野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、本連載では会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。今回は希少動物の飼育に力を入れている、よこはま動物園ズーラシア(以下ズーラシア)でオカピの飼育に携わる森田菜摘さんに、お話を聞いた。



■意外に新しい、日本でのオカピの飼育
――ズーラシアは1999年のオープンとともに、オカピを日本で初めて公開した。以来20余年、継続的にオカピを飼育。現在はオスのホダーリ(21歳)、メスのララ(7歳)、オスのバカーリ(7歳)の3頭が暮らしている。(※2022年11月現在)

一番年上のホダーリは穏やかな性格で、人にも慣れた落ち着きのある個体です。ララはちょっと人見知り。バカーリはまだ若いので血気盛んなところがあり、ほかの2頭に比べると少し興奮しやすいところがあります。

■オカピは首の伸びなかったキリン
――脚にシマがあり、一見するとシマウマのように見えるオカピだが、実はキリンの近縁種だ。

元々オカピとキリンの祖先は、オカピぐらいの大きさと形だったと言われています。そこから進化の過程で首が長く伸びたものがキリンになり、原形に近いまま進化したものがオカピとして現存しています。

見晴らしの良いサバンナの草原に暮らしているキリンは、人間に早くから発見されていました。その後発見されたオカピがキリンの近縁種と判明したため「キリン科」とつけられていますが、2種の進化をたどると原始的な形をとどめているのはオカピの方だと言えます。

キリンとの共通点として挙げられるのが角で、2種とも角が先端まで皮膚で包まれています。なお、キリンはオス、メスともに角がありますが、オカピはオスにしかありません。ほかには舌が長いところも、共通の特徴です。

実はキリン科にはオカピとキリンしかいないので、唯一の仲間同士。野生のオカピは熱帯雨林で暮らしますが、現在はアフリカのコンゴ民主共和国にある、イトゥリの森という保護区にしか生息していないと言われています。
■シマ模様や佇まいなどが美しいオカピ
――同じキリン科の動物だが、オカピとキリンでは体の模様が全く異なる。オカピは尻から脚にかけて、美しいシマがあるのが特徴だ。

アフリカの熱帯雨林に住むオカピの天敵は、ヒョウだと言われています。肉食動物から姿を隠すため、森にたくさん生えている木の枝のような茶色い横線のあるお尻になったのでは?と考えられています。

オカピは一言でいうと、すごく綺麗な動物。神秘的というか、動作もとても静かで、歩いている時ほとんど足音がしません。

また、オカピは単独で生活していて、常に自分の判断で動いています。そういうところにも凛々しさを感じます。佇まいも美しく、緑の中ですうっと立つ姿は思わず見とれてしまいます。
■繁殖が成功した背景に迫る
――ズーラシアではこれまでに6回、オカピの繁殖に成功している。日本国内で繁殖に成功しているのはズーラシアだけだが、その背景には意外な理由があった。

日本国内では現在、3園で5頭が飼育されています。ズーラシアではアメリカからオカピを導入した時に、「日本ではアメリカの繁殖計画にのっとって繁殖する」という契約をしています。その中で、繁殖には何平方メートル以上の敷地が必要といった細かな規定があるのですが、その規定に見合った施設を所有していたのは、当時ズーラシアだけでした。

そしてその大役を果たすべく当時の担当者がアメリカからたくさんの情報を収集して、現在までの繁殖につながっています。

――繁殖は具体的にどのように取り組むのだろうか。

繁殖に取組むときは、まず糞から性ホルモンを抽出して、排卵に近いと思われる日を分析。それからオス、メスの行動をよく観察し、発情が近いと思われるタイミングで一緒にします。そういう時にはケンカせず、メスが交尾を受け入れる可能性が高いので、しっかりとコントロールしたうえで繁殖を計画しています。

発情がくるとメスは落ち着きがなくなり、うろうろ歩き回ったり、食欲がなくなったりします。オスはもっと顕著で、メスのいる部屋の方に張り付いて動かなかったり、鼻を鳴らしたり、興奮した様子を見せます。飼育員としてはそういった行動を見逃さないよう観察していますが、個体によってはなかなか表に出さないことも。そんな時は寝室の床材にしているウッドチップの散乱状況など、残された痕跡から推理することもあります。

■名探偵並みの観察力で動物たちの健康を守る

――発情の痕跡から行動や状況を推理する飼育員は、まるで名探偵のようだ。それだけの観察力があるからこそ、動物たちの健康を守ることができる。

朝に獣舎へ行きオカピが元気なら、部屋の状態を見て夜にどう過ごしていたのか推測します。動物は言葉で説明してくれないので、隅々までしっかり見て、「糞がいつもより大きくて形が崩れているのでお腹の調子が悪いのかも」とか「水をいつもより飲んでいない」といったことをチェックしています。

オカピは体が大きいので、獣医師に処置をしてもらう時には麻酔をかける場合もあります。でも、全身麻酔は体に負担がかかるため、できるだけさせたくない。となると、いかに病気にさせないかという予防と、獣医師を呼ぶ一歩手前の段階で気づくことが重要になります。

特に注意しているのは気温です。オカピは熱帯雨林の暑いところに住んでいるので、「明日は急に寒くなる」と分かったら、夜間に暖房をつけます。小さく体の弱い個体や、ホダーリのように高齢に差し掛かっている場合は、10月でも暖房をつけることもありますね。
■野生のオカピにはまず出会えない!?
――オカピは現在、絶滅危惧種に指定。国際自然保護連合(ICUN)のデータによると、その生息数は35000〜50000頭と言われている。

非常にざっくりした数字しか出ていませんが、生息頭数がわかりにくい理由の一つは確認しにくい環境だからです。サバンナ草原の動物は、調査隊が上空からヘリコプターで見て数を確認する方法もあります。しかしオカピは、熱帯雨林に生息するため上空調査ができず、森の中に入って探さなくてはなりません。でも、希少性の高い野生のオカピにはまず出会えないと言われています。そこで糞やエサを食べた痕跡からオカピ1頭当たりの縄張りの広さを予測しますが、情報が少なく、正確な生息頭数の把握が難しいのです。

またコンゴは治安が安定しないので、森の中に調査隊が入ること自体が難しい。実際2017年にオカピの住む森に入ったアメリカ人のジャーナリストが、現地の武装集団に拘束される事件も起きています。

■美しき毛皮ゆえに犠牲になるオカピ
――実のところ、オカピの減少が近年のことかどうかもよくわからないそう。

そもそもオカピが発見され、新種として登録されたのが1901年で、そのころから何頭いたのかもわかっていません。急激に生息数が減ったのではなく、数がかなり少なくなってから発見された可能性もあります。

ただ、人間の影響は少なからずあります。オカピは毛並みが美しいので、毛皮目的に密猟が行われたり、森で活動する労働者が食料としてハンティングしたりすることもあるそうです。また、森の中ではダイヤモンドやレアメタルなど世界中で需要の高い天然資源が取れるため、採掘のために人が道を作り森を分断したことも影響を与えているといわれています。

■保護活動と現地の人々の生活のはざまで起きた事件
――オカピの保護活動に関して、ショッキングな話もある。

「イトゥリの森」というところにオカピの保護施設があるのですが、そこで保全プロジェクトのスタッフがレンジャーや暗視カメラを配置して、生態研究に役立てようと活動していました。

ところが2012年にそこが襲撃され、保護されていたオカピが7頭殺される事件が起きました。肉にされたわけでも、毛皮をとられたわけでもなく、ただ撃たれていたのです。

この事件に関して、「コンゴでは貧しい生活をしている人がたくさんいるのに、外国人が動物にお金をかけて人の生活よりも動物を守ろうとしていることを、よく思わない人たちの報復活動だったのでは?」との報道も。保護活動ですら裏目に出て、命を間接的に奪う場合もあるのだと知り、これは非常に難しい問題だと感じました。

このとき、オカピに関しては何も持っていかれなかったのですが、事務所にあったパソコンやカメラは盗まれていて、すぐに換金できるものを狙った可能性もあるそう。そこにお金があると思わせてしまったことが、仇になってしまったような事件です。

――現地の現実は遠くにいる我々からすると、いささか衝撃的だ。

ズーラシアでも当時、この事件に関してポスターを出して、事実を知ってもらおうとしました。すると大人が小さな子供に、「悪い人がオカピを殺しちゃったんだ」と省略して説明されている場面が多々ありました。しかし、現地の人も生活にかなり困っていたのかもしれません。外国人の裕福な団体が助けてくれるのかと思いきや、自分たちではなく動物を助けるという。様々な事情があることを考えると、その人たちを「悪い人」と説明することへの違和感を覚えました。

その保全団体は現在、オカピの保護区周辺の住民に「この動物を保護することが、最終的に皆さんの利益になる」ことを知ってもらう方向に活動をシフトしています。村の女性に裁縫を指導し、手作りの製品をマーケットで観光客に販売してお金を稼ぐ方法を指導したり、オカピの保護が観光につながって最終的には収入源になることを説明したり、あるいはオカピの基金として集めたお金を地元の子供たちの奨学金に使ったりしています。オカピの生息地のコミュニティを支援することで、長い目で見たオカピの保護活動につなげています。
■動物園の4つの役割とは?
――ズーラシアはランドスケープイマージョン、「自然をイメージした展示」に力を入れている。森田さんはその中でのオカピの見方を次のように話す。

動物園だと、「近くで見たい」「一緒に写真を撮りたい」というご要望も多くいただきますが、展示場ではオカピがアフリカ奥地のジャングルにいることを頭の中でイメージしながら見ていただくのもおすすめです。なるべく先入観なく、「この動物は一体どこに暮らしていて、どんな動物なのだろう?」ということをまっさらな目で見ていただければ、意外な発見があるかもしれません。

日本の動物園の役割は「レクリエーション」「教育」「調査研究」「種の保存」の4つ。その中でオカピのような絶滅危惧種の真実を皆さんに知ってもらい、その動物にまつわる環境問題から自分たちの生活とのつながりを考えてもらうことは、動物園の大切な役割なのです。

また見た目の不思議なオカピを例にして、なぜそんな柄に進化をしたのか考えてみると、より動物を楽しく見られるのではないかと思います。そして動物園がやっている取組みを、これから少しずつでも知ってもらえればうれしいです。

取材・文=鳴川和代
監修=久保田潤一(NPO birth)