「数少ない短納期車種だったのに……」 ダイハツの不正がトヨタの販売現場にも混乱を及ぼす!

この記事をまとめると

■2023年5月の車種別新車販売台数が発表された

■販売台数や各メーカーの納期について解説

■トヨタ車の納期遅延は深刻だが、顧客が他銘に流れることは少ない

トヨタディーラーでは納車時に次のクルマを注文!?

 自販連(日本自動車販売協会連合会)から登録車、全軽自協(全国軽自動車協会連合会)から軽自動車、それぞれの2023年5月単月の車種別新車販売台数が発表された。

 それによると、登録乗用車の新車販売台数は17万9804台(前年同期比131.8%)、軽四輪乗用車が9万2238台(前年同期比122.2%)となった。コロナ禍前の2019年5月と比較すると、登録乗用車が約84%、軽四輪乗用車が約80.3%。トヨタに関しては広範囲に人気車種の納期遅延が引き続き発生している。ホンダもトヨタほどではないものの納期遅延が人気車を中心に顕在化しているといっていいだろう。

 ただ、そのほかのメーカーに関して納期遅延は改善傾向にあるものの、受注状況をみるとたとえば「納車まで時間がかかる」として、納期遅延が深刻なトヨタ車から他メーカー車へお客が流れるといったことは目立って発生していない。その背景のひとつが、既納トヨタユーザーに対する、トヨタディーラーの動きがある。最近トヨタディーラーへ行くと、「とりあえず注文を入れて欲しい」ということをよくセールスマンから聞く。このような発言があるなか、トヨタディーラーでは、新車納車時に次に乗り換える予定の新車の発注を勧めることがあるという。

 もちろん、馴染み客で理解ある人など相手を選んでいるのも確かなのだが、残価設定ローンを組めば長くても2回目車検がくるころまでには乗り換え時期が到来する。残価設定ローンは完済するのではうま味はなく、支払い途中で残債を下取り査定額で相殺して乗り換えるところにうま味が発生する。筆者も5年プランで残価設定ローンを組むのだが、たいていは初回車検到来前後で下取りに出すと査定額で残債が相殺できるのでその時点で乗り換えている。

 傾向として残価率を市場相場より低めとして安全マージンをとって設定しているので、実際完済前に査定を行うとたいていの車種では、下取り査定額で残債を相殺できる採算分岐点が完済時期より早めに到来するのである。一部メーカー系ディーラーでは5年プランで50%を超える残価率を設定するケースもあるようだが、これは当該車の中古車市場相場の底上げを行おうと操作しているものと考えられるので、このケースで返済途中での乗り換えは難しくなるし、他メーカーディーラーでの査定ではとてもではないが、同条件のリセールバリューに基づいた査定は行われないだろう。

 トヨタ以外のメーカー車では、そのメーカー系ディーラーでの下取り査定額がもっとも高くなると思いがちだが、トヨタの自社系オークションネットワークの規模が大きいこともあり、ある意味日系ブランドと一部メジャー輸入車ならば、トヨタ系ディーラーがもっとも高い査定額で下取りしてくれるケースが多い。そしてトヨタ車自体も海外への中古車輸出でも人気の高いブランドであるので、リセールバリューの安定感の高さは広く消費者に浸透している。

新型セレナは納期が短い!

 さらにたとえばノア&ヴォクシーでは、本稿執筆時点ではハイブリッドでパノラミックビューモニターを選択したもっとも長めのケースでは、納車予定時期が2024年秋以降となっている。一方でライバルのステップワゴンは同じく本稿執筆時点で工場出荷時期の目途は1年以上先となっている。ノア&ヴォクシーのほうがやや推しのなか、ステップワゴンも比較検討しているならば、「ステップワゴンも1年近く待つなら、五十歩百歩ということでヴォクシーにするか」ということになることも多いだろう。

 ただし、セレナは事情が少々異なり、e-POWER車であっても100V電源をメーカーオプションで選択しない場合、本稿執筆時点で注文を入れると、遅くとも9月中には納車となるのではないかとのことなので、いまどきではかなりの短納期となっている。ノア&ヴォクシーやステップワゴンほど待ちたくないという人はセレナe-POWERに流れるということも考えられるが、ライバル車より納期が早いことを単に生産体制が整っていることが理由なのか、それとも受注状況が思ったより芳しくないためなのか、そのあたりははっきりしていない。

 ただ人気のSUVではトヨタ車では納期遅延どころか新規受注を停止している車種も目立つが、日産エクストレイルや、ホンダ・ヴェゼル、同ZR-Vなどトヨタ以外のメーカーでも人気モデルのハイブリッド車などでは納車まで1年以上待つことになるので、新規受注停止していなければ「それならトヨタ車で……」ということになり、納期遅延を承知しながら続々とトヨタ車に新規受注が入り続けているのである。トヨタ以外のメーカーで納期の改善が進んでいるとはいえ、発注後3カ月で納車となればいまどきは早期納車といわれている状況下では、「それでもトヨタ車」という選択が目立っているようである。

 5月は大型連休明けから事実上、夏商戦がスタートするのが一般的。ただし現状では、5月に新規受注しても、夏商戦最終時期となる7月までに納車が間に合う車種はかなり限定的となっている。2023年5月単月の統計数字に勢いがないように見えるが、いままでなら「納期遅延で受注しても、登録(軽自動車は届け出)がなかなか進まず販売統計数字に悪影響を与えている」としてきたのだが、消費者サイドでも「新車って購入しても納車まで時間がかかるんでしょ」というような話が頻繁に出てくるほど納期遅延が広く周知されるようになっており、さらに新車価格の値上げも頻発し、値上げを発表していない車種でもメーカーからの仕入れ値がすでに高騰しており、値引き条件も全般的に引き締まっているので、統計数字がふるわないことを単に納期遅延のせいだけにすることもできず、問題はさらに複雑なものとなってきているといっていいだろう。

 軽四輪車全体では相変わらずダイハツがブランド別で販売トップとなっているが、5月にダイハツでは認可申請における不正行為が発覚している。当初は海外向けモデルだけであったが、その後は国内向けモデルでも不正行為が発覚した。ダイハツからのOEM(相手先ブランド供給)のトヨタ車はライズのHEV(ハイブリッド車)を除けば、とくに人気車のルーミーは納期も早く現状でのトヨタ車の稼ぎ頭でもあったのだが、不正発覚後はライズのHEVは新規受注停止となり、そのほかでも軽自動車のピクシスまで含み納期が混乱し、トヨタ系ディーラーのセールスマンからは、「ダイハツOEM車は数少ない納期が早めのクルマだったのに」とため息まじりの声も聞かれた。

 こうなると、6月以降の軽自動車販売台数の動きに変化が起きるのか(当然ダイハツブランド車の生産体制も混乱が生じているはず)、それとも起きないのか、そこが大いに気になるところである。