中田英寿氏が2009 年からスタートした日本全国47 都道府県をめぐる旅。その旅の中で中田氏が直接触れてきた日本の文化・伝統・農業・ものづくりを、より多くの人に知ってもらい、そのものの本来の良さを感じてもらうことを目的としたオンラインストア「にほんものストア」がオープン。

和歌山県の「早和果樹園」で作られたみかんジュースや広島県「かなわ水産」の牡蠣フライなど、その地域ならではの特産品や郷土料理だけでなく、江戸時代から約400年に渡って続く岩手県の工房「鈴木盛久工房」で作られた小鍋や瓶敷や、1998年に設立したガラス工房「潮工房」で作られたグラスなど、地域に根づいた伝統工芸品の販売を行っている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で各地へ足を運ぶことが困難な状況にある中、日本全国の「ほんもの」を体験できる場ともなる「にほんものストア」。その想いを、中田氏に聞いた。
――まずは、J-WAVE NIHONMONO LOUNGE(2020年7月14日から9月6日に開催)、お疲れ様でした。僕も足を運ばせていただきまして、来場者の方が楽しそうにしている姿がとても印象的でした。振り返ってみて、あらためていかがですか?
※J-WAVE NIHONMONO LOUNGEは、JR東日本が高輪ゲートウェイ駅前で開催した「Takanawa Gateway Fest」内にオープン。過去4回にわたって開催された中田氏主宰の “SAKE”イベント「CRAFT SAKE WEEK」とコラボレーションした日本全国の選りすぐりの日本酒が楽しめるほか、予約困難な日本最高峰のレストランが監修した、ここでしか食べることができないスペシャルメニューも提供された。

【中田英寿】ありがとうございます。ひとつのお店の中で毎週、違うレストランの料理を食べられることって普通はありえないじゃないですか。できたこと、できなかったことはありましたが、ここでいろいろなことを試すことができました。

――会場内で「NIHONMONO TOKYO」というショップも展開されていましたね。

【中田英寿】今までは、旅の中で出会った生産者の情報を、さまざまな形で情報発信はしてきました。しかし今のような状況になり、情報発信だけではなく、実際に体験してもらうということが重要だと思い、今回、自分が足を運んで見つけた良いものを集めてショップという形で伝える形になりました。この先、オンラインショップも展開していくので、そのトライアルの意味も込めてやってみました。いろいろな反応が聞けておもしろかったですね。
――これまで日本全国約1800カ所を旅して、それぞれの地域の工芸や食(農業)、伝統芸能や文化など、さまざまなモノやコトに触れてきたと思いますが、中田さんが実際に足を運んでみて感じた、日本の地域に根付いた文化の魅力はどのようなところでしょうか?

【中田英寿】今の時代、世の中の情報がすごく発達していることもあって、生産現場を見ることがほぼなくなっていると思います。僕も以前は、自分が普段食べたり、飲んだり、それこそ使ったりしているものの背景をあまりにも知らなかった。生産者の歴史から、できあがるまでにどれだけの苦労があり、どんな技術があって作られているものなのか、それを目の当たりにしたときに、「モノに対する価値観」が自分の中ですごく変わりました。そうした情報を知ったことでモノの選び方が変わり、自分がよりおいしいと思えるもの、より美しいと思えるものを手に取れるようになり、自分の生活が豊かになりました。

――確かに、完成したものだけに触れていると、その原点や途中過程を忘れてしまい、生産者をイメージできないことがありますよね。作り手の想いであったり、感情が一緒に届けられるとまたひと味違ってくるというか、そういったところが素晴らしい営みだなと感じています。

【中田英寿】特に今のように、何でもどこからでも手に入れることができて、情報もどこからでも得られるような時代だからこそ、“リアルな体験”や、“現場の情報”というものが、より大事になるんじゃないかなと感じています。

――昨年よりあらためて日本の旅を始められました。南から順にひと筆書きのように旅をした一度目とは違い、テーマを設けて旅をしていますが、いま中田さんにとって一番興味深い日本の文化はどのようなテーマでしょうか?

【中田英寿】まずは知ることが大切だと思い、一度目は、自分が日本文化の基礎知識を学ぶために回りました。今回は、その中で特に興味を持ったものや、収穫時期に応じて足を運んでいます。当然、日本酒(の魅力を届ける取り組み)はずっと続けてやっていますが、次にとてもおもしろいと思っているのは「お茶」ですね。多くの人が日頃から、ペットボトルも含めてお茶を飲んでいるし、お茶というものの存在は全員が知っている。でも、茶葉の種類とか、製造工程の違いを知っている人ってあまりいないわけですよね。そういう部分を考えても、お茶には非常に将来性があっておもしろい。実は、お茶の産地ってアジアが多いんです。アジアの文化としても知っておくべきだし、もちろん僕はコーヒーも好きで飲みますけど、コーヒーもいろいろな知識を持つことで選べるようになって楽しくなった部分がある。お茶についても、実際に自分がいろいろな生産地を回って、茶葉や製造方法を知ると、自分にあったお茶の選び方ができるようになり、すごくおもしろいなと思っています。

――確かに、コーヒーは豆やその産地で好みもありますしね。

【中田英寿】お茶にも同じことがいえるので、これからもっと広がる可能性はあると思っています。それから、今、発酵食品にも興味を持っています。日本酒の酒蔵って全国に1200〜1300くらいあるんですけど、発酵食品である醤油や味噌をつくっているところも同じくらいの数があって、各メーカー、各製造者が30とか50といった数の商品を作っていることを考えると、何万という商品点数があるわけですよね。でも、ほとんどの人がいつも同じ商品を購入していると思います。それは、その商品が自分好みというよりも、それ以外を知らないし選び方がわからないから。たとえば、刺身にしても赤身魚なのか白身魚なのか、豆腐であれば木綿豆腐なのか絹豆腐なのか、選び方や、合わせ方がやっぱり違います。そういったことを知っているともっと食事も楽しめるし、煮物にはこれが合うとか、日々の生活がより楽しくなるんじゃないかなと思っています。

――冒頭でも触れていただきましたが、中田さんが日本全国を旅して来た中でセレクトされた商品が「NIHONMONO LOUNGE」内に「NIHONMONO TOKYO」として展開されていました。ただ商品を置くだけでなく、映像とともに商品を見せたり、ドリンクはメニューとして提供されていたりといろいろな仕掛けがありましたが、初となるストアにおいてこだわった点や、気づきなどがあれば教えていただけますでしょうか?

【中田英寿】まず、「NIHONMONO TOKYO」を始めたのは、自分が全国を回ってさまざまな「良いモノ」を見たときに、その生産者たちの情報を伝えて終わりではなく、その先まで繋げられるように、販売できるシステムを作りたいなという思いがあったからです。その中で、「伝えるって何か?」を考えました。商品がただ並んでいても情報がきちんと伝わらないと買いませんよね。通常、商品が並んでいるときに、例えば産地の情報だけだったり、農家さんや作り手の方の名前といった文字情報だけであることが多い。別の伝え方として、例えば音声で生産者の声が聞けるとか、あるいは映像がそこで見られたり、実際に味わうことができるとどうなるのか。味わうのも結局は「体験」という伝え方なんですよね。コミュニケーションの取り方をいろいろな形で試してみたときに、販売にどんな変化が生じるのかを見たかったという狙いがあります。結果として、実際に映像を流している商品って売れるんですよ。

――結果が違ったわけですね。

【中田英寿】違いました。いろいろな情報があって、それをどうのように伝えれば、より商品の売れ行きが伸びていくことにつながり、生産者のプラスになるかなどヒントになりました。特に、オンラインでの販売が主流になっている今でも、単に文字情報だけっていうものが多いじゃないですか。僕はそこにすごく疑問を持っています。自分だったら読むだけではわからないし、その人のことを知らない状態で「こだわり」と言われてもよくわからなかったりしますよね。それよりも、 “背景”というものを、どう伝えるか、そこをいろいろ工夫したい。そうした考えがあって今回の「NIHONMONO TOKYO」ではそのようなやり方をしましたが、興味深い結果が出たなと感じています。

――中田さんの中で収穫は大きかったということですね。9月15日(火)からスタートする「にほんものストア」ではどのように展開されるのでしょうか?

【中田英寿】スタート時はこちらが作った映像を使って情報を伝えていきますが、今後は生産者の方に自分の映像を撮ってもらうことで、さらなる情報を加えていくことなど、いろいろ考えています。伝え方をより工夫する。それが僕にとって重要なことです。僕は作り手じゃなく、伝え手なので。どうやったら伝わるのか、伝え方を工夫すること、そこをずっと考えてやっています。

――「にもんものストア」のオープンのタイミングでは54種類のアイテムが展開されるようですが、どのような考え方でセレクトされたのか、また今後はどのような商品が加わるのかを教えてください。

【中田英寿】まずは自分がここ最近、足を運んだところのものから始めていますが、当然、一度目の旅の情報も膨大な量があるので、そこからも選んでいきたいと思っています。特に、日常が大事だと考えているので、最初はできる限り日々使う工芸品や、食べるもの、飲むものというところに特化しながらやっていきたいと考えています。さらに僕が選んだというものだけではなく、つながりがあるシェフや各業界の専門家仲間がいるので、そういう方たちにもキュレーターとして入ってもらい、素晴らしいものをどんどん増やしていきたいなと思っています。そうすることで、さらに幅が広がっていくんじゃないかと考えています。工芸品や調味量などは使い方までの提案も大事なので…。
――中田さんの「良いモノを知ってほしい、シェアしたい」という想い。今回のオンラインストアで、文字どおり、物理的にも届く範囲が広がると思いますが、あらためて期待していることはどのようなことでしょうか?

【中田英寿】これまでは、それこそデパートのような場所だったり、リアルな場所に“こだわりのセレクション”があって、その背景を知っている人たちが情報も伝えてきた。けれども、今はインターネットという“場所”ができて、オンラインのほうが圧倒的に物流面でも発達している中で、モノの背景や情報をきちんと伝えることが、これまでよりもやれるはずなのに、逆に難しくなってしまっているように思います。大切なのは、どうやったら生産者についてより知ってもらうことができ、ファンになってもらえるかという部分。そこがうまくいけば、当然、販売は伸びるでしょうし、その利益を生産者の方たちへ還元できる。ここが一番の命題です。商品を並べて終わりではなくて、伝えるということがメイン。だから生産者のことを知ってもらえるように記事も作りますし、そのために僕は足も運びます。実際に訪れてみて、自分が知って、それをしっかり伝えるという営みです。伝えて、最終的にモノが届く。仮にそれがどんなに売れるものだろうと、自分が知らないものは紹介しないですし、きちんと伝えたいという意思があるものだけをこだわり続けて届けていきたいと思います。