近年、多くのクルマに装備されている車載カメラ。360度ビューのために車両の四方にカメラを設置した車種もあれば、居眠りを検出するために車内カメラを搭載する車種まであります。これらはカーライフをより便利にしてくれる反面、漏洩したり悪用されたりすれば、プライバシーの侵害にもつながる危険性があります。

「正しく使えば人のために役に立つ」とは、すべての科学や技術にいえること

 昨年末、米国で話題になった殺人事件がある。被疑者が逮捕されたキッカケは、被害者のクルマに残された“デジタル・フットプリント”(電子的足跡の意味)だった。殺害推定時刻に、被疑者が被害者所有の2016年式シボレー「シルベラード」を運転していたことが分かったのだ。決定打となったのは、インフォテイメントシステムに残された被疑者のボイスコマンドだ。

「エミネムを再生」という被疑者の声が残っていたのだ。

 最近のクルマは、センサー類や車載カメラを使い膨大な量のデータを収集する。アクセル開度やブレーキ操作、ステアリング舵角などの情報はもちろん、どのドアがいつ開閉されたかすら記録している。シートベルトセンサーから乗員の有無を知ることができるし、GPSは走行した経路を記録する。インフォテイメントシステムはブルートゥース接続した携帯電話の電話帳データやメッセージ、写真や動画、一部アプリへアクセスできる。

 すべては「モビリティにおける安全性向上」、「自動運転のための布石」、そして「ユーザーの車内環境を最適化するため」に導入された技術の賜物である。車載カメラをフロント、サイド、そして車内にまで搭載しているケースもある。まさに壁に耳あり障子に目あり、というわけだ。

●中国でのテスラ車の駐車禁止とは?

 2021年5月、国際ニュース通信社「ロイター」は、中国政府関係者の談話を引用して、北京と上海の州政府が一部政府系機関でのテスラ車の駐車場利用を禁じた、と報じた。明文化された規則ではなく、あくまでも口頭での“お達し”とのことゆえ真偽のほどは定かではない。しかし、国家機密・軍事機密に関わるものとして地図を厳格に規制している中国において、クルマが経路と道路映像を記録できると考えると……、中国側が危機感を抱いてもおかしくはない。

 また、時期同じくして中国は海外資本が入っている自動車メーカーに対して、車両が収集したデータを中国国内に保管するよう義務付けた。これにより、中国国内における各社のデータセンター構築への動きがあわただしくなった。本拠地へのリアルタイムデータ送信を各自動車メーカーへ禁じることで、中国は軍事機密を守るスタンスとプライバシーを明確に打ち出し“変なことするなよ”というプレッシャーをかけているように感じられる。

 そして2021年9月には「中国汽车工程研究院股份有限公司」という会社が面白いデバイスを作ったと、同じく「ロイター」が報じていた。なんでもクルマが収集ならびにアップロードしているデータをモニタリングできるというのだ。テスラ車、BMW車、ランドローバー車、メルセデス・ベンツ車でテストした、とまでは報じられていたが、具体的にどのようなデータが収集・アップロードされていたかは、明らかにされていない。

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 繰り返しになるが収集されるデータは「モビリティにおける安全性向上」、「自動運転のための布石」、そして「ユーザーの車内環境を最適化するため」のものであるのは間違いない。だが、万が一悪意をもった人間によって運用されるとストーカー被害、プライバシー侵害、機密漏洩につながる可能性があるのも事実。

 各自動車メーカーによる“適正運用”の遵守が続くことを切に願うばかりだ。