7世代目へとフルモデルチェンジした「7シリーズ」のトップモデルはBEVへと変わり、マニア垂涎のV12エンジンは潔くなくなってしまう。そんな、ひとつの時代が終わってしまう直前、V12エンジンを積んだ最後の7シリーズ「M760Li xDrive」で長距離ドライブ。改めて、その素晴らしさをお伝えします。

V12を搭載した最後の「7シリーズ」を長距離で堪能する

 7シリーズがフルモデルチェンジした。第7世代となったブランドのフラッグシップサルーンはG70と呼ばれる。映画の主人公も真っ青なアイアンマンマスクには賛否両論あるだろう。筆者はやや否定的で、前型までのモデルへの郷愁がいっそう募る。

 それはさておき、ボディサイズはいっそう大きくなって、現時点では全長およそ5.4m、全幅2m、ホイールベース3.2m超のロングホイールベースモデルのみが発表されている。ロールス・ロイスにだって立ち向かえそうなハイエンドサルーンの極み。存在感は史上最高レベルに達した。

 G70において注目すべきはそのグレード構成だ。トップエンドは「i7」とそのM仕様である「M70 xDrive」(2023年に登場予定)で、つまりBEVとなった。ストレート6+電気モーターのプラグインハイブリッドグレード、「M760e xDrive」の設定もある。ちなみに他のエンジングレードは従来と同じくストレート6のガソリンとディーゼル、そしてV8ツインターボで、いずれもマイルドハイブリッド仕様となる。

 最高出力のスペックだけを上から順にみると、600ps以上のM70がトップグレードで、次にシステム総合出力571psの「M760e」、そしてツインモーター544psのi7となる。このあたり、マーケットの政治的および経済的な相違やライフスタイルの違いで選ぶハイエンドサルーンでありたいというBMWの戦略だろう。事実、ヨーロッパ市場では当初BEVのi7のみを販売するという。

 ハイエンドの電動化には両手をあげて賛成する筆者も、このエンジンラインナップを見て、改めて落胆するほかない。マニア垂涎のV12エンジン搭載は以前にアナウンスされたとおり、潔くなくなったからだ。

●マニアが惚れ込むV12エンジンは潔くなくなる

 BMWといえばエンジン屋であり、ストレート6で名を馳せるメーカーである。その二丁がけというべきV12エンジンにマニアが惚れ込むのは当然だろう。歴代の12気筒エンジンは全部で4機種。第二次世界大戦後のドイツで初の12気筒となったM70、ロールス・ロイスにも転用されたM73やN73、過給機付きとなったN74である。

 良質な中古車を探せば楽しめなくもない。だから今、慌てて嘆く必要はないかもしれないが、ひとつの時代が終わってしまったことは確か。V12エンジンを積んだ最後の7シリーズ、M760Li xDrive(G12)を長距離ドライブで堪能した。最高出力は609ps!(M70はそれを超えてくるに違いない)

BMWのV12でないと得られないドライビングプレジャーとは

 いったい、いつの間にドイツ車もこれほど豪奢になったのだろう。おそらくメルセデスあたりがデザインを売りにし始めた頃からか。英国の老舗にしてみれば「今さらこっちにこないでよ」かもしれないが、そこは「3シリーズ」や「5シリーズ」で随分と慣れ親しんだブランドで広がる風景も見慣れたもの(ただし高級)だから、ロールスやベントレーに乗った時のような緊張感はほとんどない。

 全長5.3m弱、ロングホイールベース仕様であっても運転しやすいとすぐさま思える理由は、前輪の動きが正確で思いどおりに動くという印象を持つことができるから。3や5のセダンとさほど変わらぬ感覚でドライブできる。もちろん、ひとつひとつの動きは2000万円超級のモデルに相応しい上質な仕上げになっているのだが、ドライバーとクルマの動きの関係性がモデルによって変わらないことがBMWのドライバビリティ哲学というものだろう。

メリノレザーなどを用いたラグジュアリーな仕立て。デジタルメーターやAI音声会話システムなどの最新装備も備わっている(C)益田和久

●V12でしか味わえない感覚や感動

 じわりと慈しむようにしてアクセルペダルを踏み込んだ。

 最大トルク850Nmを誇る6.6リッターV12ツインターボエンジンと聞けば、驚愕の加速を想像するが、単に力を誇示するような類のパフォーマンスの発露ではなかった。車名にMがつくグレードとはいうものの、フラッグシップサルーンなのだ。スーパースポーツのように過激な加速とは無縁で、むしろV12の圧倒的な力を抑え、じわじわと加速に転じていく。トルコンATが慎重に、そして全身に染み渡らせるかのようにパワーを伝達する。このプロセスだけは12気筒以外ではおそらく味わえない。とろけるような加速フィールとはこのことだ。

 驚かされるのはそこからだった。2.3トン超の巨体がある程度の速度にのってくると、カーボンコアボディに鞭が入り、今度こそ恐るべき加速に転じた。これだけの排気量があると、ツインターボの存在などまるで感じない。極めてリニアな加速フィールだ。嗚呼、もうこのフィールを新車で味わうことができなくなるなんて……。

 何しろオートクルーズを使ってエンジンを右足裏で感じることなく走ることがもったいなく思うほど。右足に軽く力を込めて12気筒エンジンとつながっている感覚をずっと味わっていたい。心地よくくすぐったいような感覚は、やはりV12ならではだ。

 いつでも思いどおりの加速に転じることができる。どこからでもスムースかつ力強く加速できる。金(パワー)持ち喧嘩せず。気持ちよさそうに唸るV12を右足裏に感じながら、ここぞ!という時だけその性能の一部を軽く解放する。つまり低回転域で十分に快適なクルーズを続けることができる大排気量マルチシリンダーエンジンでのロングドライブは、極楽だ。何ならエコプロモードの高いギアでも気分がいい。そんなエンジン、なかなかない。

 望めばワインディングロードでかなり上出来のスポーツサルーンとして振る舞ってくれる。積極的に運転して楽しいと感じさせるあたりは、さすがはBMWである。筆者はこのモデルでサーキットも走ったことがあるけれど、高い速度域におけるコーナリングで物理的なマスを感じること以外、アグレッシブに攻めることができた。

 おそらくM70のスペックはM760を上回ってくるだろう。けれどもドライビングテイストはどうだろうか。とくにV12を穏やかにドライブした時の快感は、BEVになってどう表現されるのだろうか。電気自動車の性能に期待する前にどの年式でもいい、V12を積んだBMWを一度は試しておきたいものだ。

●BMW M760Li xDrive
ビー・エム・ダブリューM760Li xDrive
・車両価格(消費税込):2665万円
・全長:5260mm
・全幅:2169mm
・全高:1479mm
・ホイールベース:3210mm
・車両重量:2320kg
・エンジン形式:V型12気筒DOHCツインターボ
・排気量:6591cc
・エンジン配置:フロント縦置き
・駆動方式:四輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:609ps/5500rpm
・最大トルク:850Nm/1550-5000rpm
・0-100km/h:3.8秒
・公称燃費(WLTC):6.7km/L
・ラゲッジ容量:515L
・燃料タンク容量:78L
・サスペンション:(前)ダブルウィッシュボーン式、(後)インテグラル・アーム式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ベンチレーテッド・ディスク
・タイヤ:(前)245/40R20、(後)275/35R20
・ホイール:(前)8.5Jx20、(後)10Jx20