名古屋の食文化とは切っても切り離せない、喫茶店文化。なかでも、東区泉にある「ボンボン」は、栄や名古屋駅など街の中心地から少し外れた場所にあるにもかかわらず、いつも常連客や観光客でにぎわっている。

■ 1949(昭和24)年創業。昭和の香りが漂う空間

赤い革張りのソファやステンドグラス、レンガ調のパーテーションなど、昭和の香りが充満する空間は、まさに名古屋を代表する純喫茶と呼ぶにふさわしい。「ボンボン」のルーツは、先々代社長の岩間五郎さんが抑留ドイツ人から教わって洋菓子作りを始めたところまでさかのぼる。第一次世界大戦後、多くのドイツ人が全国各地に収容され、西洋技術を日本人に指導したという。その後、父・五郎さんの影響を受けた先代の岩間盟路さんが、1949(昭和24)年にカステラやどら焼きなどの卸業をスタート。1956(昭和31)年に喫茶店と洋菓子販売店を併設した「ボンボン」を開くことに。

火事で店舗が全焼する災難に見舞われたこともあったが、翌年の1968(昭和43)年には再建し、現在の店舗はそのころからほとんど変わっていない。先代は味へのこだわりが強く、どのメニューも自分の舌で決めていたという。毎朝コーヒーを味見するのも日課で、「現社長もこの習慣を続けています」と話すのは、先代の孫で、現社長の娘にあたる浩衣さん。

■ ほとんどが200円台!手ごろなケーキが常時40種類も

先代はバタークリームが主流だった時代にいち早く生クリームのケーキを売り出し、人気を集めた。地下の自社工場で作られるケーキは、販売店での購入はもちろん喫茶店でも味わうことができ、現在でもほとんどが200円台というリーズナブルな“昭和価格”も魅力のひとつだ。季節メニューなども合わせると常時40種類ほどが並び、どれにしようか迷ってしまう充実のラインナップ。

一番人気の「マロン」(250円)は、しっとりとした生地に生クリームがたっぷりと入った素朴な味わい。洋酒を使った見た目もレトロな「サバラン」(250円)や、シュー皮が特徴の「ボンボン生ロール」(250円)も店の看板商品で、いずれも先代が考案したものだ。また、ほかのケーキと比べると少し値は張るが、新鮮な桃を丸ごと使った夏限定の「丸ごとピーチ」(540円)も、毎年夏になると目当てに訪れる客も多いという。

■ トーストやサンデーなど純喫茶ならではのメニューも好評

名古屋の喫茶店といえば、小倉トーストを忘れてはならない。もちろんボンボンも例にもれず、「アントースト」(360円)の名で販売している。こんがりと焼いたトーストに自家製のあんがサンドしてあり、香ばしさと上品な甘みが絶妙にマッチ。しっかりとした苦味と酸味が感じられる昔ながらのコーヒーと一緒に味わいたい。

「ソーダ水が入っているので、見た目もレトロで人気がありますよ」と浩衣さんがおすすめしてくれたのは、アイスクリームやたくさんのフルーツが盛られた「フルーツサンデー」(570円)。どこか懐かしさのあるスイーツは、昭和の空気が漂う店内によく似合う。「ソフトクリームもあっさりした味わいがお客様に好評で、パフェ系や、ソフトクリームがのったクリームトーストというメニューも皆さんよく注文されます」。

■ ボンボンのネーミングやクマの由来が印象的

今やボンボンの顔となっているロゴマークのクマ。驚きの誕生秘話を、浩衣さんが教えてくれた。「私の母が小学3年生くらいのころに、先代に“何か描いてみろ”と言われて誕生したのが、このクマ。手に持っているのは一番人気のケーキ、マロンなんですよ」。今では焼菓子のモチーフになって販売されたり、包装シールに使われていたり、店内のあちこちで見かけることができる。

「ボンボン」という店名は、“ン”を重ねることで運が重なるように、と先代が思いを込めたネーミングだそう。「“いいものをお値打ちで提供したい”という先代のこだわりを引き継ぎ、たくさんのお客様に幸福な時間とホッとするひと時をお届けできるように努めています」と浩衣さん。現在まで続くボンボンの形は、創業当時からの先代の思いと感性がしっかりと根付いているからこそ、変わらず愛され続けているのだろう。ボンボンはいつだって、昭和の雰囲気そのままで、お手頃価格のおいしい洋菓子を並べて待っていてくれる。【東海ウォーカー/須崎條子(エディマート)】