全店扱いでも「クラウン」は売れず! 「ステイタス」の高さゆえに悩める「王冠マーク」のゆくえ

特別な顧客に対して大切に販売されてきたのがクラウンだった

 トヨタは2020年5月より、トヨタ系ディーラー全店で全車種(一部車種を除く)の併売化を実施している。クラウン、アルファード、ハリアー、カローラなど、一部販売チャンネル(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店)で専売されていた車種が、トヨタディーラーのどこでも購入可能となったのだ。販売窓口が増えれば、販売台数が増えるのは自然の流れ。過去には、シエンタやカムリがモデルチェンジのタイミングで販売窓口を全店もしくは、それに近い状態にして販売台数を増やしていることからも明らか。

 2020年5月以降では、アルファードがその好例といっていいだろう。新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えないなかでも、2020事業年度(2020年4月から2021年3月)締めでの年間販売台数で10万台強を販売したのは記憶に新しい。

 現行クラウンは2018年6月26日に発売、当時はトヨタ店の専売であったが、その時の月販目標台数は4500台であった。暦年締めで初めてのフルカウントとなる2019年の年間販売台数は3万6125台、2020年は2万2173台となり、販売苦戦状態にあるということは統計数字をみると否定はできないだろう。

 全店併売後にクラウンの扱いを始めたトヨタ系ディーラーで話を聞くと、「ハリアーやアルファードを扱うことができるようになったのは嬉しいですね。ただ、『クラウンを売っていいよ』と言われましても、『はいそうですか』と、すぐにクラウンを売ることは難しいですね。それだけトヨタ車のなかでも特別なクルマなのです」と話してくれた。

 それは、かつてクラウンを専売していたトヨタ店の店舗へ行けばよくわかる。筆者が訪れた範囲では、トヨタ店以外のトヨタ系ディーラーではなかなかお目にかかれない、個室の商談スペースがあるのだ。クラウンのメインユーザーはサラリーマンではなく、地元の企業経営者や個人事業主などとなる。

「クラウンが欲しい」と、フリーでお客がディーラーを訪れるということがまったくないとは言わないが、販売の主流は長い間訪問販売となり、新規のお客は、クラウンに長く乗っている“馴染み客”からの紹介というパターンがほとんど。ステイタスが日本国内ではとくに高い高級車なので、資金洗浄などのリスクを回避するなどの意味もあり、確かな素性のお客に売るためにもこのような売り方にはなってしまうのである。

 クラウンが飛ぶように売れたバブル経済期には、ある地域では、店舗のなかでも“クラウン班”というものが編成されていたという。得意客をまわって代替え促進や、新規客の紹介をもらってクラウンを売ることが許されるセールスマンは限られ、そのほかのセールスマンは店頭にやってきたフリー客のみにクラウンを売ることが許されていたと聞いたことがある。

 このように、大切に、しかも輸入車のような売り方(輸入車ディーラーではサラリーマン向けと売り方を分ける傾向が見受けられる)をするのがクラウンであり、ホイホイ店頭で売るのは、とくに最近ではリスクが高いこともあり、難しいのである。

 売りにくいだけなら、いまのようなクラウンの販売低迷はない。アルファードの存在も大きいようだ。クラウンが専売であった当時から、クラウンユーザーのなかから、「アルファードに乗りたい」という声が多くあったそうだ。“大人数の仲間とゴルフに行きたい”とか、“孫と息子夫婦と温泉に行きたい”など、理由はさまざまだが、アルファードが欲しいクラウンユーザーは目立っていたようだ。

 テレビニュースで政治家が乗り付けるクルマを見ていると、アルファードやヴェルファイアが目立ってきているのを見ても。“偉いひと=高級黒塗りセダン”とは必ずしも言い切れなくなってきたのをみると、クラウンユーザーのなかでも目立ってきたのは当然の流れともいえよう。

 しかし、当時アルファードはトヨペット店の専売。そして、多くの地域では、トヨタ店とトヨペット店は“犬猿の仲”にあったりするので、セールスマンの努力でなんとかクラウンを乗り継いでもらったりしていた。だが、ついに2020年5月以降はトヨタ店でもアルファードを扱うようになったので、アルファードへのシフトが一気に加速。さらにコロナ禍でクラウンの法人需要が減少傾向となったこともあり、2020暦年締めで販売落ち込みが顕著に。2020事業年度締め(2020年4月から2021年3月)での年間販売台数でも、2020暦年締め比で横ばいとなる年間販売台数となり、落ち込みが顕著となっている。

 先代までは、法人やタクシー&ハイヤー、パトカーなど、“はたらくクルマ”需要も十分意識されていたが、現行モデルではクラウン コンフォートも生産終了となり、歴史上初めてタクシー仕様のないクラウンとなった。それもあってか、思い切ったファストバックスタイルを採用し、オーナーカー色を強めて、メルセデス・ベンツやBMWに一気に歩み寄ることとなった。販売実績を見る限り、このような“クラウンの変革”は販売台数に反映することができなかったというのは明らか。

姿が変わったとしてもクラウンの名は残すべきだ

 先日開催された、上海モーターショーにおいて、広州トヨタで生産されている、ハイランダーの兄弟車として、一汽トヨタは“クラウンクルーガー”を発表した。また一汽豊田はヴェルファイア改め、“クラウンヴェルファイア”も同時発表している。なお、セダンのクラウンは中国市場ではラインアップされていない。

 これは、ある意味世界一の市場規模を持ち、まだまだ市場が成長を続けている中国での実験でもあると筆者は捉えている。改革開放経済が本格的になった当初(1990年代前半)、その波にのって富裕層となったひとたちがこぞってクラウンを購入して乗った。改革開放経済がいち早く実施された華南地区にある広州市では、いまもなお、古い黒塗りのクラウンセダンを大切に乗っているひとを見かける。そのため、いまもなお年配層中心とはなるが、中国でもクラウンのステイタスは高い。

 若い世代もそのことはインターネットなどで承知のはず。ただ、すでにSUVがメインで売れている中国へ、再びセダンを投入するよりは、王冠のエンブレムをつけたクラウンと名乗るSUVやミニバンのほうが、新しい世代も取り込めると判断しているのかもしれない。

 アルファードは中国でも大都市を中心に人気が高いのだが、アルファードの属する“高級商務車”というカテゴリーで圧倒的なステイタスを持っているのは、上海GMで生産している、ビュイックGL8という高級商務車となる。貸し切りリムジンタクシーだけでなく、白タクでも、GL8というだけで料金は特別なもの(高くなり)となる。それだけ、中国ではステイタスが高いのである。アルファード系にもGL8並みのステイタスを与えるにはクラウンという車名と王冠エンブレムを与えるしかなかいと判断したのかもしれない。

 そして、この中国の動きは市場環境が異なるものの、日本でも十分当てはまる動きのように見える。良くも悪くも“特別なクルマ“としての印象の目立つ、セダンのクラウンではなく、SUVやミニバンならば、国内で新しくクラウンを扱い始めたトヨタ系ディーラーでも売りやすいのは間違いない。

 ただしミニバンはアルファードベースでも構わないが、中国のようなFFベースのハイランダーの兄弟車ではなく、レクサスブランドにも転用できるような、FRベースで格調の高いSUVのほうが日本ではいいかもしれない。トヨタはここのところ、世界市場だけでなく日本市場でもSUVのラインアップの緻密化を進めている。そのなかで、そして個人的にクラウンという車名は残すべきだと考える。そして、いま足りないのはフルサイズのクロスオーバーSUVだろう。クラウンSUVベースでレクサスを出せば、アウディQ7やBMW X7、メルセデス・ベンツGLS、キャデラックXT6(一部FFベース)と肩を並べるモデルとなるはずだ。