YouTubeには、動画内に使用された音楽が著作権違反をしていないかチェックする機能が備わっています。違反していた場合、YouTube側は、動画を無音にしたり、収益化を無効にしたり、悪質な場合は動画削除などをおこないます。そのYouTube上の仕様を利用し、事件現場の撮影を妨害する行為が、アメリカの警察官によっておこなわれました。

どうして警察がディズニーアニメの主題歌をパトカーから流したのか?

 ポルシェ「カイエン」が乗り捨てられた現場は、アメリカ・カリフォルニア州オレンジ郡のサンタアナの住宅地だった。サイレンこそ鳴らしていなかったが、多数のパトカーが警光灯を点滅させ物々しい雰囲気に包まれていた。

 そんな住宅街に住むYouTuberが早速、自身のスマートフォンで撮影を開始。すでに犯人は逃走していた様子で、緊迫した状況ではなかった。誰もがスクープカメラマンになりうる時代、YouTuberにとっては独占取材の機会でもあった。

●携帯ひとつでスクープを公開できる時代

 正確な時間は定かではないが、住民の姿を見かけないことから撮影された時間帯は深夜の様子。そしてYouTuberの存在に気づいた警察官が突如、パトカーのスピーカーから映画『トイストーリー』の主題歌をはじめとしたディズニー音楽を流し始めたのだ。それも結構な音量で……。

 これは決して周囲の雰囲気を和やかにする目的ではない。

 深夜にディズニー音楽が大音量で流れたら、周辺住民も何事かと思って家から出てくる。そんなひとりに地元の市議会議員、ジョナサン・エルナンデスが含まれていた。エルナンデスは市会議員就任後、自身の目の前で従兄が警官に撃たれる現場に居合わせた人物として有名だ。

 当然、深夜なのでエルナンデスは怒りながら警官のひとりに抗議。警官はディズニー音楽を流すことで、YouTuberが動画をアップロードした際、その動画が著作権侵害としてYouTubeに判定されるのを狙った、と認めた。

 動画内で印象的だったのは、エルナンデスが「Do you know who I am?(俺が誰だか分かるか?)」と警官に問いかけた場面。まるで映画のワンシーンのようだ。

ところで乗り捨てられた「カイエン」はどうなった?

 YouTubeへの動画のアップロードを阻止するために、大音量の音楽を深夜に流すことは地元コミュニティにもYouTuberにも失礼な行為で、警官はもっと敬意を払って対応すべき旨、エルナンデスが諭し、警官は双方に謝罪。エルナンデスと握手を交わし、その場は収められた。

この騒動の後に公開されたサンタアナ警察署長の声明。今後、第三者視点で徹底した調査をおこなうとも述べられている(C)サンタアナ警察署

●迷惑系YouTuber対策だった!?

 後日、サンタアナ警察が公式ツイッターでこの事実を認め、警察署長が声明を発表している。

「サンタアナ警察署が期待することは、全ての警察署の職員が奉仕するために雇われているコミュニティに尊厳を持ち、敬意を払いながら職務を遂行することです」

 音楽を流してYouTubeへのアップロード阻止・削除を目論むことは、奉仕の精神に反する、ということなのだろう。なお、アメリカでは「表現の自由」を振りかざし警官を執拗に撮影したり、公的機関の施設で撮影したりして、警官とわざと揉める“迷惑系YouTuber”がいるのも事実。そうしたYouTuber対策だったのかもしれないが、今回のYouTuberはただ、現場を撮影していただけだった。

 皮肉なのは映画『リメンバー・ミー』の主題歌を流していたこと。この映画はアメリカにおける白人とヒスパニック系の絆を深める内容だったのだが、現場ではそんな曲をヒスパニック系YouTuberに向けて流していたのだから……。

 なお、ポルシェ・カイエンがなぜ乗り捨てられていたのか、どうなったのかは報じられていない。恐らく、捜査は継続しているのだろう。そして、動画撮影時のこのYouTuberのチャンネル登録者数は4000名ほどだったが、今は6700名を超えている。めでたし、めでたし。