どのブランドも最初に作ったモデルにこそ、創始者のビジョンがもっとも色濃く反映されているものだったりします。では、ランボルギーニはどうでしょうか? 「ミウラ」や「カウンタック」の陰に隠れがちな市販モデル1号である「350GT」を紹介します。

フェルッチオが本当に作りたかったクルマとは

Writer:西川淳
Photographer:神村聖

 2013年5月。ランボルギーニは自身の50周年を盛大に祝した。世界各国から実に300台以上の歴代モデルをイタリアに集め、ドライブ・パーティを繰り広げたのだ。

 それは一見、〝苦難の50年〟を支えたランボルギーニ・ファナティックへの感謝の表明であり、現経営陣によるヘリテージへの敬意の表れであるかのように、参加したオーナー、見物した人々、メディアを通して概要を知った読者、の目には映ったに違いない。

●フェルッチオの目指した理想

 50年の歴史に、ありがとう。

 本当に、それだけだったのか。

 筆者も参加した。オーナーの立場でみれば、それは確かに最高にイカしたパーティだった。けれども、ひとたびジャーナリストの立場で冷静に見たとき、主催者の側に祭りとはまた別の、もっと強い意志を、読み取った。

 それは、これだ。

 50年の歴史よ、さようなら。

 節目であり、リセットである。

 人生でいえば、還暦のようなもの。それは、明日からもう一度〝やり直そう〟という、強い意思表示であった。だからこそ、祝祭の規模は、大げさなことが好きなランボルギーニファンでも腰を抜かすほどに盛大でなければいけなかった。

 筆者は過去に、同じようなことを経験している。フェラーリの50周年だ。あのとき、マラネッロは空前絶後の盛り上がりをみせ、完全に世界中のフェラーリファンを支配下に入れたルカ・モンテゼーモロはその後、ブランドビジネスを大成功に導いた。

 ランボルギーニのルカ、ステファン・ヴィンケルマンもまた、否、本家のルカ以上に、アグレッシブなレイジングブルの未来を描いているはずだ。野望である。ために、50周年の祝祭を盛大に演じてみせた。

 プロダクトアウト+マーケットインによる販売台数倍増計画。もっと多くの金持ちの意見に耳を傾けろ!

 区切りの祝祭は、ひとたび変革が起こったときに騒ぎ出す、ひとにぎりの熱心な信仰的ファンをひとまずは抑え込み、さらに、ブランドの本来の姿、理想として目指したものを思い出させるために、必要だったのだ。

 フェルッチオが本当に目指したのは、どんなブランドだったのか?

 フェラーリよりも速く、先進的で、豪華で、快適なGTスポーツカーではなかったか。ドアを上げて喜ばれるようなクルマは、フェルッチオの嗜好には一瞬たりともなかっただろう。だからこそ、現経営陣は50周年のメインビジュアルとして、「アヴェンタドール」と対になった、影の「ミウラ」を選んだ。「クンタッチ」こそが、現在のブランドイメージを決定した功労者であったにも関わらず、だ。

 前置きが長くなってしまった。そこで、この「350GT」を、ランボルギーニの市販1号モデルを、再検討してみれば、フェルッチオの目指した理想のクルマというものが、よく分かる。60年代に設計された、12気筒FRのランボルギーニ全てに当てはまる、それは非常に挑戦的な仕掛けであった。

 キーワードは、イタリアン・ラグジュアリー・スポーツ。

 350GTはその第一歩だった。

目指したのは、イタリア生まれのロールス・ロイスやベントレーのスポーツカー

 始まりは、「ウラカン」なのだ。「ウルス」も、そうだ。

 次の50年に向けて、ステファンは歴史の起点をもう一度、われわれに思い出させ、それをミウラ以降に知れ渡ったミドシップ・スーパーカーブランドという立場をミックスさせることで、ヘリテージ的にも破綻のない、ランボルギーニ・ファナティックを納得させるに十分な(フェルッチオを出されたんじゃ、ぐうの音も出ない)、そして、いっそうの台数増も見込める、実に巧妙な未来戦略を打ち立てた。

60年代に設計された350GTはまさにフェルッチオが目指したその第一歩だった

●驚愕のグラン・ツーリズモ

 そう、ランボルギーニは今、スーパーカーブランドの第一人者であることを強烈にアピールしつつも、フェルッチオの理想を上手く取り入れようとしている。その答が、ウラカンであり、アヴェンタドールの派生モデルであり、アド・ペルソナムであり、そしてウルスなのだ。

 時の流れ、時代の移り変わりを感じつつ、今一度、350GTに目を向けてみよう。まず、目を奪われるのが、まるで彫刻アートのように繊細でグラマラスなスタイリングである。同時代のフェラーリに比べれば、その凝りようは一目瞭然。圧倒的なデザインアピアランスを誇っている。

 とくに、キャビンまわりからリアへと絞り込んだデザインが、素晴らしい。ガラスウインドウは信じ難いほど美しくカーヴを描き、華奢なピラーがその流れを遮断しないよう支えている。この脇に立って、キャビンまわりを眺めれば、毎日違う発見があるだろう。それほど、350GTのスタイリングには、さまざまな表情が潜んでいて、観る者を飽きさせない。

 筆者は以前、本社ミュージアムに展示されている、赤い350GTを借り出して、サンタアガタ・ボロネーゼの街をドライブしたことがある。

「400GT」の経験はあったが、350GTは、それが初めて。基本的なメカニズムは排気量以外にさほど変わらない2台(350GTはボディがオールアルミニウムである)だが、それでもランボルギーニ史の起点となるミュージアムカーが相手。かなりの緊張を強いられたものだった。

 ひとたび、コクピットに腰を下ろせば、カプセルに包まれたかのような、非常に快適な空間が広がった。乗降性の良さは、後のスーパーカーたちとは比べようもない。

 インテリアの雰囲気もまた、同時代のフェラーリよりかなりラグジュアリーだ。レザーの質感を最大限に生かし、スポーティさを失わない範囲でゴージャスに仕立てた。なるほど、これはイタリア生まれのロールス・ロイスやベントレーのスポーツカーだ。

 ライドフィールも洗練のひと言。エンジンはスムースに澱みなく回り、十分にパワフルであって、ジェントル。引っ張ってまわすなんて野暮なことをせずとも、存分に心地よくなれる。

 フェルッチオの目指す理想像をもっとも強く感じたのは、シャシの動きだった。ノーズの遅れが自然で心地よく、その後の動きは正確にして、たおやか。リッチなハンドリングだ。なるほど、これならドライバーも楽しめるし、レディの気分も悪くはならないだろう。

 350GTに端を発するフェルッチオの理想は、次の50年にいっそう、採り入れられていくに違いない。

●LAMBORGHINI 350GT
ランボルギーニ350GT
・生産年:1964年−1967年
・年式:1967年
・総排気量:3464cc
・最高出力:270ps/6500rpm
・トランスミッション:5速MT
・最高速度:250km/h
・全長×全幅×全高:4500×1630×1220mm
・エンジン:水冷V型12気筒DOHC
・最大トルク:33.0kgm/4000rpm
・0−100km/h加速:6.8秒
・生産台数:約130台