電動化を前に、あえて新規で内燃機関を開発したマセラティ。そのV6ユニットを搭載した、新たなブランドアイコンとなるスーパースポーツが「MC20」です。ブランドにとってはおよそ半世紀ぶりの新型となる量産ミドシップカーを、京都まで試乗しました。

「MC20」に搭載するV6を自社開発したマセラティの展望とは

 自社製のエンジンに特別な魅力(サウンドや回転フィールなど)のないブランドほどBEV化が進む。それが持論だったが、マセラティは違う。大々的な電動化を前に、実に魅力的な内燃機関を新規で開発してくれたのだから。

 90度のVバンク角(挟角)をもつ3リッターのV6ツインターボエンジン、通称ネットゥーノ。F1テクノロジーであるプレチャンバー燃焼を取り入れた最新のV6だ。

 マセラティのV6と聞いて思い出すのはマラネッロで生産されているF160だろう。Vバンク角60度、クライスラーペンタスター由来となるこの3リッターエンジンは現在もマセラティの「ギブリ」「やレヴァンテ」に積まれているが、フェラーリとの契約が切れる2022年をもってその供給が終わる。そのためマセラティは決断を迫られた。次世代モデル用のエンジンをどうするのか……。

 将来の電動化を一気に進めるというのであれば、マラネッロとの縁が切れることを機にいっそ内燃機関の搭載を諦めるという方法もあったはずだ。もしくはアルファ ロメオ製の3リッター90度V6、690Tエンジン(これもまたマラネッロの開発品だが)をもらうという手も考えられた。

 けれどもマセラティはいずれの安易な方法も選ばず、もっともリスクの高い自社開発、しかも新工場を作っての自社生産に乗り出す決断を下す。つまりモデナの老舗は、ただ時流にのって電動化の道を選んだのではなく、次世代モデルの魅力をいかに高めるかを真剣に考えた結果、新規でのエンジン開発とハイブリッドやフルEVの電動化という大メーカー級の両面戦略を取ったというわけ。BEVモデルはもちろん、ネットゥーノを核としたハイブリッドモデルの登場も楽しみだ。

●内燃機関とモーター、両方に対応するエンジニアリング

 そのことを端的に表現するモデルが、新たなブランドアイコンとなったミドシップスーパーカーの「MC20」である。つい先日、その名も「シエロ」=空というスパイダーモデルの追加が発表されたばかりだが、実はこのMC20、当初から電動化、もっというとBEVとして成立するようエンジニアリングされたスーパースポーツだ。

 まずはネットゥーノV6ユニットを搭載してモデナの老舗の“還ってきた実力”を示す(なんといってもブランドにとってはおよそ半世紀ぶりの新型となる量産ミドシップカーなのだ)。ブランドのイメージをさらなる高みにあげた上で、今度は次世代のヒーローになるべくBEVのMC20をデビューさせる。つまりMC20というミドシップカーはブランドの過去と未来、パワートレインのまるで違う世界をつなぐ適役というわけだった。

 上陸したばかりのMC20を駆って、早速、京都まで長距離ドライブを楽しむ。前評判の高い新開発エンジンと、かのダラーラが協力したというカーボンモノコックボディ、美しいけれどもシンプルなスポーツカースタイルで、そのイメージは硬派なスポーツカーだろう。グランドツーリングに果たして向いているのか、どうか。

「MC20」を京都までのグランドツーリングで試して分かったこととは

 果たしてそれは杞憂だった。2シーターのミドシップスポーツカーとは思えないほど、上質なGTだ。落ち着きのあるフロントアクスルとしっかり粘るリアアクスル、さらにカーボンボディとの一体感や滑らかな乗り心地が、安心安定の高速走行を生み出している。何よりエンジンが拍子抜けするほど静か。ドライブモードをGTもしくはウェットにさえしておけば、630psを誇る海神(ネプチューン)も惰眠を貪ってくれている。ラウドなサウンドは意外に疲れるもの。エンジン音が寝息ほどに静かに心地よければ、長距離ドライブも安楽だ。

カーボンモノコックボディを採用、徹底的な軽量化により車両重量は1500kg以下となる(C)タナカヒデヒロ

●ダラーラが協力したカーボンモノコックボディ

 軽い車体と硬いボディ、それゆえよく働くアシは高速クルージングにも、また市中のドライブにも有効だ。常にクルマが自由になっているという実感が、ドライバーに自信と余裕を与えてくれる。低さと幅広さは狭い京都の街中では気を遣ったが、それでもタイトな着心地のクルマゆえ面倒に思うまでには至らない。

 もちろん、MC20の真骨頂はスポーツドライビングだ。いつものワインディングロードに出かけてみれば、水を得た魚、どころか水そのものになったかのよう。流れるようなドライビングスタイルをいつの間に手に入れたのだろうか、と自分を褒めそうになってしまう。

 スポーツモードにスイッチすれば、穴という穴から火を噴き出す海神さながらに爆音を響かせ、のけぞるような加速と電光石火かつダイレクトな変速をみせる。ステアリングフィールもまたダイレクトかつソリッド。前輪はハンドルを通じて両腕と直につながっているかのようだ。トラクション性能も抜群で、一般道レベルであればどんなコーナーでも安心して踏んでいけた。もちろんブレーキフィールは安心と正確さという点でロードカーの最高レベル。

 と、そこで思わず膝を打つ。同じような乗り味のクルマを思い出したのだ。それは「ダラーラ・ストラダーレ」。カーボンモノコックボディを持つミドシップの本格スポーツカー。街中での乗り心地は「5シリーズMスポーツ」並みで、サーキットパフォーマンスは超一流。なるほどダラーラが開発に協力したというMC20は、性能をさらに引き上げロードカーとしての機能により磨きをかけた上等なダラーラ・ストラダーレなのだった。

●MASERATI MC20
マセラティMC20
・車両価格(消費税込):2644万円
・全長:4669mm
・全幅:2178mm
・全高:1224mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:1500kg
・エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
・排気量:3000cc
・エンジン配置:リアミッドシップ
・駆動方式:後輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:630ps/7500rpm
・最大トルク:730Nm/3000−5750rpm
・0-100km/h:2.9秒以下
・最高速度:325km/h以上
・公称燃費(WLTC):8.6km/L
・ラゲッジ容量:50L(フロント)、100L(リア)
・燃料タンク容量:60L
・タイヤ:(前)245/35R20、(後)305/30R20