情けないのになぜかモテるダメ男と、怪力、大食い、カラス声だが実は絶世の美女。そんな2人が繰り広げるコメディ映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』が2月14日(金)に公開される。

太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させ、好評を博した舞台の映画化だ。

メガホンを取ったのは、『八日目の蟬』(2011)で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した成島出監督。成島監督にインタビューし、作品に込めた思いを聞いた。

映画の舞台は終戦から3年、力強く復興へ向かう日本。文芸誌編集長の田島周二は、情けないのになぜか女性によくモテる。未だに妻子を疎開させたまま、気付けば何人もの愛人を抱えていた。そろそろまともに生きようと、愛人たちとの別れを決意するも勇気がない。そこで驚くような美貌を隠し、泥だらけで担ぎ屋として働いているキヌ子に嘘の妻を演じて貰い、愛人たちと別れようと企むが、事態は周二の思わぬ方向に向かって行く。

■ 面白さだけじゃない。惹かれたのは現代に通じる自立したヒロイン像

もともと太宰治の作品が好きで、またケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台もよく観に行っていたと話す成島監督。太宰治の未完の作品がどのように完成されたのか興味を持ち、舞台を観に行ったのが映画化のきっかけだったという。

舞台を観たときのことを「すごく面白くて、ものすごい爆笑で。その笑いがうらやましいな、映画ではなかなかああいう風には行かない、やっぱり生は強いなあと思ったんです」と振り返る成島監督。

舞台の面白さだけでなく、成島監督の心を掴んだのはキヌ子のキャラクター。その美貌とは裏腹に、怪力で大食い、お金にがめついというギャップは笑いを誘うが、それに加えて、男性にも負けない強さと、女性らしさを併せ持つ人物として描かれる。

「キヌ子の有り様が、すごく強いというか凛としているというか、男に媚びを売らない。あの時代にあれだけの美貌があったら、カフェで働く、もしくはアメリカ兵の街娼となればお金には全然困らないだろうし、他の女性はそうやっている人が少なくない中で、彼女は牛のような怪力で米俵とか運んで自分で食べて、自分でおしゃれして映画とか観に行ったりするわけじゃないですか。そういう自立っぷりが戦後3年にしてすごい、今でも通用するな、かっこいいなと思って、ヒロイン像としてすごくいいと思ったんですよ。そのヒロインがダメ男をひっかき回すっていう話だったら映画になるんじゃないかと思いました」

また、強い女性像は成島監督の作品に共通する部分でもあり「『八日目の蟬』とかも全部、どこかで共通してて、女が強い。強い女が好きなんですよね。男はダメなんです。太宰の作品で陰と陽があるとすれば、僕の中では『八日目の蟬』は「人間失格」な方向だけど、女性の強さは同じなんです。テーマはそんなに変わらない。『八日目の蟬』を喜劇にするとこうなるんです」とジャンルは違っても同じ女性のパワーに惹かれたことが映画化の決め手だったと明かしてくれた。

■ キヌ子は小池栄子の当たり役。他の人では考えられない。

キヌ子を演じた小池栄子は、成島監督の作品への出演は今作が5度目。成島監督は小池について「いろんな部分が素晴らしいんですが、努力家だし、手を抜かないし、それで恐れずにぶつかってくる勇気もある」と女優としての姿勢を高く評価するとともに「彼女は、大柄という意味ではないけれど、女優としてスケールがあるんですよ。そのスケール感が日本の女優離れしている。だからはまると映画の中で映えるんです。彼女が出てくれると映画らしく締まるというのはすごくあります」と小池の持つ存在感を絶賛。

キャストの中で唯一、舞台でも同じキヌ子の役を演じていることについては「俳優さんって一生のうちに何役も当たり役ってないだろうから、このキヌ子は彼女にとってそういう役のひとつだなって思います。それは舞台のときからそうなんだよね。だから舞台版と映画版と両方できて、僕も映画で撮れてすごくよかったなと思います。他の人のキヌ子っていうのはやっぱり考えられないというか、米俵担いで、その後すぐストッキング履いてっていうのはなんか嘘っぽいじゃないですか、普通の人がやると。そういう所がいいですよね」と語る。

■ 「すごく満足してます」大泉洋の振り切った演技に注目

一方で田島周二を演じる大泉洋とは今回が初タッグ。「前からすごく一緒にやりたかった俳優」と話す成島監督は、その理由を「どこか懐かしいというか、今っぽくない所を持っていて、雰囲気というか、独特なものがある。あとは元々人を笑わすのが好きなんだよね。コメディやる人はそこに快楽がないとできないから、大泉さんもそれが強いと思ったから、すごくやってみたいなと思いました」と明かす。

実際に大泉演じる田島周二を見て成島監督は「すごく満足してます」と語る。特に好きなシーンが「彼が爆発しちゃうところがあって、そこはシナリオではそこまで読めないんだけど『俺には女の素晴らしい所以外目に入らないんだよ!』という所と、『一緒に死んでくれ!』って言った後に金なんか要らないってブチ切れるところで、そこのエンジンのかかり方が、彼は最初躊躇してたんだけど、針振り切ったときにやっぱりすごくいい味が出たと思うので、よかったなと思いますね」と撮影を振り返る。

■ 作りたかったのは演技派の俳優たちによるオーソドックスなコメディ

成島監督は、代表作『八日目の蟬』や、近年では『ちょっと今から仕事やめてくる』(2017)など人間ドラマを中心に話題作を世に送り出してきた。しかし「もともとコメディをずっとやりたかったけれど、中々その機会がなかったので、これはチャンスと思って、何とかやりたいなと思いました」と言うように今作は待望のコメディ作品だったのだという。

成島監督の思い描いていたのは「昔ながらのキートン、チャップリンから始まったもの」というオーソドックスなコメディ。しかしそういった作品は以前と比べ、現在ではあまり作られなくなってきているそう。

「昔はコメディ映画というのはいろいろあって、コメディエンヌとか、喜劇俳優がいたけど、今はお笑いが全部お茶の間のものになって、劇場からちょっと遠のいてしまって。わざわざお笑いを観になかなか劇場まで足を運んでくれない。テレビもほとんどお笑いじゃないですか。ドラマがどんどん消えてお笑いになってる」と時代の変化に難しさを感じつつも「それだけ笑いって強いんですよ」とも話す成島監督。

また、最近の映画のコメディは、学生のラブコメディや、シチュエーションコメディが主流な中、ベテランの域に入った俳優たちの出演するコメディ作品も必要だと語る。

「今は若いヒロイン、ヒーローに持っていかれてそれがなかなか映画でできない。だから大泉くんとか小池くんの年頃で、脂がのってきた所で役がないんですよ。それってすごい寂しいじゃないですか。ハリウッドなんかは、若い頃は綺麗で売ってたけど、中年になって演技派になって、それでラブコメみたいなのをやってアカデミー賞取ったりとかあるんだけど、日本ではなかなかそういうことが成立しないんでちょっと残念だなというのがあったので、それにチャレンジしたかったなというのはありました」

現代にも通じる強い女性像や映画業界への思いなどを込めた作品であると明かしてくれた成島監督。深い思いを込めながらも「やっぱり舞台を観たときの笑いをなんとか劇場に届けたいなあ、笑ってもらいたいなあという思いが今回は強いですね。舞台を観て、ああやってどっと笑うのを見て、スクリーンを通してそういうことが劇場に起こってくれるといいなというのを、商売とかじゃなくて純粋に思いましたね。笑ってほしいって」と監督自身が舞台を観たときと同じように楽しく見てほしいと語った。(関西ウォーカー・松原明子)