フェラーリ「デイトナ スパイダー」の本物は希少すぎて数億円は当たりまえ。しかし、ジュニアカーならば250万円ほどで購入可能です。

もはや大衆車を新車で購入できるほど高額な大人のおもちゃ

 いわゆる「チルドレンズカー」あるいは「ジュニアカー」と呼ばれる、一応は子ども向けというフォーマットで作られつつも、その実は裕福なコレクター向けに作られたとしか思えないほどに高度な「小さな名車たち」は、海外の一流オークションにおいて続々と高値落札されている。

 さる2022年2月、RMサザビーズ欧州本社がパリ市内で開催した大規模オークション、その名も「PARIS」にも、小さなフェラーリ・デイトナ・スパイダー「ハリントン・デイトナ(Harrington Daytona)」が出品されたのだが、実はこのチルドレンズ・カーは、本物のスーパーカーの巨大なコレクションで有名な「THE PETITJEAN COLLECTION」から放出されたロットの一部だったのだ。

●“ハリントン・ジュニアカー”の作ったデイトナ

 今回RMサザビーズ「PARIS」オークションに出品されたハリントン・デイトナは、イギリスに本拠を置く「グループ・ハリントン(Group Harrington)」がプロデュースした、スタイリッシュでリアルなチルドレンズカーである。

 グループ・ハリントンについて調べてみたところ、人気のあるクラシックカーの補修需要に応えて、ステンレススチール製のバンパーを生産・販売するサプライヤーであることがわかった。ベトナム・ホーチミン郊外に工場を建設し、かなり大規模なビジネスを展開しているという。

 また、バンパー生産のかたわら長年培った技術力を生かして、今世紀初頭からは「ハリントン・ジュニアカー(Harrington Junior Car)」というブランドを掲げて、往年の名車たちをモデルとした高級なチルドレンカーも製作しているとのことである。

 現在では、「ACコブラ」を模した「COBRA 289」やジャガー「Eタイプ・シリーズ1」を模した「Series1」。フェラーリ「250GTスパイダー・カリフォルニア」を模した「Spyder」。メルセデス・ベンツ「300SLロードスター」を模した「300」。そして最初期のランドローバー「ディフェンダー」を模した「Land Junior」など数多くのラインナップをそろえ、いずれも1万ドル以上の高価格で販売されていることが公式HPにて確認できる。

 いずれのモデルも専用のジグで組んだパウダーコート済みのラダーフレームに、グラスファイバー製のボディとコンポジットのフロアパンを組み合わせる。

 またスチール製のサスペンションスイングアームと、アルミニウム/高張力鋼鉄を併用した前輪のスタブアクスル、アルミニウム製フロントハブ、スチール製リアドライブシャフト/リアハブを持つなど、かなり本格的な構成となっているようだ。

 一方、ホンモノのフェラーリ・デイトナと同じくフロントにマウントされ、後輪を駆動するパワーユニットは、排気量110ccの空冷4ストローク単気筒ガソリンエンジン。最高出力は5.0kw/8500rpm、最大トルクは6.6Nm/6500rpmを発生するとともに、1時間の走行につき約1.5リッターのガソリンを消費するとされている。

 この単気筒エンジンに、3速シーケンシャル式(クラッチレス)で後退ギアも組み込んだセミオートマチックギアボックスを組み合わせ、スタンダードチューンでは最高速度47km/hを実現するとのことながら、子どもの搭乗時にはスピードを制限するリストリクターを装着することもできるという。

 さらにヘッドライトや補助灯、ホーン、電動スターターキー、インジケーターに必要な電力は12ボルトのバッテリーで賄われることになっている。

著名なコレクターが所有していた「デイトナ ジュニアカー」の落札価格は?

 2020年のVAGUEにて、オークションプレビュー/レビューの双方をお送りしたことから記憶している人も多いかもしれないが、RMサザビーズでは2020年の6月にヨーロッパ本社主体で「THE EUROPEAN SALE featuring THE PETITJEAN COLLECTION」と銘うった、オンライン限定のオークションを成功させていた。

乗降性を考慮してウインドシールドは少々武骨なスタイルとなってしまったようだ(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●“映える”小さなデイトナ・スパイダーは約240万円で落札

 このオークションで売られたクルマたちは、1960−70年代にかけてレーシングドライバーとしてサーキットレースやヒルクライムで大活躍し、現役引退後は自身の自動車ミュージアム開設を目指して、珠玉のスポーツカー/スーパーカーをはじめ、あらゆる乗り物を蒐集したフランス人コレクター、マルセル・プティジャン氏が出品したものである。

 そして今回、オンライン/対面型の併催でおこなわれた「PARIS」オークションでは「THE PETITJEAN COLLECTION」第2弾が展開され、ひところは自身のプライベートミュージアム開設を計画していたというプティジャン氏の膨大な所有車両の中から、フェラーリを中心とするコレクションが放出されることになった。

 このハリントン・デイトナも、いずれは博物館の小道具的にディスプレイされることを目的として購入したものと思われるのだが、たしかにこの完成度の高さはミュージアムでホンモノのフェラーリと並べたなら、間違いなく「映える」ことだろう。

 大人でも乗り降りをしやすくするためか、本物のデイトナの特徴である強く後傾したウインドシールドは少々武骨なスタイルとなってしまっているものの、プレクシグラスで覆われたヘッドライトが際立つ鋭いノーズ、エレガントなサイドビュー、有名な「デイトナ・パターン」を模したレザーシート、そしてボラーニ社製ワイヤホイールを模したセンターロック式ホイールなど、フェラーリ「365GTS/4デイトナ・スパイダー」の魅力が巧みに表現されているかに映る。

 また、2021年に製作された事実上の新車であることから、内外装からメカニカルパートに至るまで、コンディションは極上といえるだろう。

 今回のオークション出品について、RMサザビーズ欧州本社では出品者であるプティジャン・コレクションとの協議の結果「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」でおこなうことを決定。エスティメート(推定落札価格)は、このところのチルドレンズ・カー相場では一般的な2万〜3万ユーロに設定していた。

 この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額の多寡を問わず確実に落札されることから、ビッド(入札)が進んで価格が跳ね上がることもあるというメリットもある一方で、出品者が予期しない安値でも落札されてしまうリスクもある。

 残念なことに、この日は売り手側の期待が裏目に出てしまったようで、競売が終わってみればエスティメート下限に満たない1万8600ユーロ(邦貨換算約258万円)での落札となった。

 それでも、もはやチルドレンズ・カーを語る際の決まり文句となった「ホンモノのクルマが買える価格」には到達しているのだから、やはりこの商品ジャンルが世界のコレクターたちにとって魅力的であることは、2022年の市場でも大きく変わりはないようだ。