よほどの人でない限り普通に走ってボディ剛性はわからない

 自動車雑誌だけでなく、カタログにも登場するのがボディ剛性という言葉です。クルマ好きの間では結構使われる用語ですが、じつは難しい用語なんですね。少し間違った使い方、あるいは明らかに違う、ということがネット上でもよくあります。クルマのベーシックな部分についての用語ということもあり、クルマ好きなら、ちゃんと使いたいですね。

 ほとんどのクルマのボディは、スチールやアルミニウムといった金属でできています。スチールの場合には薄い板状のものを曲げたり、立体的にしたり、溶接したりして、クルマの形にします。板を使った構造物なんですね。だから力が入ったりすると、曲がったり、歪んだりします。曲がり難いものを剛性が高い、曲がりやすいものを剛性が低い、そう表現することになります。

 クルマの場合には、タイヤからのボディへ入力があります。正確にいえば、路面からの入力がタイヤを通じて、サスペンションを通してボディに入っていくのです。ゴムからスプリングやダンパーを通して伝わった力が、金属のボディを曲げるわけです。イメージしにくいですよね?

 よくボディ剛性が高い、あるいはボディ剛性が低い、という使い方をします。しかしじつはそう簡単にボディ剛性はわかりません。エキスパートなテストドライバーなら不可能ではないかもしれませんが、実際に普通に走行させるだけでボディ剛性を感知することは不可能です。できれば一定のGをかけ続けることができる高速コーナーが判りやすいのですが、そんな状況はサーキットに行かないとほぼ無理です。

 一般的に剛性として語られているのは、じつは剛性感なんですね。つまりボディが曲がりやすい感触があるものを剛性が低い、と言っているだけなんです。それは剛性感が低い、というのが正しい表現になります。

レーシングドライバーでも剛性と剛性感を混同することも

 2000年代にわずか1勝しただけで終わったホンダのワークスF1時代、ボディもエンジンもホンダですから、トータルでマシン開発をしていました。あるドライバーが剛性が低いというので、エンジンのマウント部分を強化したんですね。

 F1マシンではエンジンやトランスミッションもマシンの構造の一部で、実際にリヤサスペンションはトランスミッションにマウントされます。つまりエンジンのマウント部分を強化することは、剛性を向上させることになります。

 しかし、そのドライバーは相変わらず剛性が低い、というのです。それでホンダはさらにマウント部分を強化しました。これなら大丈夫だろう、と。しかし、それでも剛性が低いと言うのです。

 彼がアピールしていたのは実際の剛性ではなく、剛性感だったことにホンダのエンジニアはやっと気がつきます。それでマシン全体を見直して、剛性感を高めることになりました。

 たとえばステアリング系のマウントが緩いだけで、剛性感はかなり低下します。ボディ剛性が高くても、ドライバーは剛性感を低く感じます。ステアリング系の剛性が低いわけですが、それでもボディ剛性が低いと表明したりするのです。

 またよくドアの閉まり具合や閉まる音でボディ剛性を感じたりする人もいるようですが、そもそもドアにはボディからの力が伝わっておらず、ボディ剛性ではなくドア剛性が感触や音として伝わっているのです。ドアやハッチバック、ボンネットやトランクリッドは、基本的にはフタでしかないのです。

 ボディ剛性とは、ボディの曲がりにくさのことで、通常はあまり感じることができません。ドライバーにとって重要なのは剛性感で、ドライビングをする上で、またドライビングを楽しむ上で、大事な要素になります。ボディ剛性は直接的に性能に影響します。ハンドリングやブレーキング、乗り心地など、クルマの走行性能を支えています。チューニングするにはボディ剛性は重要ですが、剛性感の向上を意識しないと楽しいクルマに仕上がらないかもしれませんよ。