「ETC」じゃない「ETCX」って何もの? 何はともあれ登録して使ってみた!

この記事をまとめると

■一部の有料道路などで見かけるETCX

■従来のETC車載器とETCカードを利用してさまざまなキャッシュレス決済を可能にするもの

■実際に使ってみると便利だが民間レベルのプロジェクトなので課題は普及にある

有料道路はETC不可メンドクセー!

 いまや高速道路の通行料金の支払はETCが当たり前。国土交通省によれば、利用率は約94%にのぼるという。

 それはそうだろう。平日の朝夕や休日、深夜の利用は割引対象になるなどメリットは大きい。仮にETC車載器(およびアンテナ)の購入や取り付け、セットアップための初期費用に3万〜4万円かかったとしても、すぐに元を取り戻せる。

 なにより、支払いのためにいちいち料金所で停車する煩わしさがないのがありがたい。全体の交通の流れから見ても渋滞の緩和・解消に大きく寄与しているのは確かだ。

 しかし、ETCの便利さに慣れきってしまうと、それまでなにも感じなかったところで「なんでETCが使えないんだよ」と、憤りを覚えることも。

 たとえば全国各地に数多く点在する有料道路。

 料金所で一旦停止。財布からお金を探し、支払いを済ませて再発進。かつて、高速道路でもそうだったはずの一連の動作がやたら億劫に感じる。

 そもそも、ETCの運営母体はNEXCO(ネクスコ)東/中/西日本のほか、阪神高速道路、本州四国連絡高速道路といった高速道路会社。対して、有料道路の運営は、現地の道路管理者や地方道路公団/公社。基本的に高速道路会社とのつながりがないのだから、ETCの非導入は無理もない。

 内輪の話で恐縮だが、我々自動車関連のメディアは新車の取材などで、神奈川県小田原市内の有料道路、アネスト岩田ターンパイクを頻繁に利用する。料金所での煩わしさは件の如し。当然、「メンドクセー」と、不満を口にするメディア関係者はひとりやふたりではない。

ETCの便利さそのままおサイフ機能をプラス

 今年4月上旬、取材でターンパイクを訪れると、料金所付近に見慣れない看板が……。目をやるとETCの文字。「ついにETCが使えるようになったのか〜」と喜んだのも束の間。改めて看板を見てみると、ん? ETCのロゴマークは見慣れた紺色とは違うオレンジ色。しかもETCではなく”ETCX”。

「Xってなによ?」「まさかETC2.0の進化版?」さまざまな疑問が頭をよぎったものの、確認する時間の余裕はなく、取材を終えて帰社。さっそく編集部のスタッフに尋ねてみたが、誰も「知らない」。ググってみると、どうやら高速道路で利用するETCのシステムとは別物だということがわかった。

  

 スペースの都合上、詳細は省くが、要は手持ちのETCカードに、さまざまなキャッシュレス機能を付加するというもの。その代表的なものが件の有料道路の通行料で、料金所での現金のやり取りなどがいっさい不要で通行可能になる。高速道路でのETC機能は従来と変わらない。

 利用には会員登録が必要だが、登録料や年会費などはいっさい不要。登録方法も簡単だ。必要なのはパソコンまたはスマホ。手持ちのETCカード(高速道路会社が発行しているETCコーポレートカードでもOK)、そしてETCカードと紐づいているクレジットカードの3つ。

 まず、ETCXのホームページ内の登録フォームにアクセス。ガイダンスにしたがって、メールアドレスのほか、会員IDやパスワード、クレジットカード情報などを入力。そして、ETCカード情報を打ち込み、「登録」をクリックして完了。まるでクレジットカードでネットショッピングでもしている感じ。パソコン音痴を自認する筆者でも10分程度。このテの手続きに慣れている人なら、きっと5分とかからないだろう。やがて会員登録されたことを知らせるメールが届き、晴れてETCXデビューとなる。

ETCとETCXの相違点料金所では一旦停止

 せっかくETCXが使えるのだ。実際どんなものか試してみたくなる。渋滞覚悟で晴天のゴールデンウィーク真っ只中、ETCX適用の有料道路のある伊豆・箱根方面にクルマを走らせた。取材というテイなので助手席にはカメラマンのキムラ君に座ってもらう。

 筆者同様、彼もETCXを理解していなかったひとり。道中の会話で、根本的な誤解をしていたことがわかった。

「てっきりETC2.0のバージョンアップ版だと思い込んでいました。ほかの人から聞いたんです。いま使っているETC車載器(+アンテナ)は使えない。買い換えなきゃいけないんだ、と。お金かかるじゃないですか? 登録費・年会費もいらないんですか?だったらいいっすね!」

 いま使っているETC車載器やETCカードがそのまま使えるのもETCXの大きなメリットなのだが、存在が知られていないというのは恐ろしいもので、ヘンな噂が勝手にひとり歩きしているようす。

 かくも認知度の低いETCXだが、それは、適用有料道路の料金所をしばらく観察していてもよくわかった。箱根ターンパイクでは誰ひとりキャッシュレス(ETCX)で料金所を通過する人はおらず、支払い・お釣りの授受に手間取る四輪・二輪が原因で渋滞が発生。

 これまた大渋滞の伊豆中央道では、数カ所並んだ料金所ブースのうち一番左側がETCXの専用レーンになっていたが、そこに向かうクルマはゼロ。まだまだETCXが認知されていないことを知るとともに、渋滞の列を尻目にサクサク料金所を通過する快感を味わうことができた(かつてのETC黎明期も確かこんな感じだったな)。

 ちなみに、高速道路のETCレーンと有料道路のETCXレーンでは、車載器から発せられる電波を受信するアンテナの仕様が異なる。高速道路の料金所は従来どおりノンストップで通過できるが、有料道路の場合は、料金所で必ず一旦停止が求められるので念のため。

決済はタッチレス&キャッシュレス

 有料道路をキャッシュレスで通行可能なことからもわかるように、ETCが高速道路の通行のみの適用に対して、ETCXはおサイフケータイと同様の機能も兼ね備えている点にとくに注目したい。

「ETCXのシステムを活用すれば、駐車場やガソリンスタンド、ファストフードのドライブスルー、あるいはEV充電スタンドやカーフェリーの利用など、いままで現金やクレジットカードで支払っていた施設も、おサイフケータイのようなタッチも不要で、キャッシュレス決済が可能。今後、利用シーンをどんどん広げていきます」と、語るのはETCソリューションズ株式会社取締役の斎藤正さん。

 現在のETCXの課題は、前述した認知度の低さに加え、利用可能な施設の少なさもある。

 一部の駐車場や、ファストフードのドライブスルーでは試験運用もされていて評価を得ているものの、現状はと言えば、有料道路が関東で1カ所、東海は3カ所、近畿に1カ所(鳥飼仁和寺大橋有料道路)。ガソリンスタンドは愛知県新城市に1カ所と、全国でわずか6カ所でしか利用できないのだ。

 無理もない。ETCXの電波を受信するアンテナなど、設備には相応のコストが必要で、加盟する側の施設にもおいそれと導入できない事情があるのだ。

 それでも、他人との接触機会を減らし、現金に触れずにすむ感染症予防効果なども含め、ユーザーメリットがきわめて大きいのは間違いない。

 そもそも、国(国土交通省)が推進しているETCに対して、ETCXはあくまでも民間レベルのプロジェクト。なにせ規模が違う。しかも、サービス開始は2021年4月。

 まだ1年しか経っていない。「会員数は徐々に増えつつあり、今後数年をかけて加盟店を1万カ所に、会員数を1000万人に増やすことが目標です」(前出・斎藤さん)。

 正直、いまのところメリットは少ない。しかしデメリットもない。たまたま利用可能な施設の近くに住んでいる人なら、まずは会員登録して、ぜひその便利さを体験してみてほしい。

※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております