全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第8回は、2017年4月に熊本県八代市で創業した「ENDELEA COFFEE」。2021年7月には熊本市内に「ENDELEA COFFEE 京町」をオープンするなど、地方から堅実にファンを増やしてきた店だ。店主の宮﨑貴雄さんは30代前半でコーヒーの世界に飛び込んだ。「遠回りと多くの挫折のおかげで今がある」と語る真意とは。

Profile|宮﨑貴雄
1979(昭和54)年、熊本県八代市生まれ。高校卒業後、地元の機械加工の企業に就職。約8年間勤務した後、飲食業界で働きたいと大手コーヒーチェーンに転職。それを機にコーヒーのおもしろさにはまり、独自にSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)のアドバンスド・コーヒーマイスターなどの資格も取得。抽出から自然と焙煎に興味を抱き、手網焙煎を入口にほぼ独学で腕を磨く。2017年4月、「ENDELEA COFFEE」をオープン。

■不器用だからこそ堅実に
異業種からコーヒーの世界に飛び込む人は多いが、30代しかも、その時すでに家庭を持っていたというから、相当な勇気が必要だっただろう。「ENDELEA COFFEE」のオーナー兼ロースターの宮﨑貴雄さんは、一見すると物腰が柔らかく、気さくに見えるが、今までの歩みを聞くと、意志の強さを感じる人だ。30歳で機械加工の正社員を辞め、31歳で大手コーヒーチェーンにアルバイトとして入った宮﨑さん。

「一緒に働いていたスタッフは10代後半とか、20代前半の人たちばかりで、当時30歳過ぎの僕はちょっと浮いていましたね。しかも、初めてコーヒーに関わる仕事をしたので、手際は悪いし、覚えも悪いわで、迷惑もたくさんかけていたと思います。ただ、家に帰れば妻と子供がいるし、中途半端なことはできません。だから必死でコーヒーのことを勉強しました」と当時を振り返る。

コーヒーチェーンで働きながら、SCAJのアドバンスド・コーヒーマイスターの資格取得のために勉強し、さまざまなセミナーやリトリート(焙煎合宿)にも率先して参加。福岡など県外のコーヒーショップも巡り、コーヒーの知識や技術を少しずつ蓄えていった。

さらに、それと並行して、自身で焙煎した豆をマルシェや蚤の市といったイベントに個人名義で出店し、販売。仕事をしながらの活動だったため、出店頻度はそこまで高くはなかったそうだが、ゆくゆくは自分のコーヒーショップを開くという目標に向けて、ひたむきにコーヒーと関わってきた。

そして、2017年4月に故郷の八代市に「ENDELEA COFFEE」をオープン。熊本県南部の地方都市のため競合は少ないが、日々飲むコーヒーに強いこだわりを持っている人も決して多くはない。ただ宮﨑さんは「八代に黒川製菓という銅鑼焼きが名物の老舗和菓子店があるのですが、そこの店主が僕の小中学校の先輩で。焙煎した豆を飲んでもらったら、『おいしいから、うち用にブレンド作ってよ』と言ってくださったんです。地元でコーヒーショップを開く自信になりましたね。小さな街ですから、そういった人とのつながりってすごく大切だな、ってその時に改めて実感しました」と話す。

■コーヒーの焙煎は音を奏でることと似ている
宮﨑さんは18歳から30代半ばまでバンドを続けるなど、音楽と深く関わりながら生きてきた。現在バンド活動は休止中だが、日々の暮らしに音楽はやはり欠かせないそう。「若い頃は音楽で食べて行きたいと思っていたぐらい、バンド漬けの毎日でしたね。ただ、音楽一本でやっていけるほど甘い世界じゃない。生きていくために仕事をして、でもやっぱり音楽からは離れられなくて。ただ、それも楽しいからやってきただけ。今の僕にとってコーヒーは、音楽と同じ感覚」と宮﨑さん。

現在使用している焙煎機は、1960年製のPROBAT L5とフジローヤル1キロ窯。PROBATが半熱風式なのに対して、フジローヤルは直火式と、タイプが異なる2台を使い分けている。宮﨑さんは「開業時からの愛機、フジローヤルは直火式なのですが、マシンの性質上、明るさを強調したい浅煎りに向いています。一方、PROBATは蓄熱の良さから豆の芯まで火が通りやすく、甘味を表現しやすい。ですので、現在も2台のマシンを豆や焙煎度合いによって使い分けています」と説明。

さらに、バンドマンらしくギターとコーヒーには共通するものがあるという持論もユニークだ。

「ギターはエフェクターやアンプにつなぐことで、音質を変えることができます。もちろんギターそのものが持つ音もある。要はギターとエフェクターなどの組み合わせ方によって、違った個性を表現できるということ。コーヒーもそれと似ていて、生豆をギターと例えるなら、焙煎はエフェクターのようなイメージ。そんな感覚で焙煎のプロファイルを試行錯誤し、楽しんでいますね」と宮﨑さん。

■日々の新たな体験がコーヒーを進化させる
屋号のENDELEAはスワヒリ語で、“進化する、継続”といった意味がある。諸説あるが、コーヒーはエチオピアが起源とされていることもあり、アフリカの言語を屋号に用いたそうだ。

現在、八代市と熊本市にそれぞれ1店舗があり、販売する豆やメニューはほぼ同じ。浅煎りから深煎りまで常時5、6種の豆をラインナップし、ブレンドは基本的に1種のみだ。

「音楽にジャズやロック、パンク、フュージョンなど、さまざまなジャンルがあるように、コーヒーも人それぞれ好みがあるもの。だから僕の中では焙煎度合いに正解はありません。地域柄、深煎りを求められることも多いですし。ただ、例えば深煎りにしても焼き味ではなく、豆が持つ力強さ、野性味といった部分を表現したい」

コーヒーの抽出に関しても、わかりやすさを重視している。店舗では豆によって湯温のみを変え、お客さんが自宅でコーヒーを淹れる際のアドバイスも同じように明快だ。「お客さまによって淹れ方や楽しみ方はそれぞれありますし、あまり専門性を高め過ぎたら、自分だったら嫌かなって。実際、店舗でも使っているドリッパーから違います。八代店はHARIO V60、京町の方はORIGAMI。純粋な興味もあって、僕自身いろいろ試してみたいんですよね」と宮﨑さんは笑う。

最後に、今後どのような展開を考えているのか聞いてみた。
「店舗を増やしたい、事業を大きくしていきたいという考えは、今のところあまりないですね。むしろ、県外への出張ドリップだったり、異業種とのコラボレーションだったり、音楽とコーヒーをつなげるイベントだったり、自分自身にとって、新たな発見があるような取り組みに積極的にチャレンジしていきたいです。バンド、就職と、ここまでたどり着くのに遠回りをしてきましたし、正直、挫折もたくさんしました。でも今考えると、すべて無駄になっていないんですよね。そういった経験から、一見すると無意味なことに見えることでも必ずなにかにつながると僕は思っています」

■宮﨑さんレコメンドのコーヒーショップは「Great Coffee Atsu」
次回、紹介するのは熊本県を拠点にする「Great Coffee Atsu」。
「『Great Coffee Atsu』の店主・田端くんは“ストリートバリスタ”を謳い、移動販売に特化しています。元ダンサーという変わった経歴で、常に全力投球な姿勢に元気をもらっています。コーヒーのおいしさを広めたいと、日々熊本県内を走り回るユニークな店があることを知ってもらえたら」(宮﨑さん)

【ENDELEA COFFEE 京町のコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT L5。フジローヤル1キロ
●抽出/エスプレッソマシン(LA MARZOCCO Linea mini)、ハンドドリップ(ORIGAMIドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/シングルオリジン4〜5種、ブレンド1種、200グラム1500円〜




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