YouTubeで、2013年から鉛筆画のメイキング動画を配信。広瀬すずさんをモチーフにした作品がSNS上で話題を博し、現在の総再生回数は1800万回を超え、登録者数12万人の人気チャンネルとして話題を呼んでいる。作品を描いているのが、古谷振一さん(@shtt4881)だ。

■画家の夢を捨てきれず、趣味でリアル画を追求
古谷さんは富山市在住。本業は製造業の機械設計に携わっており、鉛筆画は趣味として25歳から始めた。現在までに約70作品を描いたという。

「絵のサイズはA4が主体。一作品を描くのに短いものでも正味10時間から、長いものでは最長45時間かかります。もちろん一気に描くことはできないので、足掛け1週間から、長いもので3か月ほどかかった時もありましたね」

鉛筆画を始めたきっかけは、小さな頃から持ち続けていた夢だったという。「幼い頃からテクノロジーと絵画に興味があり、それぞれに夢を持っていました。ただ、テクノロジーの方に進んだ方が食いっぱぐれないだろうと思って、技術系の専門学校へ進学。その時は絵画への道はすっかりあきらめていました」

専門学校を卒業して大手製造業に就職するも、子供の頃の絵画への思いが頭から離れなかった。

「ならば趣味で絵を描こうと思いました。ただ、道具の手入れが面倒だなと考え、手っ取り早く鉛筆を用いたデッサンを始めました。普通にデッサンの手法を用いたのではリアルな絵が描けないため、独自に下描き方法を編み出して『リアル画』の道を目指しました」

その後、実際に描いている一部始終をYouTubeで配信し始めた。自分が描くリアルな画をなるべく多くの人に見てほしい、また絵で感動を与えたいとの思いから製作過程を定点撮影したそう。「当初は、再生回数もチャンネル登録者数も伸びなかったですね…。でも徐々に注目されはじめ、地元や関東・関西のテレビ局からも出演の依頼を受けるようになりました」

■鉛筆画が映画のティザービジュアルにも採用される
しかし2016年、心労が原因で体調を崩し、本業を長期休業することになってしまう。だが、「リハビリを兼ねて始めた絵の制作とYouTube動画が話題になって、なかでも広瀬すずさんを描いた動画が一気にバズりました。その後、キー局の多数の情報番組や、海外メディアでも紹介されるようになって」

その鉛筆画は、当時東映代表取締役グループ会長だった故・岡田裕介氏の目に止まることになる。やがて、「『写真だと思って見たら実は鉛筆画だった』という驚きで映画のおもしろさを伝えたい」という岡田さんの発案から、吉永小百合さん主演の映画「いのちの停車場」(21年5月公開)のティザービジュアルを描いてほしいと依頼が来たのだ。

「吉永さんのほかに、松坂桃李さん、広瀬すずさん、西田敏行さんの人物画を含め全部で6枚でした。製作着手から3か月を経て完成させましたが、制作の期限がタイトでしたので寝不足になりましたね(笑)。岡田さんはティザービジュアルの完成を見ることなく急逝されてしまうのですが、一人一人の鉛筆画が届くたびに喜んでくださったと聞いております」

■鉛筆画のこだわりは「目から描く」 21年には教室も開講
そんな古谷さんに鉛筆画の魅力を聞いてみた。「いくつか挙げるとしたら、まずは道具が誰でも割と簡単に入手できること。そして手入れが非常に楽なことです。そのほか、写真にはない温かさや決して複製のできない唯一無二の存在、消しゴムで簡単に消せてしまうはかなさ、などです。難しいところについてですが、私の場合はYouTube動画の構成や流れを考えているので、やり直しがきかないところですね」

また、ポイントは目だという。「描き方でこだわっている点は、必ず目から描くこと。よく『目が生きている』と感想をいただきます。気をつけているところは、消しゴムで消さないことです。消すと紙を痛めてしまうので。なので、ほぼ一発仕上げです」

そんな古谷さんにとって21年の大きな出来事は、初めてとなる教室開講だった。「今年の4月から5月にかけて開催した4回目の個展で、自己紹介のパネルに近々教室を開く予定と記載したところ、個展に来てくれた人から教室を望む声を多くいただきました。そこで、開催を決心したんです」

現在は、富山市内の2か所で開催。一つはプライベートな教室で、もう一つは富山市民プラザで一般の人を対象に開催しているそう。富山市民プラザでは約50人の生徒がいて、著作権フリーの写真素材を探して、現在は主に静物画を教えている。ゆくゆくは人物画を描いてもらう予定だ。「生徒さんの楽しそうな笑顔に出会えたり、完成したときの感動を共有したりすることは、自分で一人で描いている時には味わえないものでしたね」

そんな古谷さんの目標は、絵の教室をもっと増やすこと。富山だけではなく関東や関西、中部にも展開し、遠方の方に向けてオンラインでの授業も考えている。古谷さんの今後の活動からますます目が離せない。

取材・文=斉藤育世(エディターズ・キャンプ)