コンビニエンスストアやスーパーなどで「給食でおなじみのムース」というアイスを見かけたことはあるだろうか。商品名を見て「全然おなじみじゃないぞ…」と思う人もいるかもしれないが、これは九州の学校給食で人気だというミルク風味のカップムースを片手で食べやすいように縦型のパウチ状にした商品だ。そのため、九州地方で育った人にとっては子供時代の思い出の味なのである。

「給食でおなじみ」や「とけない不思議なアイスです。」などの文言が書かれたこの商品は、2022年春には全国のコンビニエンスストアで再販されるなど(※現在は九州地区のみ販売)、さらに勢いを伸ばしている。しかし、なぜ九州の給食で出されているローカルデザートが全国的な人気商品になったのだろうか。

今回は「給食でおなじみのムース」の発売に至るまでの経緯や人気が広がった理由について、福岡県朝倉市に社屋を構える株式会社セリア・ロイル(以下、セリア・ロイル)営業部の宇野豪人さんに話を聞いた。

■九州の給食で愛されたデザート。誕生のきっかけとは?
「給食でおなじみのムース」が誕生したのは、今から40年ほど前。学校給食用プリンの製造をしていたセリア・ロイルは、練乳をたっぷりと使ったババロアを学校給食に出すことになった。その際に名前を「ババロア」ではなく当時ヨーロッパで流行していた「ムース」にすると、プリンよりも人気が出て、九州の多くの学校給食に採用されることとなった。

「このムースの大きな特徴は『とけない不思議なアイス』という点です。学校からの『子供たちが配膳に時間がかかってしまい、溶けても食感が損なわれないようにしてほしい』という要望に応えるべく試行錯誤を重ねて開発したのが、時間が経っても溶けないユニークな食感のムースでした」

販売されている「給食でおなじみのムース」を半解凍で食べてみると、プルプルとしたほかにはない食感だ。パッケージに書かれた「とけない不思議なアイスです。」の通り、溶けにくく食べやすいので、焦らずゆっくりと食感の変化を味わうことができる。

誕生からおよそ40年経った現在でも給食の人気メニューとして採用されており、今日まで長い間多くの小中学生の心と舌を掴んでいる。

■想定外の大ヒット!九州人たちの熱いリクエストで全国販売に
九州地方の子供たちにとっておなじみのムースは、現在は九州のコンビニエンスストアなどで買うことができる。「給食でおなじみの」という文言が商品名に入っている背景には、「九州で小学校生活を過ごした人々に届いてほしい」という熱い思いがあった。

「当時給食で食べていた人が卒業して大人になり、『またあのムースが食べたい!』『コンビニやスーパーで売ってほしい!』と強い要望があり、20年ほど前に初めて市販用のムースを発売しました」

市販されているものは形がカップからパウチタイプに変わっているが、味や食感は給食のものと同じだ。それにしても、一部の地域で食べられている給食のメニューがここまでの人気になることは、なかなかあることではない。

セリア・ロイルは全国のムースファンからの期待を受けて「給食でおなじみの」という文言は外さず、2011年には九州のコンビニエンスストア限定で販売を始め、2013年からは全国のコンビニエンスストアで発売をスタートした。すると給食でムースを食べていなかった地域の人たちからも大好評。瞬く間に知名度は全国区へ広がった。

■子供の苦手な味にも挑戦!「新しいおいしさ」の追及
セリア・ロイルはこれまで何度もユーザーのリクエストに応え、ムースのバリエーションを増やしてきた。定番のミルク風味以外にも杏仁ムースやキャラメルムース、いちご果汁7%を配合した練乳いちごムースなどを展開し、新しいおいしさを提供している。また、ある時にはこんな要望もあったという。

「学校給食ではほうれん草が苦手な子供が多く、栄養士さんから『ほうれん草を食べてもらえるようなデザートがほしい』という要望がありました。そこでほうれん草を食べやすくするために、乳と合わせたほうれん草ムースを開発しました。子供たちからの評判はとても良く、後に市販品も発売しました」

さらに2022年秋には、ミルクチョコレートのコクと風味を強くした「チョコレートムース」をリニューアル発売するとのこと。給食から派生したとは思えないラインナップの数だ。

常に消費者の声に耳を傾けてきた、九州の企業が生んだヒット商品。今後は外食デザートの分野にも裾野を広げていくそうだ。これからも「新しいおいしさ」というテーマを掲げながら、九州人の思い出の味を全国に広めていく様子から目が離せない。

取材=福井求(にげば企画)
文=永田奏歩(にげば企画)