新車の納車時に「次の乗り替え車種」の注文を打診! もはや異常事態の新車販売現場

この記事をまとめると

■自動車ディーラーでは納期遅延により新車の売り方が激変

■継続車検時や新車購入時に「次の乗り替え車種」の注文を入れるケースも

■注文すらできない受注停止車種もいまだに多数存在する

深刻な納期遅延が生んだあり得ない新車の売り方

 新車の深刻な納期遅延が問題として騒がれるようになってから2年ほどが経とうとしている。販売の主力が完全にHEV(ハイブリッド車)であることや、人気モデルが多く、そして納期遅延が顕在化しても5代目プリウスのように、それでも受注が入り続けることもあり、とくにトヨタ車の販売現場では日々セールスマンが納期遅延に向き合う日々が続いている。

 そんなトヨタ車の販売現場で興味深い話を聞いた、「普通の新車の売り方を忘れた」と、冗談交じりにセールスマンが話すのである。平常時の新車商談ならば、「そろそろ新車が欲しいなあ」と思ったお客や、セールスマンから「そろそろどうですか?」と勧められたお客を対象に、商談を経て無事契約となり、おおむね数カ月以内に新車を納車できるのが一般的であった。セールスマンも当該車両の生産状況を把握し、どのタイミングで売りこめばつつがなく新車を納めることができるのかも熟知している。

 ところが、非常時ともいわれるいまでは、トヨタ以外でもとくに人気の高いモデルほど、納車まで時間がかかるというだけでなく、「いつ新車が来るのかわからない」というケースが多い。

「まさに神のみぞ知るというのが現状のようです。半年とか1年、あるいは3年などといった納期が飛び交っていますが、これは目安ともいえない根拠に乏しいものだと聞いております。部品の供給状況次第では当然納期がさらに遅くなることもありますし、逆に順調に部品が入れば、当初予定より納期が早まるといったこともあるようです」とは事情通。

 そのため、最近では売り時を見計らうのではなく、既納客で車検を受けた人がいれば、継続車検を受けた段階で、「次の車検満了日を見据えて新車の入れ換えいかがですか」といった感じでセールスマンは新車を売りこむのがいまや当たり前となっているそうだ。もっとすごい話は、長い間待ったあげく、ようやく頼んでいた新車が納車になった時に、「次の新車の注文入れておきましょう」というやりとりも珍しくないとも聞いている。

ディーラーは受注数を定めた新車販売で納期遅延を耐え凌ぐ

「たとえばプリウスのHEV(ハイブリッド車)で2リッターのZの納車予定は2025年春以降となっているようです。販売現場ではマージンを読んで「3年ぐらいは待つつもりでいて欲しい」とお客に伝えているので、新車納車時に次に乗る新車をプリウスと考えている人には、とりあえず納めた新車の初回車検までにプリウスが納車できるように、納車の段階で新たなプリウスの注文をいれてもらうといったようなやりとりも現実にあるとも聞いています」とは事情通。

 ある現場のセールスマンは、「とにかく納期ばかりを気にして販売する毎日となっております。普通に新車をどうやって売っていたのか、その感覚も含めて忘れかけています」と話してくれた。

 トヨタ以外では、ホンダが少々納期の乱れが目立つものの、そのほかではかなり平時に戻りつつあるようだが、最近では納期遅延ではなく新規受注停止になる車両がめだってきている。「日替わりどころか、時間によって受注できるかできないかが同じ車種で変わることもあります」(セールスマン)。

 トヨタでは受注台数のカウントダウンというものが表示されることがあるそうだ。つまり、あと何台受注できますよと案内された車種はその枠が埋まると一時的に新規受注停止になるそうだ。カウントダウン表示された車両を商談する時は、あらかじめ当該車両を仮押さえしてから商談に入ることになるとのこと(押さえたとしても納車までは時間がかかることは当たり前)。

 まだまだ販売現場が完全に平時に戻るには時間がかかるようである。