再現度と作り込みが半端ない「ジャガーDタイプ」のチルドレンズカーを紹介します。もはや子供の玩具ではなく、大人のコレクターズアイテムです。

ル・マンを制したジャガーを忠実に再現

 これまでVAGUEでしばしば取り上げてきたように、子供でも乗ることのできるサイズに縮小された「チルドレンズカー」ないしは「ジュニアカー」は、モデルとなるホンモノのクルマの再現度や作り込みの精巧さなど、子供用のおもちゃの領域をはるかに凌駕し、コレクターズアイテム、ないしはアート作品のレベルに達したものも少なくない。

 そして、これらのチルドレンズカーだけを蒐集するコレクターは欧米には数多く存在するばかりか、専門のミュージアムもいつくか設立されており、国際オークションでは重要なアイテムとして取引されているという。

 そんな状況のもと、クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界における世界最大手、RMサザビーズの北米本社が、2022年1月末にアリゾナ州フェニックスで開催した「ARIZONA」オークションでは、1台の小さなジャガー「Dタイプ」が登場した。

●1955年ル・マン優勝車を忠実に再現した、小さなレプリカ

 本題ともいうべき縮小版チルドレンズカーの話題に入る前に、まずはジャガーDタイプという、稀代の名作レーシングカーについて説明しよう。

 1954年に誕生したジャガーDタイプは、1951年と53年のル・マン24時間レースで見事総合優勝を果たし、ジャガーの名を英国から世界に轟かせた「Cタイプ(XK−C)」の後継車。Cタイプの成功に大きく関与した航空機畑出身のエンジニア、マルコム・セイヤーの最先端テクノロジーをいっそう大胆に導入したモデルである。

 時代に先んじて軽合金製のモノコックを採用するとともに、空力特性を最大限に重視した軽量・高剛性のボディを組み合わせ、Cタイプ時代よりさらにチューンを高めた直列6気筒DOHC「XK」ユニットを搭載した。

 デビュー早々に実戦配備されたDタイプは、翌1955年のル・マン24時間レースにおいて、ジャガー・カーズ社ワークスチームから出場。マイク・ホーソーン/アイヴァー・ビューブ組のドライブで、見事デビューウィンを飾る。

 さらにサテライトチームの「エキュリー・エコス(Eculie-Ecosse)」に委ねられた1956−57年にも優勝し、ル・マンでは怒涛の3連勝を果たすことになったのだ。

 今回「ARIZONA」オークションに出品されたジャガーDタイプのチルドレンズ・カーは、その1955年ル・マンの優勝車「XKD505」のシャシナンバーとともに、もっとも有名とされるDタイプを約3分の2に縮小したレプリカである。

 フレームは、スチールで組まれたラダー型。グラマラスなプロポーションから、後部の巨大なフィンなど、個性の強いDタイプのスタイリングをほぼ完ぺきに再現したグラスファイバー樹脂製のボディとともに車体を構成する。

 ボディカラーはブリティッシュ・レーシング・グリーンで、ゼッケンナンバー「6」や「774RW」のナンバープレートなどのディテールも、1955年ル・マン優勝車を完全再現。インテリアとのカラーコンビネーションも、同系色のグリーンと無塗装のアルミによる、見事な色合いで仕上げられている。

国産車が余裕で1台購入できるチルドレンズカー

 この3分の2サイズの「ジャガーDタイプ」のシート背後に搭載され、チェーンを介して後輪を駆動するパワーユニットは、アメリカ合衆国ミシガン州の空調用コンプレッサーメーカーで、今世紀初頭までは小型ガソリンエンジンなども生産していた「テカムセ(Tecumseh)」製の4ストローク単気筒エンジンだ。

3分の2サイズの「ジャガーDタイプ」(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●推定落札価格を大幅に上回る540万円で落札!

 RMサザビーズ社の公式WEBカタログによると5.0psを発生し、同じくテカムセ社製のトランスミッションが組み合わせられる。また、実車のごとくキーで作動する電動スターターに加えて、手で引っ張るフリクション式スターターも装備されている。

 一方、チューブレス式のラジアルタイヤを取り付ける10インチのホイールは、本物のDタイプにも装着されたダンロップ製アロイホイールを忠実に縮小したもの。特徴的なセンターの3本爪スピンナーも、みごとに再現されている。また、ジャガーDタイプのテクノロジー面における大きな特徴であったディスクブレーキも備えている。

 そしてインテリアでは、クラシカルな鋲(びょう)を打たれたウッドリムのステアリングホイールや、高級時計のようなエンジンターンド仕上げのダッシュパネルに埋め込まれた本物のイェーガー社製メーター類が、ジャガーDタイプの持つ美しさを再現している。

 これまで20年間にわたって、今回のオークション出品者のコレクションに所蔵されてきたというこのDタイプのチルドレンズカーは、近年になってリアエンドのバッテリーを新品に交換するなどのサービスを、熟練したメカニックの手で施されたとのこと。

 未来のレーシングドライバーを夢見る子供たちはもちろんのこと、チルドレンズカーの高度なコレクター、あるいは、珠玉のクラシック・ジャガーを蒐集するエンスージアストにとっても、そのコレクションに加える価値は充分にあるとWEBカタログでは謳われていた。

 今回の出品について、RMサザビーズ北米本社では「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」でおこなうことを決定。エスティメート(推定落札価格)は2万〜3万ドルに設定。「リザーヴなし」という出品スタイルは、安値でも落札されてしまうリスクもあるものの、金額の多寡を問わず確実に落札されることから、ビッド(入札)が進むというメリットもある。

 この日はメリットが充分に生かされたようで、エスティメート上限をも大きく上回る4万2000ドル、つまり日本円に換算すれば約540万円という驚きのプライスでハンマーが落とされることになったのだ。

 例によって「ホンモノのクルマが買えてしまう」と評されそうな驚きの高価格は、プロポーションからディテールまで、1955年ル・マンのDタイプを再現すべく徹底的にこだわったであろうフィニッシュの良さが反映されていると見ていいだろう。