平成30年度後期のNHK「連続テレビ小説」99作目となる「まんぷく」でモデルとなるのは、今や私たちの生活に欠かせない「インスタントラーメン」を生み出した日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)さんとその妻・仁子(まさこ)さん。

ドラマでは、戦前から高度経済成長時代にかけての大阪を懸命に生き抜く夫婦の物語が描かれます。安藤百福さんの関連資料はあるものの、妻・仁子さんに関しての書物や資料は少なく、夫婦の偉業を軸にしたオリジナルストーリーになるとのこと。

物語の内容やキャストに注目が集まる中、創業者夫妻が朝ドラの主人公となる日清食品ホールディングスの広報部次長・大口真永さんに、オファーの経緯や、日清食品の社員しか知らない安藤夫妻の顔を聞いてきました。

■ 「チキンラーメン」発明60周年でのドラマ化に

??安藤夫妻をNHK連続テレビ小説のモデルに、というお話はいつ頃からあったのでしょうか?またこのお話が来たとき、広報部としてどう思われましたか?

大口:今年の7月に、突然弊社にNHKさんから安藤創業者夫妻をドラマのモチーフにしたいとお電話をいただきました。お電話の時点ではまだ正式決定ではない旨も聞いていたのですが、来年2018年は、安藤百福がインスタントラーメンの元祖で弊社の創業商品「チキンラーメン」を発明してから60周年という記念の年にもあたりますので、弊社としてもぜひ!と返答させていただきました。

NHKのプロデューサーの方が企画を上げる前に、「チキンラーメン」生誕の地、大阪・池田の「安藤百福発明記念館(カップヌードルミュージアム)」に足を運び、そこで色々見てくださった上で、安藤創業者の功績に対する称賛や熱い思いを語っていただいたのが大変嬉しかったですね。

■ 社内の盛り上がりの程は?

??朝ドラに日清食品様の創業の物語が決まった時やその後の、社内の盛り上がりの様子をお聞かせください。

大口:実は、社内では「極秘プロジェクト」で話を進めていましたので、弊社代表取締役社長で安藤創業者夫妻の息子・安藤宏基と、孫である代表取締役副社長の安藤徳隆、そして我々広報部など極一部の社員を除いては、先月11月14日の記者発表で初めて知ることになりました。

やはり、国民的ドラマであるNHK連続テレビ小説のモチーフが自社の創業者夫妻ということで驚きも大きかったようですが、「今から楽しみ!」との声が圧倒的多数でした。

??安藤夫妻の息子・安藤宏基さんの反応はいかがだったのでしょうか。

大口:自分の父親と母親がモデルになるドラマであることと、そしてドラマで描かれる時代には本人も登場することになりますから、気恥ずかしさがあるようです。安藤宏基自身が脚本家の福田靖さんとお話をする際にも同席しましたが、「(自分のことは)いい子に描いてくれ(笑)」と言っておりました。一方、安藤徳隆は、尊敬する大好きな祖父母のドラマ化ということで、とても喜んでいました。

■ 2人のエピソードが続出!

??安藤百福さんは、貴社内ではどのような存在なのでしょうか?

大口:今の若い社員にとっては、雲の上の「偉大な創業者」としての存在感とともに、もはや歴史上の人物になりつつあるようです。一方、90歳を越えても非常に好奇心旺盛で、アクティブにいろんなことにチャレンジし、少年のようにキラキラする安藤創業者を見ていた社員は、当然リスペクトしているのですが、もう少し身近に感じているのかもしれません。

??大口さんは実際に一緒にお仕事されていらっしゃったんですよね。大口さんから見た安藤さんはどういう方でしたか?

大口:「チキンラーメン」をアメリカに売り込みに行った際に、アメリカ人が「チキンラーメン」を紙コップに入れてフォークで食べだしたのを見て、「どんぶりや箸のないアメリカでも食べやすくするにはカップに入れればいいじゃないか」と”ひらめき”、「カップヌードル」を発明したように、本当に晩年まで好奇心・探究心の強い方でしたね。

あとは、「チキンラーメン」が誰よりも好きでした。「チキンラーメン」を食べ続けた記録は、おそらく誰にも超えられないと思います。なんといっても、開発中から食べ始め、亡くなる前日まで50年近く毎日食べていましたからね。インスタントラーメンって、身体に悪いと言われることもあるのですが、安藤創業者は96歳と長寿でしたので、決して悪くないことを体現してくれました (笑)。

??インスタントラーメンの発明以外にも様々な伝説のある安藤さんですが、あまり知られていない伝説があれば教えてください。

大口:2005年に宇宙食ラーメン「スペース・ラム」を開発したのはあまり知られていないかもしれません。宇宙飛行士の野口聡一さんが「カップヌードル」を大好きでいらっしゃって、彼のために宇宙でも食べられるようにと開発したものです。無重力空間で飛び散った水分によって国際宇宙ステーションの精密機器を壊さないようスープにとろみをつけ、麺は食べやすいよう野口さんの口の大きさに合わせて一口大にしたり、また、味覚が鈍る宇宙空間でも美味しく召し上がっていただけるよう味も濃いめにするなどの工夫もしてありました。この開発の陣頭指揮を執ったのが95歳の安藤創業者でした。

他には、亡くなった直後に、米紙「The New York Times」が社説で”Mr.Noodle(ミスターヌードル)に感謝”として安藤創業者に追悼のメッセージを掲載して下さったのが本当にすごいことだったと思います。

??妻・仁子さんについての記録が少ないとのことで、脚本家の福田靖さんも、今回の「まんぷく」でも「関係者の方々への取材は可能な限りしたものの、ほとんど架空の人物になる」とおっしゃっていましたが、何か社内で語り継がれていることはありますか?

大口:私人のため、残念ながら仁子氏の、特に昔の資料などは少ないのですが、「チキンラーメン」開発時、長期間保存でき、しかもお湯を注いですぐ食べられるようにするにはどうすればよいのかを考えていた安藤創業者が、なかなか正解に辿り着けないなか、ある日の夕食に仁子氏が揚げていた天ぷらを見て「麺を油で揚げることも乾燥に使えるのでは?」とひらめき、その後、試行錯誤の末に「チキンラーメン」は完成に至ったのです。後に「瞬間油熱乾燥法」として特許を取得するこのインスタントラーメンの基本技術が、仁子氏の揚げた天ぷらに由来していることが一番語り継がれていますね。また、安藤創業者夫妻は本当に仲が良く、晩年の写真も二人で寄り添って笑顔で写っているものが多く、本当に理想の夫婦だと思います。

■ ドラマ化で高まる期待

??お写真、とても素敵ですね。日清食品といえば、テレビCMや面白い商品をはじめとしたマーケティングにも力を入れていますが、この朝ドラを何か事業につなげていく予定はあるのでしょうか?

大口:NHKさんとの兼ね合いもあり、現時点で決定していることはないのですが、この「まんぷく」を見て、インスタントラーメンを最近食べていない方々にも、もう一度食べてもらえると嬉しいですね。この朝ドラが、60周年を迎えるインスタントラーメン業界の活性化に繋がればいいなと思っています。

??貴重なお話ありがとうございました。最後に、今から朝ドラを楽しみにしている方々に向けて、一言お願いいたします。

大口:一度は見たり食べたりしていただいたことのある、あの「チキンラーメン」や「カップヌードル」の誕生エピソードは、なかなかドラマティックで、社員や関係者以外が見ても楽しんでもらえると思います。私も放送開始を楽しみにしています。

??ありがとうございました。

この日のインタビューで使用した、日清食品の社員食堂「KABUTERIA」には、安藤創業者夫妻の自宅から持って来たソファなどの家具がおいてある。「あえて社員には知らせていないので、この記事を見て知る社員はびっくりするかもしれません」と大口さん。大口さんをはじめ、このことを知っている一部の社員は、パワーをもらいたい時はこの席に座っているといい、パワースポットにもなっているそうだ。(東京ウォーカー(全国版)・大原絵理香)