「ミウラ」や「カウンタック」をデザインした、ガンディーニが手掛けたチゼタ「V16T」の原寸大モックアップが見つかりました。「ディアブロ」になるはずだったランボルギーニ「P132」プロトタイプとの関係を探ります。

チゼタ「V16T」のデザインスタディが現る

 クラシックカー/コレクターズカーを扱う海外オークション、とくにローカル色の強いオークションまで情報のアンテナを張って観察していると、時折とんでもない珍車・珍品に出くわすことがある。

 2020年、ドイツを拠点に立ち上がったばかりというオンライン・オークション専門のWEBサイト「Get Your Classic」にて、このほどVAGUEが発見したのは、同社が2021年7月にオンライン競売にかけた「Cizeta Moroder V16T Design Studie」である。

 V型16気筒エンジンを搭載した、1990年代初頭の伝説的スーパーカーチゼタ「V16T」のプレゼンテーションのために、かのマルチェッロ・ガンディーニ氏が一品製作したモックアップ・モデルである。

●V型16気筒エンジンを搭載したハイパーカーの先駆けとは?

 1990年のジュネーブ・ショーにて発表された「チゼタV16T」は、ランボルギーニでキャリアを積んだエンジニア兼テストドライバーにして、このクルマに携わる直前まではランボルギーニの北米代理店の経営者でもあった実業家、先ごろ逝去のニュースが伝えられたばかりの故クラウディオ・ザンポッリ氏と、1980年代には「ディスコミュージックの父」とも呼ばれた世界的ミュージシャン、ジョルジョ・モロダー氏とのジョイントベンチャーとして興したプロジェクトだった。

 チゼタという、ちょっと奇妙にも聞こえるブランド名は、ザンポッリ氏のイニシャル「C.Z」を、そのままイタリア語読みしたものである。

 また当初は「チゼタ・モロダー」なるブランド名を掲げていたが、財政上の拠りどころであったモロダー氏のプロジェクト離脱によって、数台の製作を終えた段階で、同社の経営は破綻してしまう。

 そののち1994年ごろから、ザンポッリ氏はアメリカ・カリフォルニア州ファウンテンバレーに拠点を移して、イタリア・モデナ時代に製作した残りのコンポーネンツを用いて生産を続行するべく、先ごろ逝去するまで奮闘したとされている。

 チゼタV16Tの最大の特徴は、その名のとおり壮大なV型16気筒エンジンを搭載すること。基本構成は、小径の鋼管でバードケージ状に組まれたチューブラーフレームに、スーパーカーデザインの巨匠マルチェッロ・ガンディーニ氏の手がけた総アルミ製ボディを架装。V16ユニットを横置きミッドシップに搭載するという、ほかに類を見ないユニークなものである。

 ボディサイズは当時のスーパーカーとしてもかなり大柄で、車両重量は公称でも約1.7トンにも達したが、総排気量6リッターのV16エンジンが発する、560psともいわれるパワーはそれを補って余りあるものであった。

 328km/hと称された最高速度をはじめ、同時代のブガッティ「EB110」やマクラーレン「F1」にも匹敵するパフォーマンスや希少性から、現在では「スーパーカー」よりもさらにエクストリームなクルマを指す「ハイパーカー」の先駆けともいわれている。

 ただしその一方で、20世紀のイタリアに継承されてきたスポーツカー造りのセオリーに則って製作された伝統的、あるいは古典的なスーパースポーツであったことも、注目に値する事実であろう。

 そして、現在では鬼才マルチェッロ・ガンディーニ氏のデザインによる、ゴシック建築を思わせる華麗にして荘重なデザインワークから、自動車という領域を飛び越えたある種のアートとしての価値も認められているのだ。

 V16Tのデザインを任されたマルチェッロ・ガンディーニ氏は、ランボルギーニの「ミウラ」や「カウンタック」、あるいはランチア「HFストラトス」の成功によって認められたのち、チゼタのプロジェクトが立ち上がった1980年代後半には、世界でもっとも影響力のあるスーパーカーデザインの巨匠として名を轟かせていた。

 そして、ガンディーニ氏がチゼタ・プロジェクトのデザインワークを手掛ける際には、ザンポッリ氏の古巣であるランボルギーニにおいて、実現の一歩手前でキャンセルとなった「ディアブロ」の初期デザイン案が、チゼタによって独自のスーパーカー・プロジェクトの出発点として再起動されることになったのだ。

ディアブロとチゼタを結ぶ、ミッシングリンク?

 この7月7日から21日までの二週間にわたり「Get Your Classic」のオンライン限定オークションに出品されたのは、のちにチゼタV16Tとなるクルマの開発初期段階で製作されたと目される、1/1フルスケールのモックアップ。

 外観と内装のごく一部のみが表現され、エンジンはもちろん、シャシも持たないことから「プロトタイプ(試作車)」と呼ばれる段階以前の原寸大模型である。

ガンディーニがデザインした「ウラッコ」と「カウンタック」の折衷案のようなリアビュー(C)Get Your Classic

 チゼタは総生産台数にして、わずか10台前後に終わってしまった小規模コンストラクター。しかも、ほとんどの業務は故ザンポッリ氏の独力によっておこなわれていたゆえに、V16Tが正式発表に至る以前のドキュメントや検証のための資料は、残念ながら極めて乏しいのが実情とされている。

 しかしこのチゼタの1/1スケールモデルは、現在ではサンタアガタ・ボロネーゼのアウトモビリ・ランボルギーニ社オフィシャルミュージアム「MUDETEC(Museo Delle Tecnologie)」で見ることができる「ディアブロ」の初期のコンセプト「P132」プロトタイプと、故ザンポッリ氏のもとで完成に至った「V16T」との間の謎を解く、いわゆる「ミッシングリンク」のひとつともなり得る可能性を秘めているのだ。

 実際、今回のオークション出品に添付された写真では、ランボルギーニP132はもちろんのことマセラティ「チュバスコ」やブガッティ「EB110」など、未完に終わったガンディーニ・プロジェクトとよく似たボディラインやディテール処理が見受けられよう。

 ガンディーニ氏がチゼタ・プロジェクトに参画したのと時を同じくして、ランボルギーニ・カウンタックの後継車に取り組んでいたことは、これまで史実に語られているとおりだ。

 ところが、北米クライスラー・グループによって、1987年にランボルギーニ社が買収されたことによって状況は一変。ガンディーニ氏の最初のプロトタイプは、クライスラーのリー・アイアコッカCEO(当時)の判断によって、生産型のディアブロとして体現された、より穏当なデザインアプローチへと切り替えられることになる。

●30年以上マラネッロに眠っていたミッシングリンク

 一方、こちらのモックアップが表現するウェッジシェイプのシルエットとシャープなラインは、間違いなくマルチェロ・ガンディーニ氏によって創造されたものであり、伝説的なスーパーカー・プロジェクトのひとつであることが証明されている。

 ちなみに、今回の「Get Your Classic」オンライン・オークションへの出品は、フェラーリ本社からほど近い場所に、ガブリエレ・カンドリーニ氏が構えるクラシックカー/レーシングカー専門のスペシャルショップ「マラネッロ・プロサングエ」社によるものとのこと。

 ただ製作されてから30年以上の時を経て、いかなる経緯ののちにこのモックアップがマラネッロ・プロサングエ社に身を寄せることになったかについて、Get Your Classicの公式WEBカタログでは何ら説明されていない。

 しかし、マラネッロといえばフェラーリの聖地であるとともに、かつてのチゼタの本拠であるエミリア・ロマーニャ州モデナ近郊の町である。ほかにも大小のスーパーカー専業コンストラクターとその関連業界がひしめくことから、「モーターバレー」とも呼ばれるこの土地にて、30年以上にわたってスーパーカー関係者のもと秘匿されてきたことは容易に想像がつくだろう。

 Get Your Classic社はマラネッロ・プロサングエ社との相談の結果、エスティメート(推定落札価格)を1万9000ユーロから2万4000ユーロの間、つまり日本円に換算すれば約246万円から約311万円に設定したという。

 おそらくは移動のためにステアリングを操舵することもできない、実質的には単なるオブジェに過ぎない原寸大模型ながら、伝説のスーパーカーのために伝説のデザイナーが製作したモックアップに、マーケットがいかなる評価を下すかに興味が注がれていたが、やはり現実は厳しかったようだ。

 オンライン・オークションは、開始価格5000ユーロでスタート。7日目までには7800ユーロ、日本円換算で約101万円まで達したものの、その後の入札は競売締め切りまで途絶えてしまい、最低落札価格に及ばず流札に終わってしまった。

故ザンポッリ氏の訃報も合わせて、全世界のスーパーカー愛好家が注目していたであろうオークションだっただけに、残念な結果である。