この記事をまとめると
■トヨタは東京オートサロン2023で環境対応したAE86を発表した
■コンバージョンEVと既存のエンジンをベースに水素を燃料としたモデルに改造されている
■衝突安全性やブレーキ性能などに関わる安全面にまだまだ課題があると考えられる
コンバージョンEVや水素エンジン換装は救世主になれるのか
2023年の東京オートサロンでは、トヨタが製作したAE86(カローラレビンとスプリンタートレノ)が大いに注目を集めた。新車と見まごうほどパリッとレストアされているだけではなく、それぞれが環境対応のパワートレインにコンバージョンされていたからだ。
具体的には、レビンがEV化され、トレノは水素エンジンへとアップデートされていた。いずれも排ガスを出さないゼロエミッションとなる。こうしたソリューションを用いれば、カーボンニュートラル政策によって、「実質的に化石燃料が使えない世のなかになったとしても旧車に乗り続けられる」と、トヨタの提案は歓迎されている。
こうした旧車のゼロエミッション・コンバージョンという手法に課題はないのだろうか。
一般論として、EVコンバージョンについていえば、重量増への対応が大きな課題となろう。
航続距離は100km以下と短くてもよいと割り切れば車両重量は抑えられるかもしれないが、ある程度実用的な航続距離を求めていくと、現時点の技術レベルでは100kg単位でバッテリーを積んでいく必要がある。
そこで課題となるのは、バッテリー搭載位置を考慮した衝突安全性と、重量増に対応したブレーキ性能の確保だ。
個人が、自己責任でEVへ改造するのであればまだしも、ビジネスとしてEVコンバージョンするのであれば、しっかり止まれないクルマになってしまうというのはあり得ないだろうし、もしメーカー自身がコンバージョンを事業化するのであれば、衝突安全性について無視するわけにはいかないはずだ。
いくら最新技術を投入しても旧車という枠から抜け出せない箇所も
具体的には、制動力の確保にはブレーキ容量を増やすことが必要となるだろう。一方、衝突安全性については対応することは難しい。このあたりはコンバージョンに関わらず、旧車のリスクとして認知しておきたい部分だ。
重量増という意味では、水素エンジンはEVコンバージョンに比べれば気にしなくて済むかもしれないが、圧縮水素を収める水素タンクは高価であり、安全のためには事故時にも保護されるように積む必要がある。その意味では、公道を走らせるときの衝突安全性に関するハードルは高いといえる。
水素エンジンではパワー不足も課題だ。当たり前の話だが、ガソリンは炭化水素であり、炭素を含んでいるぶん、純水素より熱量が大きい。当然ながら同じようなエンジン構成であれば水素燃料にコンバージョンした段階でガソリン仕様と同等のパワーを出すことは難しくなる。
さらにいえば、旧車の安全装備は貧弱だ。それはAEB(衝突被害軽減ブレーキ)がついていないというレベルではない。SRSエアバッグがないのはもちろん、ABSさえも備わっていないのが旧車の世界では当たり前だ。
このように、現在の基準で安全性能に劣ったクルマに乗っていて、他人を巻き込むような事故を起こしたとき、自己責任で乗っていたという話では収まらない可能性は意識しておくべきだろう。
旧車をゼロエミッション仕様にコンバージョンしたからといって、最新の環境対応車と同じような性能、使い勝手になるわけではない。EV化や水素エンジンへ改良して、旧車を残すことがナンセンスとはいえないが、万々歳な解決策というわけでもなさそうだ。