とうとう「NSX-GT」が涙のラストラン! スーパーGTを駆け抜けたNSXについて「ドライバーと開発者」に直撃した

この記事をまとめると

■スーパーGTの2023年シーズンで見納めとなったホンダのレースマシン「NSX-GT」

■その開発秘話とNSX-GTが持つマシンの特徴を責任者にインタビュー

■NSX-GTを運転してきたドライバーにも思い出を語ってもらった

ホンダを代表するレーシングマシンとして活躍してきたNSX-GT

 2023年のスーパーGTもついに最終戦を迎え、11月3〜5日、モビリティリゾートもてぎを舞台に第8戦「MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL」が開催。そのなかで、注目を集めたマシンといえば、やはり、今大会でラストランを迎えたNSX-GTだと言えるだろう。

 ホンダの主力モデルとしてNSX-GTがGT500クラスにデビューしたのは、1997年の全日本GT選手権で、2000年に道上龍選手がチャンピオンに輝いたほか、2007年のスーパーGTでは伊藤大輔選手/ラルフ・ファーマン選手がチャンピオンに輝くなど、2009年まで初代NSX-GTが全日本GT選手権/スーパーGTで活躍。

 2014年からは二代目NSX-GTが猛威を発揮しており、2018年には山本尚貴選手/ジェンソン・バトン選手がチャンピオンに輝いたほか、2020年には山本選手/牧野任祐選手がドライバー部門でタイトルを獲得している。

 まさに、NSX-GTは全日本GT選手権/スーパーGTのGT500クラスで輝かしい実績を残してきた「名車」だが、NSX-GTはどのようなマシンなのだろうか?

 というわけで、ラストランを迎えたもてぎ大会で、NSX-GTの最終スペックをクローズアップ。HRCのスーパーGTプロジェクト責任者、佐伯昌浩氏と同プロジェクトの車体開発責任者、徃西友宏氏にNSX-GTの特徴を解説してもらった。

──スーパーGTのGT500クラスのマシンは、ベース車両とかけ離れたイメージがあるんですけれど、そもそもNSX-GTと市販モデルで共通する部分はあるんでしょうか?

 佐伯氏:似ている部分としてはドアノブです。でも、厳密にいえば市販のパーツではないんです。

 徃西氏:以前までドアノブは市販パーツを使用していたんですけど、ドアノブも軽量化できそう……ということで専用のパーツを採用しています。

──そこまで軽量化を突き詰めているんですね。確かに先ほど撮影でドアを開けさせていただきましたが、ダンボールぐらいの軽さでした。でも、市販パーツはそれだけなんでしょうか? さすがにエンブレムは市販部品ですよね?

 佐伯氏:タイプR用のエンブレムですが、ホンダの純正部品です。

 徃西氏:GTマシンはタイプSをベースにしていますが、GTカーとして開発したとき、あの場所に装着するうえで、サイズ的にちょうど良いタイプRのエンブレムを選びました。(初代NSXからGT500マシンは歴代タイプRエンブレムを装着)

──なるほど。シルエットはNSXですが、中身は完全に違うクルマなんですね。そういえば、市販モデルはMRですけど、NSX-GTはFRとレイアウトも違いますよね。

 徃西氏:以前はGTカーもミッドにエンジンを搭載していたんですけど、2020年からDTMと統一規定にしようという話になり、それに合わせて、NSX-GTも2020年からフロントにエンジンを搭載するようになりました。

──そうか、DTMとの規則の統一化がFRになったきっかけだったんですね。そういった意味では、GT500のGTカーは、WECのハイパーカーと同じでプロトタイプのレーシングカーのようなイメージに近いんでしょうか?

 佐伯氏:そうなりますね。しかも、GT500クラスには3メーカーのマシンが参戦していますが、カウルを外せばシャシーは同じです。エンジンは3社で違いますが、それ以外はまったく同じ形で、それにスケーリングしたカウルを被せている状態です。

──もう1/1のラジコンカーですね。そういった意味では完全なレーシングカーだから、F1マシンのようにイベントごとにマシンを開発できるんでしょうか?

 徃西氏:スーパーGTの規定でシーズン中にアップできる部分が限られているので、じつは大幅な変更はあまりできません。空力に関してはシーズン前に“この形で戦いますよ”といったものを登録するんですけど、それ以外のパーツを装着することはできないし、最近は1シーズンではなく、空力の開発が2年間にわたって凍結されているので、その間は空力を変えることができない。しかも、登録できるのは1種類だけになっています。

──それは大変ですね。仮に空力が良くなかった……ということになれば厳しいシーズンを過ごすことになるわけですね。

 徃西氏:そうです。しかも、2年間は触れないので開発は慎重にやっています。

──エンジンも確かNRE(ニッポン・レース・エンジン)と呼ばれるレース専用の直列4気筒ターボで、ホンダは「HR-420E」が搭載されていたと思うんですが、自由にアップデートできるんでしょうか?

 佐伯氏:こちらもブロックやヘッドなどを登録するので、シーズン中は登録した以外のパーツは使用できない。ピストンなど一部のパーツは開発可能なんですけれど、それも年間2回なので自由にアップデートできるわけではないんです。

──なるほど。エンジンの開発もメインとなる部品に関しては一発勝負なんですね。ちなみにスーパーフォーミュラにもレース専用に開発された直列4気筒ターボのNREエンジン「HR-417E」が搭載されていたと思いますが、GT用エンジンと大きく異なるんでしょうか?

 佐伯氏:兄弟ぐらいの違いになりますね。スーパーGTで1シーズンに使用できるエンジンは2基なんですけど、スーパーフォーミュラは1基だけ*ですから、スーパーフォーミュラはエンジンを壊すことができないので、1シーズンの距離を走れるように開発しています。

 (※2023年レギュレーション上は最大2基だが、耐久性を重視し1基前提での開発・運用)

──ちなみに2023年のスーパーGTでは8号車、16号車、17号車、64号車、100号車と5台のNSX-GTが参戦していますが、基本的に同じクルマなんでしょうか?

 徃西氏:タイヤとホイール以外は同じものを供給しています。もちろん、サスペンションのセットアップなどの調整幅は各チームで違います。

──スーパーGTのGT300クラスにはFIA規定モデルの「NSX GT3」が参戦していますが、こちらはGT500クラスのNSX-GTとは大幅に違うんでしょうか?

 佐伯氏:GT3車両は量産車のパーツも多く使われていますので、同じGTカーとはいえ、まったく違うマシンになります。

ドライバーにもメーカーにも特別な存在だったNSX-GT

──ところで、スーパーGTの会場に来てみると、HRCの大きなトラックが目につきますが、HRCのスタッフは何人くらい来ていて、何をやっているのでしょうか?

 佐伯氏:人数は秘密です(笑)。仕事の内容としては、5台のNSX-GTの走行データを吸い上げて解析しています。F1のデータ解析は現地ではなく、「さくら」(※栃木県さくら市/ホンダ・レーシングの本拠地)でやっていますが、スーパーGTではテレメーターが禁止なので現地で対応しています。

──ちなみにNSX-GTは各チームに販売しているのでしょうか?

 佐伯氏:売ってはいませんよ。

──うーん、貸与している感じなんですかね。ちなみに値段をつけるといくらですか?

 佐伯氏:むちゃくちゃ高くなるでしょうね。共通部品の値段も上がってきていますし、独自で開発している空力やエンジンもありますので、「高い」としかいえません(笑)。

──やっぱり高級住宅と同じくらいの高級車なんですね。ちなみにシーズンが終わったあとのNSX-GTはどうなるんですか? どこかに展示されているんでしょうか?

 佐伯氏:2000年のチャンピオンマシンなど数台はモビリティリゾートもてぎ内のホンダ・コレクションホールに展示されています。

──そういった意味では2020年のチャンピオンモデルも展示されるかもしれませんね。ところで、長年に渡ってNSX-GTで戦ってこられたので、やっぱり開発者としても寂しい……みたいな感情はあるんでしょうか?

 佐伯氏:開発側からすれば、与えられたクルマで結果を残すことが使命なので、NSXだろうとシビックだろうとあまり気持ちは変わらないですよ。それでも、NSX-GTでいえば、市販モデルと違ってFRになっても続けさせて貰えた……といった部分では思い入れがあります。

 徃西氏:初代NSX-GTから関わってきましたけど、多くのファンがNSXに対して熱い思いを持っていますからね。ホンダにとっても特別なクルマですし、ファンの期待値が高いだけに、恥ずかしいレースはできないという部分では開発側としてもプレッシャーはありました。

──2024年のスーパーGTはホンダのモデルがNSX-GTからシビックタイプR-GTに変更されますが、開発者としてシビックに対する期待値はいかがでしょうか?

 佐伯氏:NSXのようにスーパーカーの形をしたクルマをベースに車両規則に合わせて開発していくと余計な張り出しが出たりするので、そのネガの部分をポジに変えていくのか苦労をしてきたんですけど、シビックのスタイルはシュッとしていますからね。でも、シビックのようなスタイリングを持つクルマでGTカーを開発した経験がないので、やらないといけないことが多いと思います。NSXでやってきたことが、そのままシビックに通用するのか、合う・合わない部分もあると思いますので、このシーズンオフは忙しくなると思います。

 以上、佐伯氏、徃西氏にNSX-GTの特徴や2024年のシビックタイプR-GTに対する期待値を語ってもらったが、ステアリングを握るドライバーはどのような気持ちを抱いているのだろうか?

 というわけで、今度は17号車「Astemo NSX-GT」のステアリングを握る塚越広大選手に話をうかがってみた。

──これまでNSX-GTでずっとスーパーGTで戦ってきたと思いますが、ライバル車両に対してNSX-GTは“ここがスゴイ”みたいな部分はあるんでしょうか?

 塚越選手:いまのGTカーは共通部品が多いので、スバ抜けてここがすごい……というようなことは言えませんが、それでもNSXといえばコーナリング……といったイメージがありますよね。

──塚越選手は市販モデルについても歴代のNSXにも乗られてきたと思いますが、GTカーに関しても“NSX”らしさを感じる部分はあるんでしょうか?

 塚越選手:GTカーと市販モデルはまったく違いますからね。それに現行モデルに関していえば、エンジン搭載位置も全幅も違うので、“ここが同じ”という部分はないんですけど、初代モデルに関しては、ドアノブは一緒でしたし、“座った感じの取りまわし感”は似ていました。それにレベルは違いますが、NSXは市販モデルもGTカーもシャープなドライビングをクルマに求められる感覚があるので、そのあたりは似ているかもしれません。

──NSX-GTでスーパーGTに乗ってきてもっとも印象に残っていることはなんですか?

 塚越選手:F3に乗っているときだったので2006年か2007年だったと思うんですけど、ホンダのサンクスデーでNSX-GTのデモ走行がありますよね。そのリハーサルで“TAKATA”号に乗ったときが初めてのGTカーで、助手席だったんですけど、フォーミュラとは違うグリップ感があって感動しました。それがいまも印象に残っています。

──2024年からシビックタイプR-GTが投入されますが、ニューマシンに対する期待値はいかがでしょうか?

 塚越選手:シビックは新しいチャレンジですからね。空力を含めてホンダが経験したことのないところだと思いますが、ベース車両もよくできていますからね。ハイパワーのFFは難しいんですけど、サーキットを気持ちよく攻められますし、ファンにとってはより身近なクルマ。シビックのオーナーさんにとっては親近感もあるので、これまで以上にファンとの一体感が期待できそうです。

 ちなみに、塚越選手は松下信治選手とのコンビで躍進しており、NSX-GTのラストランとなったもてぎ戦でも、17号車のAstemo NSX-GTが3位に入賞。NSX-GTの引退レースに華を添えた。

 このようにNSX-GTはドライバーにとってもメーカーにとっても特別な存在。そして、その役目はシビックタイプR-GTに引き継がれるだけに、2024年はニューマシンの動向に注目したい。