、上下2段式のヘッドライトやリアフェンダーの造形など、その魅力はやはり相当に大きい。

 このS/N:001は、長年ジョルジョ・モロダー自身によって所有され、1989年のLAモーターショーにも出品された経歴を持つ。また2018年にはカネパ・デザイン社によるフルレストレーションを受け、現在の状態はまさにミントコンディションといえるもの。

 当然のことながら、今回のRMサザビーズが開催するアリゾナ・オークションでは、大きな話題を呼ぶことは間違いないだろう。

 ちなみに同社は、昨年のアリゾナ・オークションにも走行距離がわずかに983kmというディーラー保管のV16Tを出品し、この時は66万5000ドル(邦貨換算約7500万円)で落札されている。はたして、この第1号車のプロトタイプには、どのくらいの価値があるのか、かつてテストドライブしたひとりとして、オークションの成り行きを見守りたい。