アルファ ロメオの新型SUVである「トナーレ」に、イタリアのコモ湖周辺でモータージャーナリストの嶋田智之氏が試乗しました。まずはその第一報をお届けします。

イタリア本国でアルファ ロメオ「トナーレ」を初試乗

 アルファ ロメオの電動化にまつわる僕たちの体験は、ミラノ郊外のコモ湖の畔にあるテンピオ・ヴォルティアーノ、ヴォルタの神殿と呼ばれる建物からスタートした。1745年にこの地に生まれ、1800年に世界で初めて化学反応により電流を作り出す電池を発明したアレッサンドロ・ヴォルタに敬意を表して建てられた博物館だ。

 電圧・電位差・起電力の単位である“VOLT”はALESSANDRO“VOLTA”へのリスペクトから名づけられたもの。電気エネルギーの実用化の祖といえる人物の生誕地を試乗会の開催場所に選び、彼にちなんだ建物の中でクルマの技術説明をおこなうところからも、「トナーレ」に対するアルファ ロメオの想いのようなものが伝わってくる。

 トナーレはアルファ ロメオ112年の歴史で初めてとなる電動化モデルだ。これを皮切りに電動化モデルを増やしていき、2027年にはラインナップがBEV(バッテリーEV)のみとなるという。いかに個性豊かな内燃機関でドライバーを魅了してきたヒストリーをも持つアルファ ロメオであっても、自動車メーカーとしてやっていく以上は、当然ながら世界的な潮流に逆らうことは許されないわけだ。それは昔からのファンがいくら嘆こうが騒ごうが、どうすることもできない。

 僕もアルファの濃厚な内燃機関の味に今も魅了されている昔ながらのファンのひとりで、気持ちの一部に若干のモヤモヤがあったことは否定しない。けれど、テンピオ・ヴォルティアーノでクルマのディテールを説明してくれたエンジニアたちの言葉は、なかなかに熱かったのだ。となれば、モヤモヤは気持ちから一度閉め出して、“そこにアルファらしいドライビング・プレジャーはあるか?”をしっかりチェックさせてもらうことにしよう。そんな気分だった。

 ざっくりとした概要はワールドプレミアのときにお伝えしたのでクドクドと述べることはしないけど、トナーレの基本的なラインナップ構成は、トランスミッションに48VのP2モーターを組み込んだ前輪駆動の“ハイブリッド”と、前輪をエンジンで後輪はモーターで駆動する4WDの“プラグイン・ハイブリッド”の2系統。今回は前輪駆動のハイブリッド・モデルの試乗となる。

●日本に最初に入ってくるのは160hpのハイブリッド・モデルか!?

 エンジンはファイアフライ系をベースにしながら新たに開発したという1.5リッター4気筒ターボで、160hp仕様と130hp仕様が用意されている。160hp仕様は可変ジオメトリー・ターボを備えたトナーレ専用のチューニングで、160hpの最高出力を5750rpm、240Nmの最大トルクを1500rpmで発生させる。これに7速DCTが組み合わせられて、そこにP2モーターが内蔵される、という仕組みだ。

 48VのP2モーターの最高出力と最大トルクはそれぞれ単体で20hpと55Nmだが、トランスミッション比が2.5対1で肝心のトルクはギアボックス入力値では135Nmに相当するというから、ちょっと軽く見ることはできない。これはあくまでも予想だが、僕たちに与えられたクルマがすべて160hp仕様だったことから、年末ぐらいを目安に上陸することになる日本仕様はこちらが中心になるんじゃないかと思う。

 160hp仕様はハイブリッド・モデルの上級グレードで、“TI”と“ヴェローチェ”というふたつのトリムが用意されている。そのネーミングから想像できる人も少なくないだろうけど、TIはエレガントなグランツーリスモ的モデルで、ヴェローチェはスポーツ志向の強いモデルという位置づけだ。

 パワートレインなどに違いはなく、シャシのセッティングも基本は同一だけど、ヴェローチェでは電子制御のアクティブ・サスペンションを選ぶことができるのが違いのひとつ。トリムの細かな違いについては日本仕様がどうなるか判らないので今回はあえて触れないが、識別の仕方だけ述べておくなら、フロントのスクデット(盾の部分)やグリル下部、サイドスカートやリアのディフューザーなどがシルバーであしらわれているのがTI、その部分がブラックアウトされているのがヴェローチェで、おそらくその基本的な意匠は日本仕様も変わらないだろうと推測している。

アルファ ロメオDNAを受け継いた「トナーレ」の乗り心地とは

 ともあれ、写真や映像で見て“カッコいいな”と感じてたトナーレは、実車を見るともっとカッコいい、と個人的には強く感じる。スタイリング・デザインは良し悪しよりも好き嫌いが先に立つものだけど、ここはES30の「SZ」、このラインは昔の「ジュリア・クーペ」、ここは「8Cコンペティツィオーネ」で、ここは「デュエット」? ここは916の「GTV」? ここはもしかして「8C2900」? ……みたいな感じで、かつてのアルファ ロメオの名車たちの面影のエッセンスを発見できるのは楽しいし、それでいて何かの模倣にはまったく思えず、独特な存在感を漂わせてるのは素晴らしいと思う。デザイン的にはかなり高度な手法だ。

 姉にあたる「ステルヴィオ」よりさらに彫刻的でシャープな印象。キュッと引き締まって感じられるのは、単にサイズが小さいからだけじゃないだろう。

試乗した「トナーレ」は160hp仕様のハイブリッド・モデルの上級グレードで、あらゆるシチュエーションで満足感の高いパワートレインであった

 もちろん車体がステルヴィオよりひとまわり小さいのは事実だ。全長4528mm×全幅1835mm×全高1604mmというサイズは──高さはともかくとして──ステルヴィオとジュリエッタのちょうど中間ぐらい、といったところ。コモの湖畔をスタートして最初に感じたのは、その車体のコンパクトさだった。湖と山の間に街が形成されているエリアということもあって、道幅はほとんどのところが狭い。ステルヴィオより横幅が70mm狭いのは、こうした場面ではいいアドバンテージとなる。日本でもステルヴィオに惹かれているのにサイズで悩んでる人が少なからずおられるようだが、そういう方にはトナーレはいい選択肢になるだろう。

●乗り心地抜群でいて適度にスポーティ

 その次に感じたのは、実は乗り心地のよさだった。最初にステアリングを握ったのはアクティブ・サスを備えたヴェローチェだったのだけど、DNAのダイヤルをN(=ナチュラル)かA(=アドヴァンスト・エフィシェンス)にしておく限り、路面の凹凸を綺麗にいなしながら、しなやかに路面の上を滑っていく。荒れている箇所や大きな段差に差し掛かればもちろん突き上げのようなものはあるが、衝撃の角が上手く丸められている感じで、嫌な気持ちにはまったくならない。同乗する家族からはまず苦言など出てこないに違いない。

 ただ、その辺りは他のコンパクトSUVでもカバーできるかも知れない要素である。肝心の──SUVに対して自然にこの言葉が出てくるのも考えてみればすごいことだけど──スポーティな走り、アルファ ロメオらしいドライビング・プレジャーはあるか、だ。

 1.6リッター直4ターボと48Vハイブリッド・システムの組み合わせは、目が醒めるほどパワフルというわけじゃないけれど、気持ちよさと楽しさをちゃんと併せ持っていた。妙に嬉しい気持ちになった。あまりクチにする人が多くないのは意外なのだけれど、ファイアフライ系はもともとは実用エンジンなのに実は思いのほかシャープに回るし、回したときにはわりと快いサウンドを聞かせてくれたりもする。

 それをベースにしているのだから当たり前といえばそうなのだろうけど、この160hp仕様も4気筒らしい結構いい音を響かせながらトップエンドまで淀みなく気持ちよく回っていくし、おそらく皆さんが想像するより性格としては高回転型で、ペダルとパドルを積極的に操作しながら走りたくなるエンジンだった。

 物凄く速いとまではいえないが、充分にスポーツできるし、スピードもしっかり伸びていく。もちろんそれにはハイブリッド・システムのアシストも効いているのだろう。でも、例えば静止状態から20km/h程度までの間にP2モーターのみで走っているとき、低回転域での走行からアクセルペダルを踏んで速度を上げていくとき、アクセルペダルを抜いて回生が働いてるとき以外、実はあまりハイブリッドであることを感じない。というか、気づくとハイブリッドであることを忘れている。メリットが感じられないからではなく、フィーリングがあまりに自然だからだ。そんなところも含めて、あらゆるシチュエーションで満足感の高いパワートレインだと思う。

「トナーレ」はアクティブ・サスとアナログ・サスのどちらが正解?

 今回の試乗コースは、湖畔の街中、街と街をつなぐ郊外の道、山の上の方や湖に突き出ている大きな岬にあったワインディングロードといった感じ。そのほとんどが基本的には狭く、それなりに交通量もあって、試乗にうってつけとはいいがたい状況だった。

 が、アベレージ・スピードは決して高くはなかったものの、わずかながらトナーレの運動性能を試せるようなところはあった。DNAダイヤルをD(=ダイナミック)にして突入してみると、背の高さがあるし、おそらくロールもそれなりにしているのだろうけど、まるでハッチバックのジュリエッタでも走らせているのかと思えるほどの曲がりっぷりを見せる。アンダーステアなんてまず感じない。ヘアピンのようなコーナーでもきっちりリアが気持ちよく素早く追従してくる。それどころか場合によってはスルリと適度にリアを泳がせて曲がっていくことだってできる。おもしろいくらいにクルリ、クルリと綺麗なターンを見せてくれるのだ。

 ステルヴィオを初体験したときの“これってSUVだよねぇ……?”と呆気にとられたときの気分を思い出した。ハンドリング、抜群である。

「トナーレ」コックピット。スポーティでありながら細部まで洗練されている

 ただしステルヴィオと異なるのは、ステアリングを切りはじめた瞬間の反応がそこまでは鋭くないこと。切りはじめはちょっと穏やかな感触で鮮烈というほどの印象はない──といってもフツーのSUVと較べたら明らかにクイックだ──が、そこから先で俊敏さの密度が濃くなっていくような感覚。曲がりはじめたらものすごく曲がっていく感じ、といえば伝わるだろうか。

 といって、ロールが急に激しくなるわけでも、オーバーステアになるわけでもない。クルマの動きも描いていく軌跡も、極めて自然。ドライバーはただただ曲がっていくことが気持ちいい。何だかちょっとマジカルな感覚なのだけど、おそらくそれは曲がるときのクルマの姿勢が抜群にいいんだと思う。

 トナーレのステアリング・ギア比は13.6対1と、このクラスのSUVにしてはクイックだけど、ステルヴィオの11.7対1と較べればマイルドな設定だ。ステルヴィオの場合には驚くほどクイックなステアリング・ギア比をホイールベース長めの車体で受けとめている感じがあるが、トナーレは? とホイールベース/トレッド比を計算してみたら、車体側の方がステルヴィオと較べてより曲がりやすい方向の数値を示した。さらにはハイブリッド・モデル全車に標準で備わる電子制御式セルフロッキング・デフなどデバイス類の調律。そんなところの絶妙なサジ加減で、素晴らしいバランスを作り上げてるのかも知れない。

 ちなみに途中で非アクティブ・サスとなる基本形、KONIと共同開発をしたFSDダンパーを備えるTIに乗り換えたのだが、こちらがまた素晴らしかった。

 アクティブ・サスのモデルでモードをDにするとエンジンやモーターの特性、ギアの変速スピードと同時に、サスペンションもグッと一段階引き締まり、コーナリングでのパフォーマンスも一段階高くなる。が、トナーレの運動性の素晴らしさは、そこだけに依存したものじゃなかった。

 アクティブ・サス装着車はモードを切り換えることで乗り心地のよさと運動性能のどちらも引き上げることに成功してるが、それは双方を結ぶ幅が広くなったようなもので、その幅の多くの部分はベースとなったシャシでカバーできている。電子制御で誤魔化しているわけじゃなく、乗り心地の面でも運動性能の面でも、もともとの基本性能がすこぶる高いのだ。

 体感できるくらい幅が広がっていることは確かだから、その幅広さが欲しい人はアクティブ・サスを選ぶのがいいと思うけど、なくてもまったく問題ない。むしろ基本形のすっきりしたフィーリングの方が好み、という人もいるだろう。僕はどちらかといえば後者。アナログ・サスでも充分に満たされていると感じたからだ。

 いずれにせよ、どちらを選んだとしてもトナーレが抜群のハンドリングカーであることに相違はない。あまりに楽しかったので話がオタクっぽい方向に向かってしまったが、向かっちゃったついでにもうひとつ。

●日本に正規導入されるのは2022年末か!?

 試乗が終わって会場に戻った後、エンジニアのドメニコ・バニャスコさんがいらしたので訊ねてみた。バニャスコさんはアルファ ロメオのハイパフォーマンス・モデルの総責任者であり、ジュリアGTA/GTAmや4Cなども、もちろん彼の作品のようなもの。彼がこの場にいて僕たちプレスの具体的な質問に答えるということそのものが、アルファ ロメオの中でのトナーレの位置づけを示しているようなものだ。

 ともあれ僕が感じて考えたことを伝えてみると、彼は大筋それを肯定してくれた上で、それだけじゃないんですけどね、と教えてくれた。細かいことを記すとキリがないのでこれまたざっくりした説明になるから省くけど、つまりはサスペンションのジオメトリーや車体各部の剛性の持たせ方などを念入りに構成することで、普通のクルマなら前後のホイールの最上部あたりの高さにあるロールの中心となる軸を、トナーレでは前側をホイールのセンター辺りの高さ、つまり前下がりに設定するなど、クルマが曲がるときの姿勢とその動き方に徹底的にこだわって開発を進めてきたようなのだ。

 なるほど、数々のスペシャル・モデルを手掛けてきたエンジニアは、単に味つけじゃなくて根本的な部分から“曲がる”クルマに仕立てた、ということなのか。だから普通に交差点を曲がったり当たり前のようにコーナーを抜けていくだけで、自然に楽しく快いのだな。

……と、多くの人にとってはウザくて読んでいられないと感じられるかも知れないようなところまで入り込んじゃったわけだけど、それは繰り返しになるけどトナーレがアルファ ロメオらしいドライビング・プレジャーを感じさせてくれて、嬉しくなっちゃったから。

 まだこの後に275hp+4WDのプラグイン・ハイブリッド・モデルが控えているし、もっとハイスピードな領域で試してみたかったこともあるけれど、僕はもうこの前輪駆動のハイブリッド・モデルでも大満足。本文ではほとんど触れていないけど使い勝手のいいSUVで、便利な先進機能の数々も持っていて、カッコよくて、何よりフツーに走っていて楽しいし気持ちいいのだから。

 日本に上陸するのは、おそらく2022年の年末あたり。まだ夏も来てないのに、ひと足飛びに冬がやってきて日本の地で走らせてみたいと感じてる。……ああ、待ち遠しい。