野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒しや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。今回は、宮崎県「宮崎市フェニックス自然動物園」の竹田正人園長にお話を聞いた。


■早熟なパパに2頭目の赤ちゃん
――宮崎市フェニックス自然動物園のマサイキリンは、メスのコユメ9歳と熊本市動植物園生まれのオスのトウマ6歳。さらに、4月3日に2番目の仔となるオスの赤ちゃんが誕生し、3頭となった。

当園は1971年に開園しましたが、その前年からマサイキリンを飼育しています。園のコンセプトは群動物と混合展示なので、マサイキリン、シマウマ、ダチョウ、オグロヌーを一緒に飼育していました。当時マサイキリンは7頭でしたが、現在は4月に生まれた赤ちゃんを含めて3頭飼育しています。

コユメは当園生まれ。気分屋ですが、やるときはやるしっかり者です。一方のトウマは熊本市動植物園生まれ。1歳あまりで当園にやってきた人懐こい子です。トウマは来園当初、年上のコユメにお姉さんのような感じで甘えていたのですが、徐々にオスに目覚めていきました。

通常オスの性成熟は5〜7歳ですが、トウマは4歳で父親になっています。キリンの妊娠期間は約15か月なのでトウマは3歳で種付けしたことになり、とてもおませさんでした。これが一番印象的なエピソードです。

コユメの誕生以降、当園ではマサイキリンの出産がなかったので、コユメは子育てを見ていないのですが、初産にも関わらず安産で子供の面倒見もよく、とてもスムーズにお母さんになってくれました。これもうれしいエピソードです。赤ちゃんの愛称を募集したところ、「真夏に生まれたコユメの仔」という意味でしょうか、もっとも投票数の多かったコナツと名付けました。繁殖は私たちにとって、何よりの喜び。現在国内にいるメスはコユメとコナツの2頭だけなので、いつか海外から新しい血統を入れて昔みたいにどんどん増やしていけたらと思っています。

■木の箱に入って熊本へ。大がかりなキリンの輸送
――マサイキリンは公益社団法人日本動物園水族館協会の生物多様性委員会による管理計画にのっとり、繁殖計画が立てられている。コユメは熊本市動植物園のオス、秋平(シュウヘイ)のところへ嫁ぐことになった。

コナツは2021年の12月に秋平君との繁殖を目指し、熊本市動植物園にお引越ししました。まだ1歳という若さですが、キリンは大人になるとメスでも4m50cmを超えてしまい運搬が非常に難しくなるので、大体3歳ぐらいまでに移動します。

コナツも冬を越すと体がちょっと大きくなりすぎる心配があったのと、お母さんのコユメが妊娠中で春に出産が予想されていたので、その時にコナツの搬出でバタバタすると母体によくないだろうという配慮から、ちょっと早めに嫁入りをさせました。

キリンの搬出にはまず、高さ3mぐらいの木製の輸送箱を寝室の出口にセットし、中にエサを置いて箱に入る訓練を行います。搬出日にはきちんと輸送箱に入ったことを確認してから箱を閉め、それでも頭が出ますからシートで上からカバーして、クレーンで釣り上げて輸送します。

現地でも無事、寝室に入ってくれました。秋平君は今まで1頭だったため寂しかったのかコナツにぞっこんで、とても仲がいいそうです。

■マサイキリンの血を守らなければ
――キリンはマサイキリンのほか、アミメキリンが知られている。その見分け方を聞いた。

マサイキリンはアフリカ大陸の中東部、ケニア周辺に住んでいます。アミメキリンとは柄が全然違うので区別が付けられます。

アミメキリンはクリーム色の地毛に薄い茶色の亀甲模様で、マサイキリンは薄い山吹色の地毛に濃い茶色の複雑な模様。一般的に星形などといわれますが、非常に入り組んだリアス式海岸のような模様です。トウマは首の左側に太陽を思わせる柄、コユメは左の臀部にハートマークの柄があります。

実は、現在アミメキリンという純粋のキリンは日本にいないと考えられています。過去にほかの種類のキリンと混ざった可能性があると考えられているため、アミメキリンと正式な表記はしないようにしています。「アミメ系キリン」または単純に「キリン」と表記している動物園が多いですね。

一方マサイキリンは純血です。従来、アミメキリンもマサイキリンもキリンの亜種の1つ(種としては同種)と考えられていました。アミメ系のキリンはたくさんいて、マサイキリンがどんどん減少してきたため、マサイとアミメで繁殖しようという話が進められていたのですが、2016年に出た論文で、遺伝子の解析からマサイとアミメは違う種類であると報告されました。ならば種の保存をうたっている動物園が種を混ぜてはいけないという結論に達し、マサイキリンのみで繁殖させることになりました。

■動物にも相性が大事。おいそれとペアは変えられない
――2021年12月31日時点、マサイキリンは国内で7頭。当初は数も多く、宮崎市フェニックス自然動物園だけで66頭が誕生したが、現在はオス5頭、メス2頭にまで減少した。そこには何か理由があるのだろうか。

これといった理由を上げるのはなかなか難しいのですが、結局繁殖は気の合う、合わないですから。野生なら気が合わなければ次の相手を探すわけですが、動物園では相性がよくなくてもペアを変えることが難しい。キリンは大人になると輸送ができませんから。博打のようなものですよね。

それで繁殖が低調だったり、不慮の事故で短命になったり、環境が合わなかったりと、うまくいかないことが重なって負のスパイラルのような形で数が減ったと考えられます。

オス同士は縄張り争いやメスの取り合いでけんかをするので、一緒にすることはできません。鹿児島市の平川動物公園にはオスが3頭いますが、これは親子3代なのでどうにか持っていますが、それでも時々闘争が見られます。キリンはネッキングといって、相手の首に回し蹴りのように首を当てたりします。アフリカには首の骨が折れ曲がっているキリンもいます。

ですから、これからは複数のオスを分けて、それぞれに十分なスペースが与えられる施設も重要になってきます。最低50×20mぐらいの広さが必要です。それに人間が工夫を加えて、彼らの運動不足を解消できるような施設ができれば。うちも50年経った古い建物ばかりなので、次にキリン舎を建てるときはそれを目標に、有用な動物舎を建てたいですね。

そこで気になるのは足のケアができるようになるということ。もちろん、広さなどハード面も大切ですが、それに加えてスタッフが伸びすぎた爪を削れるよう、訓練も必要です。キリンをはじめとする大型動物は足のけがや不調が命取り。なので、地面の整備や足のケアには細心の注意を払うわけですが、どんな動物もなかなか人間に心を許してくれません。

そこで、好きなエサを用いて訓練を行って信頼関係を築きケアをしていく。それができると、キリンの首から血を抜いて健康診断をしたり、伸びた爪を切ったりやすりで削ったり、足のケアができるようになります。毎日やらないとキリンも忘れてしまうので、大変ですが。

■種の保存と環境教育が動物園の2本柱
――マサイキリンは野生の個体数も減少し、絶滅危惧種に指定されている。その背景にあるものは一体何だろうか。

原因の一つは、アフリカ全土の人口増加と経済活動の拡大に伴う野生動物の生息地の減少。これはどの動物にも当てはまることです。78億以上まで増えた大型の哺乳類は人間以外地球上にいませんから、それが君臨して環境を破壊していたらひとたまりもないでしょう。

もう一つは密猟。キリンの場合は毛皮や骨を求める人がいたり、頭蓋骨を置物にしたりする。それと、尻尾の毛が長くてしっかりしているため、工芸品やアクセサリーに使われるそうです。食糧難で食べる人もいるそうで、市場に行くと、ブッシュミートといって野生動物の肉や象の足を売っていたりもします。それは国の文化の違いや貧困問題が起因するかもしれません。

その点では先進国から途上国への援助と教育も必要。こういったことを啓発するのも動物園の仕事です。お客さんに僕がガイドをするときには、必ずそういう話を織り込みます。サマースクールの飼育体験などでも、絶滅した動物や絶滅しそうな動物の話を入れて、子供たちにも考えてもらえるようにしています。

動物を見てもらうだけではなく、動物を通じて野生動物の保護や環境保全を考えてもらう。種の保存と環境教育が、動物園の大きな2本柱です。

■人間と野生動物はフィフティフィフティの関係
――動物園は、マサイキリンをはじめ希少な野生動物を飼育展示し、命をつなぐ大切な施設。もちろん、そこに暮らす動物のほとんどが動物園生まれだが、貴重な存在だ。竹田園長は彼らを見て「野生の不思議を感じてほしい」と話す。

人間を取り巻く動物はたくさんいます。家で一緒に家族として暮らしているコンパニオンアニマル(いわゆるペット)や、家畜という僕らの生活を助け豊かにしてくれる身近な動物もいます。しかし、野生動物は本来我々と距離があり、人間とはフィフティフィフティの関係だと思います。動物園にいる野生動物は自然からのアンバサダー(大使)だと考えてください。

動物園生まれであってもしっかりとした野生動物。そこから威厳を感じたり、尊敬の目で見て、その動物の不思議を感じてほしいです。そしてその先で、彼らがどういうところに住んで、今どうなっているのか、僕たちは何をどうしなければいけないかを考えてもらえると嬉しいです。動物園はそれをいかに楽しく伝えられるのかを探っています。

取材・文=鳴川和代