全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第7回は、熊本県・熊本市にある「Gluck Coffee Spot」。2017年7月にオープンし、今や熊本市内に計4店舗を展開する人気コーヒーショップだ。築60年の古民家を活用した居心地の良い空間がフォーカスされがちだが、コーヒーに対するポリシーも明確。どんな思いで立ち上げた店なのか、店長の三木さんに聞いた。

Profile|三木貴文
1990(平成2)年、大分県別府市生まれ。大学進学を機に熊本へ。大学卒業後、大手コーヒーチェーンのアルバイトからコーヒーの道へ。友人が立ち上げたコーヒーショップを経て、東京のカフェでバリスタとして腕を磨く。熊本に帰り、セレクトショップ「ON THE BOOKS」内のコーヒースタンドのスタッフとして勤務。2017年7月、「Gluck Coffee Spot」をオープン。

■熊本をコーヒーの街にする一助に
熊本市中心部、上通アーケードから一本裏手に入った路地にある「Gluck Coffee Spot」。店を任されているのは店長の三木貴文さん。大学在籍時から、飲食業界に興味を抱き、馴染みが強いというシンプルな理由からシアトル系のコーヒーチェーンでアルバイトを始めたのがコーヒーと関わり始めたきっかけ。

三木さんは「よくある話ですが、昔はそこまでコーヒーが好きじゃなくて。ただ当時、熊本ではまだ少なかった浅煎りのスペシャルティコーヒーをAND COFFEE ROASTERSさんで初めて飲んで。『ただ苦いだけじゃないコーヒーがあるんだ』って素直に感銘を受けたんですよね。それから、コーヒーへの興味をより強くしました」と振り返る。

それから、友人が営むコーヒーショップの立ち上げに関わり、東京のカフェで研鑽を積み、少しずつコーヒーが中心のライフスタイルへと変わっていった三木さん。

「東京から熊本に戻ってきて、ON THE BOOKSというセレクトショップ内のコーヒースタンドを任されました。そのころになると焙煎にも興味を持ち始めていましたし、自分自身やりたいことがたくさん出てきていて。どこかのロースターで焙煎の勉強をするなども考えたんですが、当時の熊本にはあまり選択肢がなかった。それなら、自分で店をやってみるのも手かなと思い、開業を決めました。そこには、僕みたいにコーヒーと関わる仕事がしたいと思っている人たちの受け皿の一つになりたいという思いもありましたね。雇用を作ると言うとおこがましいですが、選択肢は少ないより多い方が良い」と三木さん。

だからこそ「Gluck Coffee Spot」は店舗展開にも精力的だ。2019年7月にはJR熊本駅そばに「licht coffee&cakes」、2020年6月に土日祝限定営業の豆売り専門店「Gluck Coffee Roaster」、さらに2021年10月に「Gluck Coffee Spot SUIZENJI」がオープン。

ユニークなのが、2店舗目である「licht coffee&cakes」は店名を変えている点。三木さんは「1店舗目の開業時から共に働いてくれていたスタッフが、ちょうど次のステップに進むことを考えていて、退職の可能性も視野に入れていたんです。そういった経緯もあり、2店舗目はそのスタッフに開業から店舗運営まですべて任せる形にしました。もちろん『Gluck Coffee Spot』の系列店ではあるのですが、『licht coffee&cakes』の方は店長のやりたいようにしてもらっています」と説明する。

「licht coffee&cakes」は専属のパティシエが在籍し、スイーツもメニューの柱にしている。結果、客層は「Gluck Coffee Spot」よりも若くなり、コーヒーがそこまで好きではない人の利用も多いのだと言う。

■焙煎を通して生まれた、たくさんの縁
開業時から自家焙煎に取り組む「Gluck Coffee Spot」。焙煎は三木さんが行ってきたが、当初は試行錯誤の連続だったそうだ。

「最初はフジローヤルの半熱風式の1キロ窯を安く譲ってもらい、それで焙煎していました。焙煎はほとんどやったことがなかったので、まずは知人のロースターにやり方を聞いて、実際に焼いてみて、カッピングしての繰り返し。自分ではうまく焙煎できたと思っていても、もっと改善すべき点はたくさんありました。だから、実績のあるロースターさんの意見をいただこうと思い、いろいろな店を巡り歩いた。そんなときに出会ったのが、久留米市にあるCOFFEE COUNTYの森さんや、大分市の3CEDARS COFFEEの庄司さん。そのご縁もあり、現在はCOUNTYさんや3CEDARSさんから生豆を一部卸していただいています」と三木さん。

「Gluck Coffee Spot」ではシングルオリジンを中心に常時6、7種の豆を用意。ナチュラルプロセス(※1)のエチオピア、ハニープロセス(※2)のニカラグア、フリーウォッシュド(※3)のコロンビアなど、さまざまな産地、多様な精製方法の豆を取りそろえている。焙煎度合いは豆の個性が生きる浅煎り〜中煎りがメインだ。

現在は熊本市北区植木町にロースタリー「Gluck Coffee Roaster」を構えており、系列4店の豆はすべてそこで焙煎している。「焙煎機はPROBATの半熱風式5キロですが、このマシンはシェアロースター。植木町のコーヒーショップ、Calmest coffee shopが所有する焙煎機で、同店のオーナーの息子さんと僕が友人で、その縁からお借りしています。実はその友人は東京の人気コーヒーショップで働いていて、地元・熊本にて独立するという夢の半ばに不慮の事故で他界してしまいました。『熊本に帰ってきたら、一緒になにかやろう』と話していたのですが、それが叶わなくなった。ただ、ご両親が僕の話を生前、友人から聞いていたそうで、焙煎所(シェアロースター)を作るというお話をいただき、お手伝いさせていただきました」と教えてくれた。

■上質なコーヒーが身近にある生活
2021年10月末に開いた「Gluck Coffee Spot SUIZENJI」は住宅街の一角、古アパートの1階にある。コーヒーを日常的に気軽に楽しんでほしいと、豆は10グラム単位から量り売りを行っており、豆を入れる容器を持参するスタイルが特徴的。

三木さんは「『Gluck Coffee Spot SUIZENJI』は住宅街という立地柄、お客様の暮らしにより近い。僕の今の目標はおいしいコーヒーが、当たり前に暮らしの中にあるという環境を広めていくこと。『Gluck Coffee Spot SUIZENJI』もとある縁から開業に至ったのですが、多くの人が“住まう町”に店を開くことができたことで、その思いを強くしています」と熱を込める。

「僕は正直、有名店などでしっかりコーヒーの勉強をしたというわけではありません。ただ、コーヒーが好き、おもしろいというシンプルな理由だけで、開業しました。恥ずかしながら最初は業界のこともまったくわかりませんでしたね。ただ、逆に無知だからこそ、さまざまな店を巡り、多くの人とのつながりをもつことができた」と三木さんは話す。

知らないからこそ、躊躇をしない。純粋に興味をもち、ワクワクしながらコーヒーと関わる。そんなスタイルで熊本を代表する人気コーヒーショップとなった「Gluck Coffee Spot」。

三木さんは2022年春には中米のコーヒー生産国へ渡航も計画中。開業から現在に至るまで、ずっと大切にしてきた、コーヒーに対する熱意。2022年はさらにその熱量を増し、コーヒーの楽しさをより多くの人に伝えていってくれそうだ。

■三木さんレコメンドのコーヒーショップは「ENDELEA COFFEE」
次回、紹介するのは熊本県八代市と熊本市にある「ENDELEA COFFEE」。
「『ENDELEA COFFEE』のオーナーである宮﨑さんはコーヒーチェーンでアルバイトしていた時の同僚。同じタイミングで焙煎機を購入したこともあって、コーヒーに関していろいろ相談したり、されたり。過去にはイベントも一緒に催したこともありますね。僕よりも一回りくらい年上ですが、友人のようにお付き合いさせていただいています」(三木さん)

【Gluck Coffee Spotのコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE 5
●抽出/エスプレッソマシン(Slayer)、ハンドドリップ(Kalita ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/シングルオリジン5〜6種、ブレンド1種、150グラム1200円〜

※1…収穫したコーヒーの実を、そのまま果肉がついた状態で天日干しする方法
※2…コーヒーの実を天日干しにする前に果肉を削る方法で、ナチュラルとウォッシュドの中間と言われる。残す果肉の量により、ブラックハニー、レッドハニーなど名称は変わる
※3…コーヒーの実の果肉を機械で取り除き、発酵。さらに、その後の水洗過程で残りの付着物を除き、乾燥させる方法。単にウォッシュドとも言う




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