「こんなの詐欺だ!!」携帯ショップでそう叫んだのは、携帯の電波が入らないと来店した客。繋がらない原因は携帯料金の未払いだったが、その説明に客は「払ったって言いましたよね!?」と激怒してしまい……。
日々いろいろな客と応対する接客業。それだけに、思い込みや勘違い、はたまた行き違いでトラブルやクレームも起こってしまうもの。はらぺこもんろー(@harapekomonrrow)さんは、自身の体験や読者からの体験談をもとに、ブログやSNS上でフィクション漫画として「接客業あるある」を描いている作家だ。

自身の携帯ショップでの体験などをベースに描かれるエピソードの中から漫画「料金未払いを指摘したら逆ギレされた話」を紹介するとともに、作者のはらぺこもんろーさんに、接客業をテーマに作品を描く思いを取材した。

■「払った」という携帯料金、データ上は未払いのまま…原因発覚でクレームを覚悟した店員の応対
ある日、「なんか電波入らないんですよねー」と、一人の客が携帯ショップを訪れたところからエピソードははじまる。

その相談に「料金のお支払いを忘れたことはありませんか?」と主人公である店員は確認するも、客は「最近ありました」と言いながらも、昨日払ったと返答。店員はそれをもとに支払い情報を照会するが、客の答えとは裏腹にデータ上は未払いの状態だった。

その食い違いは、「滞納分は自動引き落としにならない」という仕組みにあった。口座引き落としのタイミングで請求ができなかった場合、自動的に請求書払いに切り替わるのだ。「勝手に落ちたらそれこそ問題でしょ」という先輩店員の説明に納得した主人公だったが、同時に「クレーム案件に発展しそう」と予感する。

案の定、「お支払いが未払いだったのが原因でした」と聞かされた客は「いや、払ったって言いましたよね!?」「口座にお金入れたんですよ!」と激昂。「訴えてやる!!」と息巻く客に対し、店員はつとめて冷静に「実際に詐欺なのか?確認してみましょう」と、銀行アプリで残高を確かめるよう提案する。

客は立腹しながらも、その提案には「やってやるよ」と了承。口座を見て携帯の利用料金が引き落とされていないことに客も気付くが、引き落とされていない理由が分からずまだ不満げ。そこでも店員は穏やかに引き落としの仕組みについて説明を続け、客もようやく「二重払いじゃないんですね」と納得した様子を見せた。

現金での支払い後、回線が復旧し「すいません!ありがとうございました」と謝罪と感謝を告げ店を去る客。ギリギリのところで問題をこじらせずに済んだ店員はほっと胸をなでおろすのだった。

■「実態を知らない方も多い」接客業での店員の頑張りを伝えたい
きっかけは一つの思い違いでも、生活にかかわる携帯電話の問題、そしてお金に関するやりとりだったことから大きなトラブルに発展しそうになったエピソード。はらぺこもんろーさんはそうした出来事をはじめ、携帯ショップで起こる日常のあれこれを中心に、接客業の実態を題材に日々作品を発表している。

「少しでも接客業の現場を知ってもらいたい」という思いで漫画を描いているというはらぺこもんろーさん。作品制作のきっかけや、接客業をテーマに描く上で意識していることなど話をうかがった。

――接客業のあるあるを漫画で描き始めたきっかけを教えてください。

「日本の接客業の素晴らしさや大変さが社会に伝わっていないと感じたため、この題材で描き始めました。

私は10年前海外に住んでいたのですが、その時に受けた接客はとても強烈でした。常にスマートフォンを片手に態度も横柄。それに比べて日本の接客業はとても丁寧です。一方で、その実態を知らない方も多いのではと思っています。私が漫画で接客業の実態を面白く描くことで、“接客業で頑張っている店員さんの姿”を伝えたいと思っています」

――それ以前から漫画作品は描かれていたのでしょうか?

「発表はしていませんでしたが、小さい頃から漫画を描くのが好きでした。家庭環境があまりよくなかったため、現実逃避するために漫画を描いていて、人に見せることが恥ずかしかったので自由帳に描いて自分で見返して……の繰り返しでした。当時はコロコロコミックにハマっていたので、描いていた内容も少年漫画寄りでした」

――携帯ショップをはじめ、接客業にまつわるさまざまな出来事やトラブルを描かれていますが、そうした題材を描く上で特に意識している点を教えてください。

「『お店の人って、意外と大変なことしてるんだなぁ』と思ってもらえるように意識しています。たとえば、携帯ショップのデータ移行はすごく時間がかかるのですが、中には10分くらいで終わるのが当たり前と思ってる人もいます。ですが、実際は1時間以上かかることもあり、そのギャップをわかりやすく伝えられればと思っています。もちろん、個人を特定する内容にならないようにフィクションを交えながら作成しています」

――作品の中には、読者から寄せられた体験談をもとにした漫画もあります。ご自身の体験をベースに描く際との違いはありますか?

「自分の体験と読者の体験談を描く時に違いはあまりありません。というのも、どちらも個人が特定できないようにフィクションを交えており、創作部分があるからです。ただ、知らない業界は調べて描いているので、そこは大変な時もあります。一方、いただいた体験談には『同じ業界でもこんなにエピソードが違うのか!?』と毎回驚いています」

――携帯ショップだけでなく、現在は異業種の体験談も募集されています。漫画制作の今後について教えてください。

「接客業という職種は、一番身近な職業なのにも関わらずドラマや映画などのメディアに取り上げられることは、少ないと感じています。生活に欠かせない接客業の人たちの頑張りにスポットライトを当てて、日々の仕事を応援していきたいと思っています。将来的には、映像化やコミック化などさまざまなメディアを通じて、多くの方に接客業で頑張る人たちのことを知ってもらえるような作品を作りたいと思います」

取材協力:はらぺこもんろー(@harapekomonrrow)