感情や考えが「顔に出る」という言い方をするように、表情は実に多くの気持ちを伝えるもの。だがもし、表情ではなく「漢字」で思ったことが顔に出たら……?くらげバンチ(新潮社)で連載中の漫画『君の心を漢字たい』は、気持ちや考えが顔に漢字一文字として浮かぶクールな少女と、その意味を読み解こうとする少年の恋模様を描くラブコメ作品だ。
作者の須河篤志(@SugaAtsushi)さんが第1話を自身のTwitter上で公開したところ、3.4万件超の「いいね」とともに、「すっごいキュンキュンしました」「尊い」「よいアイデア」と読者から多くの反響を集めた同作。5月9日にコミックス第2巻が発売となり、ますます注目を呼ぶ同作の舞台裏を須河さんにインタビューした。

■「焦」、「恥」、「配」…その意味するところは?漢字で読み解く彼女の気持ち
主人公の橋場読実(はしばよみ)は、人生初めての恋人である女の子・花井瑞希(はないみずき)との間に大問題を抱えていた。それは、ポーカーフェイスの瑞希が何を思い考えているのか、表情から読み取れないことだった。

常にデフォルト顔で反応もそっけない瑞希に四苦八苦し、そんなに自分のことが好きではないのでは…と思い悩む読実。だがある日、ひょんなことから瑞希の頬に浮かび上がる漢字が見えるようになる。

勢いで瑞希の頬に触れたら「恥」、その後は「配」と、顔に出る漢字が移り変わるのを見て、それらの漢字が瑞希の心を表していることに気付いた読実。クールな瑞希の本心に触れようと、自分にだけ見える漢字を糸口に奮闘をはじめる――、という物語だ。

■「一文字だけでは全部はわからない」奥深い漢字×ラブコメが生まれるまで
読実は表情の代わりに漢字を頼りに瑞希の気持ちを読み解こうとするものの、浮かび上がるのが読み方も意味もわからない超難読漢字だったり、はたまた複数の意味のある漢字だったりと四苦八苦。漢字の奥深さを活かしたユニークな設定や読実の奮闘ぶりに引き込まれるとともに、少しずつ表情でもその心を見せるようになる瑞希の変化や、ぎこちなくも徐々に距離が近づく二人の関係にも心くすぐられる作品だ。

ウォーカープラスでは、『君の心を漢字たい』のアイデアの源や作品制作でのこだわりについて、作者の須河さんに話をうかがった。

――気持ちが漢字で浮かび上がるというアイデアが独創的な作品です。本作が生まれたきっかけを教えてください。

「まず、『無表情な女の子をヒロインに描きたい』と漠然と思っていたんです。でも、ただ無表情なだけではおもしろくないなと考えていたところ、共同制作をしている春カエル(@kaerunoko110)が『顔に感情を表す漢字が一文字出たらおもしろそう』と、ぽろっと言ってくれたのが発端でした。一文字だけでは全部はわからない。そこにおもしろさも出ると思ったんです」

――作中では、主人公の橋場くんが漢字に詳しくなく試行錯誤する姿も描かれています。そんな読実をどんな目線で描いているのでしょうか?

「実は、僕も春カエルも漢字が得意ではないんです。なので、どの漢字を出すのか最初はネットの辞書を見ていたのですが、サイトによって書いてあることが違ったりするので、今ではいろんな種類の紙の辞書をひいて漢字を探しています。辞書を引くなんて学生の頃ぶりだったんですが、いつも何気なく使ってる漢字一文字にも複数の意味があったり、知らない漢字がたくさんあることに驚きました。その漢字の深い面を橋場を通じて読者にも感じてほしいと思ってます」

――ヒロインの花井さんは、表情が乏しい分、浮かぶ漢字でどんな心境なのか、読者も主人公とともに読み解くような面白さがあります。

「表情を出しすぎないで描くとやっぱり華がない画面になってしまうんですけど、そこで顔に出る漢字がすごい力を発揮してくれるんです。そこまで表情を出さなくても、顔に『照』と書いてあるだけで、照れてる度があがるんです。漢字ってすごいですよね。とは言え、どこまで表情を出して作画するのかはいつも迷うところです」

――その一方で、話を重ねるごとに漢字以外の素の表情も垣間見せるように描かれているのも印象的です。

「一つの漢字にもいろんな意味があり、それはその漢字を知ろうとしないとわからないというのは、花井さんにも重なるんです。橋場が漢字をきっかけに花井さんを知ろうとしているから、彼女のいろんな面も出てくるんだと思います」

――時に読み違えたり、漢字自体が難しかったりと、遊び心を感じる「心が漢字で見える」というアイデアですが、ストーリーはどのように考えられているのでしょうか?

「プロットの大部分は春カエルが考えてくれてるんですが、いつも漢字選びで難航してますね(笑)。まず大まかなストーリーを考えて、それに使えそうな漢字を探すんですけど、それに凄い時間を費やしてしまって……。ネットで漢字についてのおもしろ話や、いくつもの辞書とにらめっこ状態です(笑)」
 
――お互いの気持ちや理解が少しずつ変化する丁寧な描写も大きな魅力です。本作を描くうえで特に意識している点を教えてください。

「とにかくストレスなく読める作品を目指してます。それゆえに衝撃的な展開がある作品ではないんですけど……。それでも、読み続けていただけるようにキャラの関係性の変化や、漢字ネタにも変化をつけることを意識しています」

――5月9日にはコミックス第2巻が発売されました。興味を持った読者に向けて、作者から見どころをお願いします。

「2巻ではやはり花井さんの表情の変化に注目してほしいです。1巻ではあまり描かなかった、花井さん視点の話もあり彼女の内面がぐっと感じられる1冊になりました!!今後はもっとラブ度が上がる2人や、仲を深めていくからこそ生まれる葛藤を描いていきます。作中の二人をほほえましく見守ってくれたら嬉しいです!!」


取材協力:須河篤志/新潮社