全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第24回は、愛知県刈谷市を中心に活動する「ayakicoffee」。店主の福田幸子さんは宮崎県出身だが、キッチンカーの営業をしているうちに愛知県でたくさんの出会いに恵まれた。「人との繋がりがめちゃくちゃ増えて、今がめちゃくちゃ楽しいです」と話す福田さんの人生を変えたのは、ほんのちょっとしたきっかけ。宮崎県出身の福田さんが愛知県で紡いできた、今に繋がるストーリーを伺った。

Profile|福田幸子(ふくだ・さちこ)
1987年(昭和62年)、宮崎県門川町生まれ。就職、結婚を機に愛知県へやってきて、子育てが落ち着いた2010年ごろ、スターバックスで働き始め、コーヒー店をいろいろと巡るようになる。2019年に、自分でカスタマイズしたキッチンカーでの営業を始め、「ayakicoffee」をオープン。当初はハンドドリップ抽出のみだったが、1年前からエスプレッソマシンを導入し、カフェラテがメニューに加わった。

■福田さんの“今”に繋がる決断
トヨタ紡績やデンソーの本社があり、多くのビジネスマンで賑わう刈谷駅界隈。JRと名鉄が乗り入れる刈谷駅から、線路に沿って西へ徒歩5分ほどの場所にある南桜街園に、毎週火、木曜日にやってくる移動カフェがある。笑顔の素敵な福田幸子さんがコーヒーを抽出する「ayakicoffee」だ。実は、福田さんは2児の母。子供たちがある程度成長したころ、スターバックスで働き始めたことが、その後の人生を大きく変えることになったという。

1996年に日本上陸を果たしたスターバックスだが、まもなく27年が経過しようとする現在、ここで働いたことがコーヒーに興味を持つきっかけとなり、コーヒー店主となる人は多い。福田さんもそうなのだろうか。「もともとコーヒーは好きでしたが、それよりも人と接することが好きだったんです。コーヒーを淹れている間に人と話せるんじゃないかと思ったのが、働き始めたきっかけ。実際は、店での接客スピードでは自分の思っていることができなかったので、キッチンカーをやってみることにしました」。もともとコーヒーやカフェが好きだったという福田さんは、スターバックスで働きながら、各地のカフェやイベント、マルシェを巡るようになっていた。「キッチンカーなら、『コーヒーを淹れながら人と接したい』という想いが実現できるんじゃないか、自分の好きなことができるんじゃないか、と考えました」

キッチンカーは自分でカスタマイズしており、3周年を記念して製作した看板には、福田さんの娘たちをデザインした。「娘は今中学1年生と小学4年生ですが、並んでいると双子みたいに思われるんですよ。だから、バランス的には双子をイメージして作ってもらいました。店名も、娘たちの名前から取っています」

■人に淹れてもらうコーヒーは、おいしい
「私の場合、衝撃的な体験をしたわけではなく、気が付いたらコーヒーが好きになっていました。だけど、キッチンカーをやってみようと思ったきっかけは、イベントやマルシェで出会ったコーヒーがおいしかったことかもしれません。浅煎りのコーヒーを飲んで、好きな味だったこともあるんですが、淹れてくれるお店の人もいい感じだったんです。だから、私はコーヒーの味だけをみて、おいしいと感じているわけではないんだと思います。人に淹れてもらうコーヒーが好きなんです」

キッチンカーで営業するようになって、お客ひとりひとりと会話をしながら、丁寧にコーヒーを淹れられるようになった。この抽出する時間が、福田さんが求めていた“人と接する”時間だ。

「ドリッパーは、カリタウェーブを使っています。抽出時にお湯をコントロールしないといけない器具だと難しいので、まんべんなくお湯を落とせるカリタウェーブにしました」。キッチンカーでの抽出は、外気温に大きく影響される。さらに、福田さんにとってコーヒーを淹れる時間は、人といろいろな話ができる時間。さまざまな要因を考慮した結果、安定感抜群のドリッパーを選んだ。さらに、ドリッパーの素材にも注目したい。砂を焼き固めたようなビジュアルがナチュラルな雰囲気で、店のイメージともピタッとマッチしており、抽出風景を見ているだけでちょっと贅沢な気分になる。

抽出が終わったら、サーバーからカップへ。1杯ずつハンドドリップすることで、会話の機会も増える。福田さんが欲しかったのは、まさにこんなひと時なのだ。

エスプレッソメニューを提供し始めたのは、実はここ1年くらいのこと。キッチンカーで営業しながら資金を貯めて、ようやく導入できた。

エスプレッソマシンは、貯水タンク式のラ・チンバリ ジュニアを搭載。部品を追加して、強力なスチームを調整しながら使用している。「私と同じようにキッチンカーでカフェを営業している方に使い心地を聞いて、これに決めました。貯水タンク式ですし、パワーが強いし、すぐに温まるし、すごく使いやすいですよ。欲を言えば、タンクがもう少し大きいとうれしいですね(笑)」

■豆の仕入れ先は、こまめに通える場所から選定
コーヒー豆は、愛知県内のロースターから仕入れている。イベントの予定を参照しながら、大体1〜2週間で売り切れる量を買っていく。「キッチンカーだと営業が不定期になりがちなので、休みが長くなると豆の鮮度が落ちてしまいます。だから、自分でこまめに買いに行けて、なおかついろいろな豆から選べるところがポイントでした。家の近くで仕入れができる場所を探していくなかで、スペシャルティコーヒーにこだわって扱う品質とコストのバランスを見ながら決めました」

オリジナルブレンドも、作ってもらった。「アヤキコーヒーブレンドのイメージは、苦さがありつつもすっきりとした味のコーヒー。マンデリンやグアテマラを使っています。試飲しながら、『この豆の比率を多くしてください』とか『ちょっとこの豆を減らしてください』という細かいところまで確認しながら決めました。アフタヌーンブレンドは、苦すぎるものが苦手な人に向けて作りました。ブラジルやグアテマラの豆を使って、マイルドに仕上げています」

ブレンドだけではなく、ストレートもある。季節で変えているフルーティーなタイプと、ちょっと変わったタイプの2種類を用意。仕入れのタイミングで、ロースタリーのラインナップから福田さんが興味をひかれたものをチョイスしている。「今は、アナエロビックという精製方法の豆を入れています。嫌気性発酵という、酸素にふれない状態でコーヒーチェリーを発酵させたもので、赤ワインのような風味が感じられますよ」

エスプレッソに使うのは、アフタヌーンブレンド。「このブレンドで抽出すると、あと味がすっきりとした飲み心地のいいラテに仕上がります」と、福田さんも気に入っている。

■大好きなコーヒーを介して、人と繋がりたい
最初からコーヒーの仕事をしたいと考えていたわけではない。それでも、この仕事は福田さんの人生に彩りを与えてくれた。「大好きなコーヒーをいろいろな人に提供して、人と繋がっていきたいという気持ちが一番の原動力です。私は地元が宮崎県なので、もともと愛知県とは縁がありません。そんな私が、コーヒーを介してたくさんの人と繋がることができた。めちゃくちゃ楽しいです」

コーヒーをやっていないと絶対知り合えないような人たちと仲良くなれた。それは、同業者もいる。常連客もいる。うれしい経験を積み重ねながら、可能な限りイベントに出店する福田さんの表情は、キラキラと輝いていた。

■福田さんレコメンドのコーヒーショップは「THANKFUL DAYS COFFEE」
「おすすめしたいコーヒー店はたくさんあるんですが、今回は愛知県刈谷市の『THANKFUL DAYS COFFEE』を紹介します。オーナーの臼井さんは、名古屋市内の有名レストランで長年店長を勤めていた方。エスプレッソマニアでもあり、マシンのスチームを調整する時にも相談にのってくれるなど頼りになる存在です」(福田さん)


【ayakicoffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(ラ・チンバリ ジュニア)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム800円

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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