EV航続距離がネックで売れないと言われてなかった!? 近距離向けのサクラとeKクロスEVが絶好調なワケ

この記事をまとめると

■日産サクラと三菱eKクロスEVの販売が好調

■軽EVの人気が高い2つの理由を解説する

■今後は商品力維持が重要となりそうだ

日産サクラの売れ行きはリーフの3倍以上!

 電気自動車は、地球温暖化に向けた有効な対策として取り上げられる。そのために日産リーフは、初代モデルを2010年に投入した先駆者的な電気自動車として、認知度も高い。

 しかしリーフの売れ行きは伸び悩む。現行型は2017年に発売された2代目だが、2022年1〜11月の登録台数は、1カ月平均にすると約1000台だ。今は1カ月平均が1000台未満の車種も多く、悲観的な売れ行きではないが、ノート(ノートオーラを含む)に比べると10分の1程度だ。

 その意味で軽自動車のサクラとeKクロスEVが注目される。サクラは販売を本格化させた2022年の7月から11月までの間に、1カ月平均で約3300台を届け出した。リーフの3倍以上だ。

 しかもサクラの受注台数はさらに多く、一時的に受注を停止させ、12月22日に再開した。ちなみにデイズの2022年1〜11月における1カ月平均届け出台数は約3500台だから、サクラのニーズは、受注台数を踏まえるとデイズよりも多い。

 eKクロスEVの届け出台数は、1カ月平均が約600台だが、販売店舗数も日産の約26%と少ない。そこを考えると、eKクロスEVも電気自動車として健闘している。

EVと軽自動車の親和性が高い

 サクラとeKクロスEVの販売が好調な理由は2つある。ひとつは電気自動車と軽自動車規格の親和性が高いことだ。軽自動車は街なかの移動手段で、充電設備を設置できる一戸建ての世帯では、セカンドカーとして使われることも多い。

 そうなると遠方への外出にはファーストカーを利用するから、セカンドカーの軽自動車では、長い距離を走らない。従って電気自動車に指摘される「1回の充電で走行できる距離が短い」という欠点も問われない。

 ちなみに電気自動車で長距離を充電回数を抑えて走るには、大容量の駆動用電池が必要で、価格も高まる。車両重量も増えるから、モーターのパワーアップも求められる。そうなると電力消費量が増えるから、さらに大きな駆動用電池を積まねばならない。拡大の悪循環に陥ってしまう。

 その点で軽自動車なら、街なかの移動のために午前中に外出して、帰宅したら充電する。午後に再び外出して、戻ったら充電する、という使い方が可能だ。この用途なら、駆動用電池の容量が20kWhで、1回の充電によって走行できる距離が180km(WLTCモード)でも問題はない。電気自動車の欠点を回避できることが、サクラとeKクロスEVの販売が好調な1つ目の理由だ。

 2つ目の理由は価格設定だ。2020年12月22日にリーフと併せてサクラの値上げが発表されたが、それ以前は中級グレードのサクラXが239万9100円で販売されていた。経済産業省による補助金交付額は55万円だから、これを差し引いた実質価格は約185万円に下がる。ルークスハイウェイスターGターボなどの価格に近い。

 東京都では別途45万円の補助金も受けられたから、さらに100万円安くなった。実質価格は約140万円だから、デイズに標準ボディを組み合わせたXと同等だ。

 見方を変えると、補助金交付額の設定が乱暴だ。サクラXの価格は239万9100円だから、経済産業省の補助金交付額が55万円なら、価格の23%に相当する。アリアB6の価格は539万円で、補助金交付額は85万円だから、16%に留まる。サクラは補助金比率が格段に大きく、買い得度も強まった。東京都などの自治体が交付する補助金にも同様のことが当てはまり、サクラやeKクロスEVの売れ行きを押し上げた。

 つまりサクラやeKクロスEVの販売では、補助金に対する依存度が大きい。電気自動車と軽自動車の親和性が高いのは確かだが、補助金は普及が進むに従って減額されるから、サクラやeKクロスEVの売れ行きが安定したものとはいえない。価格設定を含めて、補助金が減額されても好調な売れ行きを保てる商品力が必要だ。