大阪・高槻駅前の松坂屋高槻店にお菓子のセレクトショップ「スイーツボンボンよしや」が登場し、その品ぞろえのユニークさが注目を集めている。「今までになかった百貨店ブランド+健康+キッズ+SDGs=お菓子のセレクトショップ」をコンセプトに、全国の珍しいお菓子を取りそろえているという。お菓子とSDGs、果たしてどんな関係が?現地を訪ねてみた。

■全国の知られざるお菓子が大集合
2021年10月6日にオープンした「スイーツボンボンよしや」は、関西を中心に118店舗(FC含む)を展開する「お菓子のデパートよしや」の新ブランド。よしやが百貨店に進出するのは今回が初めてとなる。

子どもサイズのカラフルなゲートに迎えられて店内に入ると、これまでよしやで取り扱ってきた大手メーカーの菓子類に加え、百貨店でお馴染みのブランド菓子や、全国各地のお土産菓子、福祉施設の利用者によって製造された商品など、600種類以上ものお菓子がそろう。

店長の新免真梨子さんに最近の売れ筋商品を聞くと、「生八ツ橋がよく売れていて、日に日に棚が拡大しています。昔懐かしい駄菓子も人気で、地元の中高生の方や子連れのご家族によくご利用いただていていますよ」とのこと。京都名物がお隣の大阪でよく売れるとは意外だ。

店のまん中で特に目立っていたのが「SDGs商品コーナー」。賞味期限が近づいているお菓子や、輸送中に割れたり歪んでしまったりした商品などの訳アリ品が割安で販売されている。もちろん、味や品質には何の問題もない。よしや各店では、食品ロスゼロを目指して10年以上前からこうした商品の値引き販売を行っているという。

■百貨店へ初進出、その思惑とは?新ブランド誕生の舞台裏
百貨店には珍しい「お菓子のセレクトショップ」という形態はどのような経緯で生まれたのだろうか。株式会社吉寿屋(よしや)の代表取締役・神吉一寿さんと、松坂屋高槻店のバイヤーである天野貴史さんの2人に話を聞いた。

―はじめに、「吉寿屋」がどんな会社なのか教えていただけますか。

神吉「昭和39年にお菓子の卸・流通業者として創業し、80年代から『お菓子のデパートよしや』をフランチャイズ展開しています。卸業は今も続いていて、大手スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど、皆さんにとっても身近な場所でお菓子に関わっているんですよ」

―今回、既存の「よしや」ではなく「スイーツボンボンよしや」を松坂屋に出店することになったのはなぜでしょうか。

神吉「よしや1号店から30年が経過し、そろそろ新しいチャレンジをしたいと思っていた矢先に松坂屋さんから声をかけていただきました。百貨店というブランド力がある場所に出店することで、新しいお客様、新しいお菓子メーカー様とのお付き合いができるのではないかと。百貨店にふさわしい店を作るにあたって、当社で推進しているSDGsを新ブランドに生かしてみてはどうかと考えたんです」

ー百貨店の立場から、「スイーツボンボンよしや」が出店するメリットを教えていただけますか。

天野「当店の主なお客様は中高年の方々でしたが、高槻というエリアはここ数年、子育て世代が増えているんです。これまでのお客様も大切にしつつ、ファミリー層にもっと喜んでもらえるお店が欲しいと思い、声をかけさせていただきました。

百貨店として多くのお菓子ブランドを取り扱おうと思うと、当店のような小規模店では人材の確保がネックになります。よしやさんが卸会社として築いてきたノウハウや、幅広い品ぞろえは魅力でした。神吉社長はとてもアイデア豊富な方。一緒にお店づくりをすることで、より良いものができるのではないかと考えました。地域の新たなコミュニティとして、お子様からお年寄りまで気軽に楽しんでもらえるお店になってほしいですね」

ー売り場に並んでいるお菓子はどんな基準でセレクトされているのですか?

神吉「既存のよしやと百貨店ではやはり客層が違いますので、出店にあたって新たに取引できそうなお菓子メーカーを探しました。お土産菓子のメーカーや、美味しいお菓子づくりに取り組む福祉施設などを一軒ずつ訪問し、製造状況や味を確かめたうえで店頭に並べています。ここに並んでいるお菓子は、全部食べましたよ」

―社長のお墨付きなんですね!全国のお土産品や、福祉施設で製造されたお菓子を置こうと思った理由を教えてください。

神吉「コロナ禍により、お菓子業界も大ダメージを受けました。とくに旅行ができなくなったことでお土産菓子は行き場をなくしてしまったんです。減産にも限度がありますし、廃棄されてしまう前になんとか力になれたらと考えました。

福祉施設のお菓子は、社員の知人の紹介で商談する機会があったのがきっかけです。施設で障害者の方々が作るお菓子は美味しいものがたくさんあるのですが、製造できる量が少ないため、販路を確保するのが難しいという課題があります。そこで、当社では無理なくできる量だけ供給してもらうようにしました」

―実はインタビュー前にお店で福祉施設で製造されたお菓子を探したのですが、置いてある場所がわからず…。特別にコーナーを設置されているわけではないのですね。

神吉「そうなんです。ポップで施設の紹介をしているものもありますが、基本的にはほかのお菓子と同じように並べています。『福祉施設で頑張ってつくっているものだから』と慈善活動のような気持ちで買っていただいても、継続は難しいと思うんですよ。やはり美味しいお菓子であることが第一。良いものを作り、お客様に喜んでいただくというサイクルをつくることで、福祉施設にとってもいい環境づくりに繋がるのではないかと」

―「SDGsコーナー」では形が崩れたお菓子を売っていたり、値引き販売をしていたりしますが、百貨店としてはハードルが高かったのではないでしょうか。

天野「たしかに、百貨店というブランドを維持するためにも、以前は過度な値引きやアウトレット品の販売はご法度でした。ですが、世の中の考え方は変わってきています。食品ロスを減らすことは、百貨店にとっても重要な課題なんです。よしやさんはこれまで自店舗で培われたノウハウもありますし、売り場のコントロールはおまかせしています」

神吉「もちろん、百貨店というブランド価値を保つことも大切ですので、百貨店で掲げる食品表示などのルールは厳守しています。松坂屋さんからご助言いただきながら、これまで百貨店への出店ノウハウのなかったメーカーさんにも協力してもらっています」

■「魔法の手?そんなんあったら知りたいですよ」食品ロス0を目指す地道な工夫
―今まで考えたことがなかったのですが、お菓子やお土産品が値引きされている店はあまり他にはないですよね。10年以上前から値引き販売をされているのはなぜでしょうか。

神吉「実はお菓子業界では、売れ残った商品は卸会社を経由してメーカーに返品するのが通例なんです。返品にかかるコストは全部メーカーが負担しますが、卸会社である当社の手間も相当なものです。せっかく作ったお菓子が手間をかけて返品されて、結局は廃棄されてしまう。こんなことでは業界は良くならないと考え、思い切って返品しない方針を打ち出しました。返品しないからには、お菓子はお店で売り切ってしまわなくてはいけません。値引きはそのための手段の一つです」

―食品ロスを防ぐために、値引き以外で取り組んでおられることは何でしょうか。

神吉「まずは確実に売れる数だけ商品を仕入れることですね。売り場の動きを読んだり、天候の悪い日は仕入れを少な目にするなど、現場にいるスタッフの勘を大切にしています」

―本部の指示ではなく、現場の声を聞きながら進めていくのですね。

神吉「そうです。仕入れだけではなく、売り場の作り方も売上に大きく影響します。商品の置き方で売れ行きは変わりますし、スタッフからお客様に”今日のおすすめはコチラです”と声をかけるだけでも全然違いますよ。最後の最後まで売る努力をする。それでも売れなければ、欲しい方に配ります。お菓子をもらって嫌がる人、ほとんどいませんからね」

―いろんなことを地道に取り組んでおられるのですね。”魔法の一手”のようなアイデアがあるのかと思っていました。

神吉「そんなん、もしあったら知りたいですよ(笑)。いろんなアイデアはありますが、成功も失敗もあります。たくさん試して、どれかが当たればと思っています」

―新ブランドをオープンして、手ごたえはいかがですか。

神吉「嬉しいことに、これまでたくさんのお客様に来ていただけています。毎日のように来てくださる方、『昨日勧めてくれたあのお菓子、美味しかったよ』と直接声をかけてくださる方もいらっしゃるようです」

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

神吉「SDGsが掲げる目標は環境問題だけではなく、働きがいの問題や貧困の解消など、とても幅広いです。製造現場のベイカーさんに始まり、配達業者さんや店舗スタッフなど、お菓子を皆さんのお手元に届けるまでに本当にたくさんの人が関わっています。それをムダにしたくはない。食品ロスをなくし、お菓子業界で働く全ての人の働く環境を良くすることで、目標達成に繋げていきたいですね」

SDGsという言葉を知っていても、何から始めればわからない…。そんな人は多いのでは。身近なお菓子にも、さまざまな社会課題が潜んでいる。持続可能な未来を想像する手がかりにピッタリかもしれない。