全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第29回は、熊本県・熊本市にある「AND COFFEE ROASTERS」。2013年に開業と、熊本エリアにスペシャルティコーヒーを根付かせたパイオニア的存在で、実際に同店のコーヒーを飲んで、スペシャルティコーヒーに興味を抱いた人は多い。2022年6月現在、ROASTERSに加えてカフェ業態の「AND COFFEE BREWERS」を熊本県内に3店舗展開するなど、着実に認知を広め、熊本を代表するコーヒーショップになっている。オーナーは山根洋輔さんだが、現在、ROASTERSで焙煎、店舗運営を任されているのが、店長の続修造さん。山根さん、続さんの2人に理想とするコーヒーの味わい、今後、どのようにコーヒーと関わっていきたいかを聞いた。

Profile|続修造
1994(平成6)年、熊本県玉名市生まれ。「AND COFFEE ROASTERS」店長。23歳のころに熊本市内の老舗喫茶店で働き始めたのがコーヒーの入口。抽出、サービスをメインに行っていたが、自身も客として通っていた「AND COFFEE ROASTERS」で浅煎りのスペシャルティコーヒーに触れ、焙煎に興味を抱く。喫茶店を退職後、2020年7月に同店に入社。現在、店長兼焙煎士として日々、店に立つ。

■アメリカのラフなカフェカルチャーを熊本に
「AND COFFEE ROASTERS」があるのは、アパレルショップなどが軒を連ねる、上乃裏。古い民家や建物を活かした店が多く、地元では個性的かつ、おしゃれな店が多いエリアとして知られている。そんな上乃裏に「AND COFFEE ROASTERS」がオープンしたのは2013年。オーナーの山根さんはもともと東京都出身で、東日本大震災を経験したことを機に、奥さんが熊本出身という縁から、2011年に移住した。

山根さんのコーヒーのルーツはアメリカだ。「19歳の時にニューヨークのクイーンズに語学留学したんです。その時に現地のカフェカルチャーに刺激を受けました。コーヒーの味わいといった本質的な部分ではなく、雰囲気や空気感に魅力を感じたのが、私にとってのコーヒーの入口です」(山根さん)

日本に帰国後、東京のコーヒーショップやカフェを巡り歩き、よりコーヒーが身近にある生活を送った山根さん。ただ、当時東京で人気だった有名なコーヒーショップに足を運んでも、どこか“きっちり、かっちり”とした雰囲気が肌に合わなかった。山根さんは「確かにコーヒーそのものは高品質の豆を使っていて、おいしい。ただ、私はアメリカで感じたラフなスタイルとコーヒーにこそ親和性があると思っていたので、なにか違うなー、といつも思っていました。その当時から、コーヒーショップを開くことをおぼろげに考えていて、もう一度、アメリカに渡ったんです」と振り返る。

再びアメリカを訪れたのは2006年ごろ。1カ月間滞在し、ロサンゼルス、シアトル、ニューヨーク、サンフランシスコの気になるカフェ、コーヒーショップを巡り歩いた。「その当時、アメリカではいわゆるサードウェーブ系の人気が高まっていたころで、そんなコーヒーショップをたくさん巡り、理想とする店のスタイルはもちろん、扱う豆はスペシャルティコーヒー、自家焙煎をする、という部分は明確に定まりましたね」

東京で店を開くことも考えたそうだが、東京はコーヒーショップが続々とオープンしている時期で、そこで新たに店をやるよりも、どこか違う場所でコーヒーの魅力を自分なりに広める方に山根さんのベクトルは向いた。そんな時に東日本大震災を経験し、熊本への移住と、この街で店を開く決意が固まったというわけだ。

■生豆が持つ個性をひたすら大切に
現在、山根さんが信頼を置き、店舗運営や焙煎を任せているのが店長を務める続さん。熊本市内の老舗喫茶で抽出やサービスの基礎を学んだ続さんだが、客として日常的に通っていた「AND COFFEE ROASTERS」のスタイル、浅煎りを主体としたコーヒーの味わいに惹かれた。「僕のコーヒーの概念を変えてくれたのが『AND COFFEE ROASTERS』。以前勤めていた喫茶店は深煎りが主体で、浅めに焙煎したスペシャルティコーヒーは僕にとって新鮮でした」と続さん。

「AND COFFEE ROASTERS」は開業時から浅煎りがほとんどで、深めに焼いた豆でも中煎り程度。豆のラインナップもシングルオリジンのみだ。デイリーで飲める味わいを大切にし、生産処理もナチュラル(※1)やウォッシュド(※2)が多い。続さんは「仕入れる豆や焙煎については山根と相談しながら決めていますが、やはり当店のカラーである浅煎り主体というのは変わりません。僕自身、生豆が本来持っている個性を最大限感じられる浅煎りに魅力を感じています。ただ、アンダーディベロップメント(※3)にならないように、しっかり豆の芯まで火が通るように心がけています」と焙煎について説明。

山根さんは「私も焙煎は独学ですし、これが正解だ、という答えは未だ持ち合わせていません。ただ、やっぱり素材が持っている味わい、個性だけは消したくないという思いで焙煎を続けてきました。開業当初は、やはり酸味に抵抗を示されるお客様が多かったのは事実。ただ、熊本の方々にも、スペシャルティコーヒーならではの魅力を知っていただきたかったんです。それで最初はコーヒーを1杯290円でご提供したり、ハンドドリップのワークショップをしたり、海外からバリスタを呼んでイベントをやったり、とにかくスペシャルティコーヒーに触れて、飲んでいただく機会を増やすためにさまざまな工夫はしましたね」と話す。

現在使っている焙煎機はPROBATだが、最初はフジローヤルの半熱風式だったそうで、「PROBATに変えたのも、よりライトで華やかかつ、スムースな口当たりを表現するため。そういった意味では開業した時から、目指す味わいの方向性はブレていないと思っています」(山根さん)

■生産者の生活を守るという新たなミッション
一貫してスペシャルティコーヒーの特性が生きる焙煎、抽出を提案し続けてきた「AND COFFEE ROASTERS」。山根さんは「私は旅が好きで、まず旅先で調べるのがその土地のコーヒーショップ。店に行くと偶然の出会いがあったり、さまざまな人やモノと繋いでくれたりする。言わばコーヒーは場所だけではなく、私をさまざまなシーンに連れて行ってくれるものだと感じています」と話す。そのことを山根さんが考える「AND COFFEE ROASTERS」の未来が表している。今、山根さんは産地や農園で働く人たちといった“コーヒーの川上”に目を向け、生産者の暮らしをより良いものにするために動き始めている。

「自身がコーヒーをお客様に販売するようになり、自然と産地に興味を抱きました。店を開いて数年後に、商社さんと一緒にニカラグアに共同買い付けにも行きましたし、東京のコーヒーショップのオーナーさんとルワンダにも足を運びました。産地を自分の目で見て、さらには各国のコーヒー豆の流通方法を知るにつれ、果たして本当にこのやり方で生産者さんの生活が守られるのだろうか、と考えるようになりました」と山根さん。

現在、特に力を入れて取り組んでいるのが、信頼の置けるエクスポーターや生産者団体との関係性を深めていくことだ。「グアテマラ発のスペシャルティコーヒーの生産者団体にGOOD COFFEE FARMSという組織があるのですが、そこの代表、カルロスさんとご縁があり、当店も生豆を仕入させていただいています。GOOD COFFEE FARMSは、従来は大量の水を必要としたウォッシュドの生産処理工程に、自転車を改造したパルピング(※4)マシンを取り入れることで排水ゼロ、燃料・電気使用ゼロ、さらにはコーヒー農家の収入を増やすことを実現したことで話題に。今は沖縄でのコーヒー栽培にも力を入れ始めたところです。生産者の生活を守ること、持続可能性に重きを置く姿勢に強く共感しています。今後、そういった方々とより深く繋がり、コーヒー業界の“川下”にいる私たちだからこそできる、お客様たちに伝える役割をしっかりと担っていきたい」と山根さんは力を込める。

まもなく創業10年目を迎える「AND COFFEE ROASTERS」。生産者の生活を守るという、明確なミッションを掲げて、ますます本質的なコーヒーの魅力を広めていってくれそうだ。

■山根さんレコメンドのコーヒーショップは「Appartement」
「『Appartement』のオーナー・齊木さんはもともと当店で長く働いてくれていた、言わば右腕的存在。齊木さんとは豆の買い付けに一緒にルワンダにも行きましたし、さまざまな面で店を支えてくれました。当店を卒業しましたが、今も大切な仲間です。熊本県山都町というローカルな場所に店を開いたことを含めて、いろいろな切り口でコーヒーを広める姿勢も齊木さんならではだと思っています」(山根さん)

【AND COFFEE ROASTERSのコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE 5
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)
●焙煎度合い/浅煎り〜中煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1250円〜

※1…収穫したコーヒーの実を、そのまま果肉がついた状態で天日干しする方法
※2…コーヒーの実の果肉を機械で取り除き、発酵。さらに、その後の水洗過程で残りの付着物を除き、乾燥させる方法
※3…いわゆる焙煎不足。味わいが未発達な状態、カロリー不足など
※4…コーヒーの実の果肉部分と種子を分離させる脱殻工程

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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