日産の新型「フェアレディZ」を日産自動車のテストコースで試乗しました。開発陣はもちろんのこと、日産自動車の内田誠社長さえもZのファン。そのせいか、新型の走り味は随所に熱さを感じさせる出来栄えでした。

社長も開発リーダーも開発陣もみんなZのファン

 史上最強の日産新型「フェアレディZ」をついにドライブできる日が訪れた。試乗の舞台は、高速周回曲線路などを織り交ぜた日産の北海道陸別試験場だ。

 新型フェアレディZの試乗会は、事前のプレゼンテーションから斬新だった。メディア向けのプレゼンでは、新型車のねらいや特徴をレクチャーするのが一般的。その際、開発陣らのプライベート写真が掲示されることはまずない。

 しかし、新型フェアレディZのそれは違った。それぞれ車両とオーナーが異なる2枚の写真が投影されたのだ。その1枚には、初代S30型の横でポーズをとる、プレゼンのスピーカーであり新型フェアレディZのブランドアンバサダーでもある、日産自動車・田村宏志氏の若かりしころの姿が。そしてもう1枚には、Z32型の運転席に座る、日産自動車社長・内田誠氏の若かりしころの姿があった。いうまでもなく、どちらも“愛車”と撮った記念の1枚だ。

 企業のトップとクルマの開発を指揮したふたりが、若いころにフェアレディZに乗っていた。これだけでビッグニュースだ。内田氏がZ32(しかも、ターボ仕様のMT!)を購入したのは、日産自動車に入社する前のこと。以前、「相当、無理をして新車を買った」と当時のことを振り返っている。一方の田村氏は「見た目重視でフォグランプをつけましたが、それが空気の取り入れ口をふさいでいますね。性能ダウンになっている。なにもわかっていなかった若かりしころの過ちです。でも、カッコよかったんですよ!」と笑う。

 13年半ぶりに新型へと生まれ変わったフェアレディZだが、いま、スポーツカー界はかなり強い逆風を受けている。まずスポーツカー自体、かつてほどの人気がない。さらに、二酸化炭素の排出量削減への流れを受け、スポーツカーのように燃費の悪いモデルは、メーカーにとって大きな負担となっている(メーカー内の平均燃費が基準値に満たないと、それに応じて罰金を払わされる国や地域がある)。だから、事実上、ハイパワースポーツカーの開発を中止するメーカーさえ現れはじめた。出したいけれど出せない、これかスポーツカーを取り巻く現状なのだ。

 そんななか日産は、新しいフェアレディZを世に送り出した。それだけで大きな拍手を送りたい気持ちでいっぱいだ。しかし、口の悪い人たちは「新しいZは単なるマイナーチェンジモデルに過ぎない」という。確かに新型は、フルモデルチェンジではなく、型式をあらためない改良モデルという位置づけだ。そのため型式は、Z34(正確にいえばRZ34へと進化)と従来モデルのそれを継承。プラットフォームなども従来モデルから基本構造を受け継いでいる。

 しかし、パーツ単位で見れば、8割もの部品が従来モデルとは異なっている。そもそも、車体からして実質的に新設計に近いものだし、エンジンだって従来モデルとは異なる。なにより、内外装デザインに従来モデルの面影はない。フェアレディZの“新型”が登場したという事実だけで、大歓迎すべきだろう。

暴力的エンジンをMTで味わえることこそ新型の醍醐味

 新型フェアレディZの最大のトピックは、Zの歴史上、最大のパワーと最高の速さを手に入れたこと。エンジンは、先代モデルの3.7リッターV6自然吸気から一転、405psを発生する3リッターV6ターボに換装された。従来モデルから69psものパワーアップを果たしている。ちなみにトランスミッションは、6速MTもしくは9速ATを組み合わせる。

完成度の高い走りを披露した史上最強のRZ34型フェアレディZ

 実際に走らせてみると、とにかくパワフルというひと言に尽きる。テストコースで走らせた新型フェアレディZは、日本の制限速度である120km/hにあっという間に到達してしまう。なにしろトルクの太さが印象的でグググッと力強く加速する一方、高回転まで気持ちよく回るのが心地いい。

 エンジン自体は「スカイライン400R」が搭載するものをフェアレディZ用に最適化しているが、そのハイパワーエンジンにMTを組み合わせたのは新型フェアレディZが初めて。暴力的なエンジンをMTで楽しめることこそが、新型フェアレディZの醍醐味だ。

 残念ながら、試乗当日の路面はウエットコンディションだったが、新型フェアレディZのスタビリティの高さと、峠道を舞うように駆け抜ける繊細なハンドリングをしっかり感じることができた。後輪駆動のハイパワーモデルでありながら、接地感がしっかりとドライバーへと伝わってくるため、雨の日でも安心して走れる。しっかり調教されており、まったく神経質な印象はない。

 MTにつづいて乗ったAT仕様は、エンジンパワーがダイレクトに路面へと伝わる感覚が強く、ATだからといって走りの楽しさがスポイルされていない。むしろ、ハンドリングに集中できるATの方が、走りを楽しむにはいいと思ったくらいだ。ちなみに停止状態から400m地点までの加速力を競う“ゼロヨン”では、ATの方がMTより速いくらいだ。

●Zへの搭載を夢見て開発されたエンジン&トランスミッション

 このように、新しいパワートレインを得た新型フェアレディZだが、実はゼロから新たに開発されたメカはない。前出のように、エンジンはスカイライン400Rに搭載されているVR30DDTT型がベース(アクセルレスポンス向上のため、リサキュレーションバルブなどを新規で追加)だし、9速のATユニットはトランスミッションケースこそZ専用となるものの、内部は北米向けのピックアップトラック「タイタン」用に開発されたものがベースとなる。

 しかし、VR30DDTT型エンジンと新しい9速ATには、新型フェアレディZと深い関わりがあった。

「開発時の設計要件にはありませんでしたが、このエンジンはフェアレディZのエンジンルームに収まるよう設計しました」と語るのは、エンジンの開発担当者。

 彼は「見て下さい!」とエンジン上部を指さし、「スカイライン400R用に設計したときから、フェアレディZの特徴的なタワーバーを逃げられるよう、エンジン上部を設計しています。新しいフェアレディZにこのエンジンが乗ればいいな、と思いまして……」とうれしそうに話してくれた。

 一方、トランスミッションの開発担当者も「タイタンはピックアップトラックなので、このレベルまで突き詰める必要はなかったのですが、それでも変速レスポンスを高めることができるよう設計しました。もしかするとこのATが、スポーツカーにも使われるのではないか思いまして……」と、設計時の逸話を振り返る。

 ふたりとも、当初の設計要件には盛り込まれていなかったものの、自主的にフェアレディZへの搭載を見据えて開発していたのだ。その理由は、彼ら自身がフェアレディZのファンだからにほかならない。各担当者は、新型フェアレディZのプロジェクトがスタートする前から、着々と次期モデルへの準備を進めていたのである。

「このクルマは、多くの人をターゲットにしたモデルではありません。Zのファンに贈るもの。最高のZです」

 アンバサダーを務める田村氏も、そう断言する。新型フェアレディZはあくまで、ファンのためのクルマなのだ。そして、そのファンには、フェアレディZのことが好きでたまらない各開発担当者はもちろんのこと、ひとりのクルマ好きとしての田村氏や内田社長も含まれている。

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 おそらく新型フェアレディZは、モーターを組み合わせていないハイパワーエンジンを搭載する、最後の世代となるだろう。「カッコよくて!」、「ハヤくて!」、「いい音!」というのが、田村氏が歴代最高のZをつくり上げるために磨き上げてきた3つのポイントだ。シンプルでありながら実にわかりやすく、そして、いずれも人の感情を揺さぶるのが、また田村氏らしいところである。

 新しいフェアレディZは間違いなく、歴史に残る1台となるだろう。

●NISSAN FAIRLADY Z Version ST
日産 フェアレディZ バージョンST
・車両価格(消費税込):646万2500円
・全長:4380mm
・全幅:1845mm
・全高:1315mm
・ホイールベース:2550mm
・車両重量:1590kg(MT)/1620kg(AT)
・エンジン形式:V型6気筒DOHC+ターボ
・排気量:2997cc
・駆動方式:FR
・最高出力:405ps/6400rpm
・最大トルク:475Nm/1600〜5600rpm
・燃料消費率(WLTC):9.5km/L(MT)/10.2km/L(AT)
・サスペンション:(前)ダブルウイッシュボーン式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ベンチレーテッド・ディスク
・タイヤ:(前)255/40R19、(後)275/35R19