ニュースを見ると、被告人の弁護士が変な主張をしているのを目にすることがある。だけど、一般の人にとって裁判や弁護士など法曹の世界は、テレビやメディアで触れるだけの謎多き存在だ。

そんな法曹や弁護士のリアルを垣間見られる漫画を公開しているのが弁護士のたぬじろう(@B_Tanujiro)さん。たぬじろうさんは某大学の法学部から法科大学院に進学し、24歳の時に司法試験に合格。いわゆるマチ弁(=地域密着型で、個人や中小企業から一般民事事件を中心に受ける事務所)に所属して4年間経験を積んだのち、5年目に独立。現在は幅広い分野で活躍中だ。

■法曹や弁護士の世界を垣間見られる作品
たぬじろうさんの作品は弁護士ならではの体験や、日頃知りえない法曹関係者のリアルなどを、動物のキャラクターを使ってコミカルに、しかもわかりやすく描いていて、好奇心を刺激する。ご本人によれば「その場のノリで書いているので、人間と動物が入り混じった変な世界観になっています(笑)」だそうだが、それが親しみやすさのもとかもしれない。ちなみに、「たぬじろうは自分自身ですね」とのことだ。

イラストが好きで、もともと漫画を描いてみたいと思っていたたぬじろうさん。「弁護士を目指す人が減っている」というニュースを見て、弁護士の魅力を高校生や大学生などにも知ってほしいという気持ちも持っていた。

そんななかで先輩弁護士と「自分のやりたいことは何か」を話したことがきっかけで、「弁護士のリアル」を漫画で描くことに。2021年5月25日からTwitterとInstagramに漫画の投稿を開始した。

漫画のテーマは基本的に「弁護士あるある」だ。アイデアは実話から出ているほか、ほかの弁護士から聞いた話なども交えている。また、非法曹関係者の奥様から「弁護士の意外な点」を聞くこともままあるそう。「自分はこの業界に染まってしまっているので、妻の感想は新鮮で助かっています」と、たぬじろうさん。

■弁護士バッジをわざと削る新人も!?
一般的な弁護士のイメージが少し崩れてしまう作品が、「時間感覚のリアル1」だ。なんとなく時間に厳しそうな弁護士だが、実はその逆でルーズな人が多いとか。待たされることが多いため、時間通りに行かなくなるという。法曹関係者は悪習と考えているようだが、「でもなくならないのですよね」とのことだ。

そして弁護士といえば、ひまわりのバッジが目印だが、これは経年で色が変化する。黒っぽいほどベテランとみなされるというわけで、「年季が入っているように見せるため、弁護士バッジを削る人もいるんですよね」と教えてくれた。実はたぬじろうさんも、削ってしまった一人。

■弁護士って、残業代出ないんですって⁉
作品を読んで、「えっ、そうだったんだ!」と驚かされることも多い。その一つが「残業代のリアル2」だ。

「残業代とは、雇用契約(労働契約)において発生するものです。ですが、弁護士は、使用者の指揮命令下で労務を提供する労働者ではなく、あくまで一人の専門家として業務を委託されているに過ぎません。ですから残業代は発生しないのです」

というのが多くの事務所の建前。でも、たぬじろうさん曰く「実態は雇用契約に近い環境の事務所も多いので、残業代請求されたら敗訴するのでは?とも思ったりします。この業界では、なんとなくアンタッチャブルな問題ですね」とのことだが、描いちゃって大丈夫…?

■弁護士って、時々変なこと言ってるよね?
「弁護士の主張が変!」と思ったときに読んでほしいのが「刑事弁護のリアル2」。たぬじろうさんは「ニュース等で弁護士がおかしいことを言っているように見える時もあるかもしれませんが、言いたくて言っているわけではない時もあるのです」という。

「民裁修習のリアル1」もそうだ。代理人である弁護士の主張が無理筋だと思っても、それは依頼者の意向が反映されている可能性が高い。

「実際に働き始めてみて、依頼者に納得していただくことが大変だと思うことがあります。法律上難しい主張であっても、弁護士はあくまで『代理人』なので、本人がどうしてもということがあれば、無理筋な主張でもすることがあります」仕方のないことだとは思うものの、「多少辛いこともありますが」とたぬじろうさん。

残業代が出ないとか、無理な主張をさせられるとか、いろいろ大変なことの多そうな弁護士だが、それでも続けられているのはなぜか。その答えが描かれている作品が、「やりがいのリアル1」だ。綺麗事だと思われても、依頼者から感謝されるその瞬間のために仕事をしていると言っても過言ではないそう。法曹関係者からのコメントでも、同様の意見が多かったとか。

■司法試験に受かっても、司法修習後の二回試験が怖い!
さて、弁護士になるには法科大学院を卒業して司法試験に合格するのがルートだが、そのあとにも厳しい試験があるのはあまり知られていない。これは司法修習後に受ける二回試験で、弁護士、検事、裁判官のいずれを目指すにしても受けなければならない。

不合格になれば、再度受験できるのはその1年後。すでに就職の内定をもらっている状況で受けるので、キャリアプランが一気に崩れてしまう。しかも7時間半ぶっ続けの試験を5日間と、日程も過酷だ。たぬじろうさんが真っ白になってしまうのも理解できる恐ろしさだ。合格した今だからこそ、こうやって漫画にできるのかもしれない。

■弁護士のリアルを若者に伝えたい
漫画を描くにあたり、「できれば高校生や大学生に弁護士のリアルを伝えたい」という。それゆえ「法曹関係者に受けても、一般の人にはわからないネタはできるだけ少なくしたい」というのが漫画を描くうえでのルール。できれば毎日更新したいところだが「本業も忙しくてなかなか実現できていません」というのが現状だ。

今後については「電子書籍を出したい」そう。「漫画だけのまとめ本は無料で、漫画1ページに対して解説1ページを付したものは有料で出す予定です。本当はもっと早くやりたかったのですが、本業があるとなかなか思うように進まないのが難点ですね。いずれ、紙の書籍も出せればと思っています」と目標を掲げている。

最後に「本業の合間に気ままに更新していく予定ですので、気長に待っていただければと思います。これからもたぬじろうを、よろしくお願いいたします」とファンへのメッセージを語ってくれた。

たぬじろうさんの漫画で、法曹の世界のリアルの一端に触れてみてほしい。

取材・文=鳴川和代