ゲームをしない人でも名前くらいは聞いたことがあるであろう、「ストリートファイター」。格闘ゲームの金字塔として知られる、世界的にも大人気のゲームシリーズだ。主人公の「リュウ」や親友の「ケン」が放つ必殺技「波動拳!」「昇龍拳!」は、ゲームファンでなくても知っている人が多いかもしれない。

そんなストリートファイターシリーズは、今年で誕生35周年を迎える。さらにシリーズ作品の原型といわれる「ストリートファイターⅠⅠ」(以下、ストⅠⅠ)も、スーパーファミコン用ソフトが発売されて今年で30周年という、まさにストリートファイターイヤーなのだ。

そこで今回はストⅠⅠのルーツに迫るべく、発売当時から開発に携わってきた株式会社カプコン アートプロダクション室の岡野正衛さんにインタビュー。さらにストリートファイターV/6 プロデューサー・松本脩平さんには、現在開催中の「俺より強いやつらの世界展」と、2023年発売の最新作「ストリートファイター6」の見どころを聞いた。

■「波動拳」は隠し技だった?リュウ&ケンの誕生秘話
ストⅠⅠはもともと単体の作品でありながら、今や数多くの派生作品が誕生しているという異例の作品だ。特に主人公のリュウとケンの十八番「波動拳」「昇龍拳」「竜巻旋風脚」は、とても知名度が高い必殺技となっている。

「この3つの技は、『初代ストリートファイター』(以下、初代)から登場します。当時は隠し技だったので、コマンドが一般に公開されていませんでした。また、企画書に残っているものや社内で聞いた話から、竜巻旋風脚はもともと『ファイアーキック』という技名だったのではないかと言われています」

1987年にアーケードゲームとしてカプコンが開発した初代は、ストⅠⅠを語る上で決して外すことができない作品なんだとか。ちなみに初代ではリュウとケンの名前がそれぞれ「隆」(リュウ)「拳」(ケン)と表記されていたり、技名の表記については初代が「昇竜拳」、ストⅠⅠ以降は「昇龍拳」などの違いがあるのだ。

「初代は以降の作品のようにキャラクターが選べず、主人公のリュウが1人で勝ち進んでいくシステムでしたが、コインを投入すると対戦キャラクターとしてリュウと同じ性能を持つケンを使用することができました。そしてこの対戦の要素を発展させたのがストⅠⅠです。初代がなければ今のストⅠⅠは生まれなかったかもしれません」

■大人気の紅一点・春麗の“タイツ”と“声”の秘密
ストⅠⅠといえば、リュウとケンのほかに「春麗」(チュンリー)を忘れてはいけないだろう。当時は紅一点で、現行のシリーズ作品でも看板キャラクターとして人気を博している。彼女の最大の特徴は、その鍛え上げられた“脚”。そしてその脚にまとった“タイツ”が気になっていた人も多いのではないだろうか。

「春麗のタイツの表現にはとてもこだわっていました。特にお尻や太もものテカリの部分は細部まで作り込まれています。当時は16色で色合いや質感を表現しており、タイツや立体感の表現にデザイナーの工夫と愛情が込められています」

そんなたくましい脚とは裏腹に、勝利した際は「ヤッター!」とかわいらしい声で喜ぶのだが、春麗の声はなんと当時の女性スタッフが担当していたという。

「キャラクターボイスやラウンドコールは声優を起用せず、全て社内のスタッフが担当していました。また、声が良いスタッフがいると別の部署だったとしても出演オファーしたりしていましたね」

ストⅠⅠから登場しているキャラクターは今でこそ大人気だが、開発当初は「相撲取り(エドモンド本田)」や「火を吹くヨガ人(ダルシム)」、「獣人(ブランカ)」という仮名が付けられていたんだとか。ちなみに、エドモンド本田はじゃんけんで本名が決まったそう。

ほかにも「ストⅠⅠダッシュ」や「ストⅠⅠダッシュターボ」など、シリーズの派生作品が発売されるたびに、ほかの作品と区別するためタイトルロゴやキャラクターのコスチュームの配色が変更されたが、なかでもキャラクターの配色には苦労したという。

「ガイルの肌の色は着用している迷彩服にも使用しているので、色を変更すると彼の肌の色まで変わってしまい、ゾンビみたいになってしまうことがありました。当時の開発スタッフには『ゾンビガイル』なんて言われてましたね(笑)。ザンギエフがピンク色になってしまったこともあります…」

■ファンと一緒に作り上げたストⅠⅠシリーズ
実はストⅠⅠが発売された段階では、今ほど細かい設定が練られていたわけではなかった。ゆえにその後に展開された漫画やアニメ、映画などによって形作られた設定も多い。

「例えばリュウのはちまきがケンから託されたエピソードも、ほかのメディアから生まれた設定ですね。また、ファンによって作られた二次創作で生まれた設定もあったりするので、出どころについては私たちでも把握しきれていないものが多いですね。ただ1つ確かなのは、『自分たちだけで作った作品ではない』ということです。今のストリートファイターおよびストⅠⅠがあるのは、ファンの皆さんが一緒に作品を作ってくれたおかげなんです」

シリーズの基礎だけでなく格闘ゲームの歴史を作ったといえるストリートファイターだが、現在、作品の魅力を余すことなく堪能できるあるイベントが開催されているのだ。

■「俺より強いやつらの世界展」の見どころ
現在、ストリートファイターの作品の歴史や制作現場に保管されていた原画、当時の設定資料など、ストⅠⅠを中心とした貴重な資料の数々を観覧できる「俺より強いやつらの世界展」が福岡県・北九州市で開催中。ここからは、ストリートファイターV/6 プロデューサーの松本脩平さんにイベントの見どころや、シリーズ最新作の話を聞いた。

「キャラクターの相関図が書かれている資料をご用意していますが、キャラクター同士の関係性や掛け合いの意味をより深く理解していただけるので、ぜひ見ていただきたいですね。また、各ステージについて記載された当時の企画書も用意していますが、私でもびっくりするような細かい設定が記録されているので、ぜひ注目してほしいです。このように、ゲームの世界観をより一層楽しんでいただけるイベントになっています」

ストリートファイターの魅力は格闘アクションだけでなく、キャラクターの背景にある濃密な設定やストーリーにもあるのだ。

■最新作「ストリートファイター6」に込められた思い
2023年には、シリーズ最新作「ストリートファイター6」(以下、スト6)が発売される。最新のトレーラー映像に映るリュウの姿はこれまでの精悍さはそのままに、ヒゲをたくわえた貫禄ある姿へと変容。また、常連キャラクターでは春麗やガイルの続投も決定しているが、前作と比べて見た目や雰囲気が大きく変化している。

「スト6のディレクターである中山も大事にしているのですが、“キャラクターの成長”を感じてほしいです。本作はシリーズの時系列のなかで最も新しい物語になりますので、キャラクターたちも相応に成長しています。ファンの皆さんにもその成長を感じていただけるようなビジュアルに変化しています。例えば最新トレーラーで袈裟を斜めがけしたリュウの姿は、彼の師匠である『剛拳』に近い風貌になっています」

そして前述した展覧会では、なんとスト6の試遊イベントも!ひと足先に最新作を体験してみてはいかがだろうか。

■取材後、いてもたってもいられなくなりストⅠⅠをプレイ!
筆者は物心ついた頃、最初にプレイしたゲームがストⅠⅠだった。そして今回の取材後、聞いた話を体感したくなり「ストリートファイター 30th アニバーサリーコレクション インターナショナル」(以下、30th アニバーサリー)に収録されているストⅠⅠを十数年ぶりにプレイしてみることに。オープニングやキャラクター選択時の際に流れるBGMは、初めてプレイした時のことを鮮明に思い出させてくれる。

筆者は主人公のリュウを選択。そして1戦目は「ヨガファイヤー」でお馴染みのダルシムで始まり、春麗、ザンギエフと、今やシリーズの看板であるキャラクターたちが次々に登場。シリーズ初登場ながら、すでに完成されているビジュアルに改めて驚かされた。

勝ち抜くために必須となる必殺技、波動拳や昇龍拳、竜巻旋風脚のコマンドは、スライドするように操作しなければいけないため、摩擦で手にタコができてしまった人も多いかもしれない。筆者もその1人で、今回はスーパーファミコンではなくPS4でプレイしているのだが、親指の関節あたりが痛痒くなり、それすらも懐かしい。

■クリア目前と思いきや、シャドルー四天王に悪戦苦闘!
多少苦戦しながらも勝ち抜いていくと、ラスボスのベガが率いる「シャドルー四天王」(以下、四天王)が立ち塞がる。これまでの敵とは桁違いの強さを誇るため、ここで挫折しそうになったプレイヤーも少なくないだろう。さらにストⅠⅠでは終盤になって初めてその正体が明らかになるため、より強敵感が増すのだ...。

まず1番手はボクサーのバイソン。ラスベガスの煌びやかなステージは戦闘そっちのけで観察したいほどに作り込まれている。しかしここでは昇龍拳や波動拳、竜巻旋風脚による押しの一手がほぼ通用しなくなるので、より戦略的に応戦しなければいけない。バイソンがダメージを受けて操作不能になる、いわゆる“ピヨり状態”になった隙を突いてなんとか勝利!

2番手はスペインニンジュツという、独自の格闘スタイルを駆使するバルログ。忍者らしく素早い動きが特徴でただでさえ攻撃を当てにくいのだが、ステージ内に設置されている金網に張り付くと攻撃が当たらなくなるだけでなく、その直後に発動する必殺技「フライングバルセロナアタック」は、ガードをしていても体力ゲージがそこそこ削られてしまうという、とても厄介な奴なのだ。最後は判定勝ちで辛勝。

3番手はムエタイ使いのサガット。大柄のため手足のリーチが長く、攻撃を当てようとして、逆に反撃されてしまうこともしばしば。また、遠距離で攻撃しようとしても必殺技「タイガーショット」が牙を剥くので、八方塞がりになってしまうのだ。そんな強敵と対峙するなかで、滅多に起きないダブルKOがなんと2回も起こるというミラクルが発生!しかしこの場合、勝利としてカウントされないため、クリアを目指す人にとっては骨折り損になってしまうのだ。そしてなんとか勝利するも、筆者の体力ゲージも相当削れてきた...。

ついにラスボスのベガが登場!以降の作品と比べて体つきが少々スリムな印象だが、強さはこの頃から健在で、瞬く間にKO負けしてしまった。ここに辿り着くまでにも、相当な回数のコンティニューをしているので指はすでに限界。最後の力を振り絞り間髪入れずに技を叩き込んで、ようやくまぐれ勝ち!動かしていたのは手だけのはずなのに、なぜか肩で息をしていることに気がついた。どれだけゲームに没頭していたのかがうかがえる。

■やっぱりストⅠⅠは神ゲーだった
リュウのボコボコになった顔を何回見たのか分からなくなるほど敗北したが、ついにゲームクリア。熾烈を極めた戦いのあとに流れるエンディングで、リュウがさらなる強敵を求め夕日に向かって歩いていく姿は、BGMも相まってとても哀愁が漂う演出になっている。そしてそれに呼応するかのように、筆者は早速ストⅠⅠロスに見舞われた。

やはりストⅠⅠは、今プレイしても当たり前のように熱中できるゲームだった。キャラクターやグラフィック、BGMなど、どれをとっても30年前に発売されたとは思えない圧倒的なクオリティで、懐かしさは感じるものの古さを全く感じない、まさに「神ゲー」と呼ぶにふさわしい作品だということを肌で感じた。

これを機にファンはもちろん、かつてストⅠⅠを楽しんだ人も久々にプレイしてみてはいかがだろうか。最新作の発売前にシリーズの原点を振り返ってみるのも一興かもしれない。

取材・文=西脇章太(にげば企画)