全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第25回は、長崎県・時津町にある「KARIOMONS COFFEE ROASTER」。オーナー兼ロースターの伊藤寛之さんは2009年当時、弱冠23歳で独立・開業。今や長崎県を代表するロースタリーとして、九州はもちろん全国に認知を広めている。そんな同店の揺るがないアイデンティティと言えば、伊藤さん自ら産地に足を運び、生豆を仕入れるダイレクトトレード。さらに伊藤さんは生産者との関係性を独自のやり方で密接なものにしている。コーヒーというフィルターを通して、自身の考え方、思いをさまざまな形で発信する表現者。そんな視点で「KARIOMONS COFFEE ROASTER」の魅力を紐解いていく。

Profile|伊藤寛之
1986(昭和61)年、長崎県雲仙市生まれ。18歳の時に長崎市で一人暮らしを始め、アパレルショップ、喫茶店、レストラン、ラーメン店などさまざまな仕事を経験。中でも住み込みで従事した農家の仕事が、コーヒー=農作物という考えに大きく影響。カフェで働く中、BRUTUSのスペシャルティコーヒーの記事を目にしたことを機に、よりコーヒーの世界にハマっていく。当時住んでいたアパートの一角に500グラムの小さな焙煎機を据え、自家焙煎をスタート。2009年、移動販売から「KARIOMONS COFFEE ROASTER」を立ち上げ、半年後、時津町に実店舗を開業。2022年現在、時津町、長崎市内の2店舗を展開。

■自身の衝動に従い、長崎を代表するロースタリーに
九州のコーヒー好きの間では「KARIOMONS COFFEE ROASTER」は知られた存在だ。ただ、その道のりは、チャレンジという名の “賭け”の連続だったそう。「2009年に『KARIOMONS COFFEE ROASTER』を立ち上げましたが、当初はコーヒー業界になんのコネクションもなく、原料も少量からお取り引きいただける商社さんを自分で見つけて、そこから生豆を仕入れていました。もちろん焙煎も独学ですから、なにが正解かもわからない。自分の判断とお客様の評価が合わないことを幾度となく経験し、少しずつ、お客様のご意見なども参考に、自分なりの正解を見つけながら焙煎を続けてきました」と伊藤さん。

コーヒーと向き合う日々を過ごす中、伊藤さんはコーヒーに引き込まれるきっかけの一つとなった産地に思いを馳せた。「当時は、志を同じくするコーヒーショップの仲間と一緒に産地に足を運び、生豆を共同購入するという形が主流でしたが、僕はどこかのコーヒーショップで長く下積みをしたわけでもないし、そんな仲間もいませんでした。そこで商社の方に、当時からダイレクトトレードを行っていた山口県周南市のコーヒーショップのオーナーさんをご紹介いただきました。それからは焙煎や取り引きのことなどを学びに、山口県まで通って、たくさんのことを教えていただきました」(伊藤さん)

初めて産地に足を運んだのは、2011年。山口県のコーヒーショップの買い付けに同行する形で、ニカラグアへ渡航。伊藤さんは「実際に目にしたコーヒー農園に高揚感しかなかった」と話し、当初は買い付ける予定ではなかったが、840キロの生豆を購入。ただ実は、その量を売り切るほどの店の規模には到底至っていなかったそう。伊藤さんは1年以内に農園から直接買い付けた生豆を売るという目標を掲げて、帰国。ただ、この“賭け”に近いチャレンジが、同店の認知を広めるきっかけになる。「生産者と直接会話をし、どんな思いで栽培されたのかといったストーリーをお客様に伝えることができる。言わば、これは僕にしかできないお客様への体験の提案です」と伊藤さん。

実際に自身の目で見て、体験したことを伝える。今も「KARIOMONS COFFEE ROASTER」の核となるこのスタイルは、産地へ足を運び、背伸びをして生豆を仕入れたからこそ生まれたというわけだ。さらに、そんなコーヒー体験に共感する客も増え、1年間で売り切る予定だったダイレクトレードの豆を数カ月で完売。「その当時は1キロの焙煎機で、月に300キロ程度を焙煎したこともあります。その時は本当に寝る、ご飯を食べる、風呂に入る以外は、焙煎しかしていなかったですね。ただ、それだけの回数、量を焙煎し続けただけに、否が応でもスキルアップできた」と伊藤さんは笑う。

■一生付き合っていける信頼関係を、生産者と築く
2011年を機に、毎年必ず産地に足を運び、2017年からは単独で買い付けをしている「KARIOMONS COFFEE ROASTER」。現在はニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスにある10の農園から生豆を仕入れている。一度、取り引きをすると、その後も継続して生豆を仕入れるのが、伊藤さんの生産者との付き合い方。その方法は年を重ねるごとにより信頼関係を強くし、毎年、クオリティの高い生豆を仕入れられることにつながる。さらに伊藤さんは、2021年からはダイレクトプライスと呼ぶ値付け方法を生産者に提案。

「当店のお客様にとって、僕たち店側は供給する立場にあたり、当然ですが僕らが商品の価格を決めて、それにご納得いただいた上でお客様にご購入いただいています。そう考えると、生産者さんと僕たちの関係性って、生産者さんが生豆という原料を供給する立場で、僕らは購入するバイヤー、つまり消費者にあたるわけです。僕らは日本では供給側として値付けをして、お客様に選んでもらうということを当たり前にやっているのに、生産者さんとバイヤーの場合、逆の値付け方法がとられている。そのことに違和感がずっとあったんです。それで、生産者さんたちが考える適正な価格をつけてもらえないか数年前から打診してきました」と伊藤さん。

ただ当初は、どの農園もその提案に消極的だったという。「生産者さんからすると、自分たちの希望する価格を提示した時に、購入してもらえないというリスクを恐れたんだと思います。もちろん初めての取り引きの場合、その可能性も出てくるでしょうが、僕と生産者さんの関係は、もう何年も続いている。それこそ、遠く離れた地に住んではいますが、家族のような存在です。だから僕は『あなたたちの労力に対してちゃんと利益が生まれる適正な価格であれば、仕入れないという選択肢はない』ということを伝え、ダイレクトプライスを実現しました。もちろん前提として、僕が農家のみなさんが作るコーヒーが好きであるということがあってこそです」。持続可能性が叫ばれる昨今、このような関係性を生産者と築けている「KARIOMONS COFFEE ROASTER」はまさに先進的だ。

さらに伊藤さんは、産地を実際に目にしているからこそ、環境問題にも独自の方法で取り組む。その一つが同店が発案し、現在、全国およそ130店舗が参画するなど、少しずつ広がりを見せているNICE PASSだ。店舗独自のショッパー(買い物袋)を廃止し、不要になった紙袋を客に寄付してもらい、それをショッパーとして活用するという取り組み。これは同店が独自に始めたリパックバッグという取り組みがもとになっており、長崎のアパレル企業、デザイナー、さらには長崎大学環境科学部などの協力を得て、全国規模でプロジェクト化されている。

■コーヒーを媒介にさまざまな接点を作る
本店にあたる時津町の店舗は基本的に豆売りがメインで、2022年5月現在、ブレンド2種、シングルオリジン5〜6種を常時ラインナップ。どれも生豆の個性が引き立つ浅煎り〜中煎りがメインで、華やかな香り、アフターテイストの甘味、それにクリーンカップに秀でた印象だ。

店頭に掲示するプライスカードに風味などは書かず、端的にしているのは、飲み手が感覚的に自由に楽しんでほしいとの考えから。さらに、それによってスタッフと客のコミュニケーションのきっかけにもなっている。

「オンラインショップでは直接ご説明できないので、フレーバーや余韻、質感などについて詳しく書いていますが、店頭では必要であれば僕らの言葉でお客様にお伝えするのが一番良いと考えています。生産者さんの思い、栽培へのこだわりを伝えることが僕たちが担った大切な役目ですから」と伊藤さんはその理由を説明。オンラインショップからの購入でも発送時に一人ひとりに対して手書きのメッセージを同封するなど、開業時から変わらない客思いの姿勢を貫くのも「KARIOMONS COFFEE ROASTER」らしい。

店を「人と人が交わり、さらに人と社会が交わり、新たなコミュニティが生まれるような場所でありたい」と話す伊藤さんは、現在、故郷である雲仙市小浜町に地域の子供たちを巻き込んだショップの開店を目指しているそうだ。

「小浜町の中学校では生徒たちが仮想の株式会社を作り、実際に地域住民に株を購入してもらい、それを運用資金に充てて、経済や社会の仕組みを学べるような授業を行っていると聞いたんです。それってすごいおもしろいことだと思って、僕らもコーヒーを媒介にして、地域の子供たちと社会との接点を作りたいと考えました」と伊藤さん。自身も体感してきたコーヒーを通して見る世界、社会の多様性を体験できる場を地方に作る。そんな伊藤さんのアクションは、これからもコーヒーと地域の新たな繋がりを生み出していくような気がしてならない。

■伊藤さんレコメンドのコーヒーショップは「nai」
「諫早市にあるnaiはもともと当店で長く働いてくれた、近藤彰くんのお店。地方では珍しい豆売り専門というスタイルを一貫するチャレンジングな姿勢が近藤くんらしい。当店で働いてくれていた時は抽出をはじめ、焙煎にも携わってもらっていました。今も交流はありますが、彼独自の世界観、スタンスでコーヒーと向き合っていて、今後の活躍がすごく楽しみなロースターの一人です」(伊藤さん)

【KARIOMONS COFFEE ROASTER のコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE12キロ
●抽出/ハンドドリップ(クレバーコーヒードリッパー)、エスプレッソマシン(VIBIEMME)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1350円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)




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