走る楽しさをとことん追求! 新型ホンダ・ヴェゼルの運動性能へのこだわりをエンジニアにインタビュー

SUVらしいキビキビとした走りを際立たせた

 新型ホンダ・ヴェゼルは劇的に変化したデザインが大きな注目を集めているが、その走り、とくに初代の初期型では弱点とされていた乗り心地やハンドリングも大きく進化しているという。その中身と目指したものは何か、ボディ設計を担当した小林幸治さんと、シャシーのテストなどを担当した平村 亘さんに聞いた。

──初代ヴェゼルは徐々に乗り心地とハンドリングが改善されていきました。その一方、新型ヴェゼルのベース車と言える新型フィットは非常に穏やかな走り味になりました。それらに対し新しいヴェゼルは、どのような走りの方向性で開発されたのでしょうか?

平村:おっしゃる通り初代ヴェゼルの走りは徐々に進化していきましたが、その先にあるものは何か……と考え、初代のユーザーがどのように感じているかを調査し、自分自身も乗ってみて感じ取りました。すると、時代の流れとしても乗り心地が非常に重要になっているものの、走りの楽しさもホンダ車が持つ大切な要素である、ということがわかりました。

 そうしたときに何が必要かということでいろいろ試行錯誤した結果、しなやかに動くサスペンションを作るため、各部のフリクションを下げました。また、プラットフォームは同じながら、変化したエクステリアデザインやキャビンまわりにも合わせ込んだうえで、ボディ剛性を最適化、大事な部分だけ補強し剛性をアップしています。そうした土台があったうえでのサスペンションの滑らかな動きですから。

 一方で動きすぎる領域、マンホールを越えたときなどの大入力時はリヤに強い突き上げが入りますので、それをうまくいなすために、バンプラバーの特性を調整することで、リヤサスペンションの有効ストロークを増やしています。

 ハンドリングに関しては、リヤのスタビリティがあってこそですが、リヤタイヤをうまく活かすには、こうしたトーションビーム式ではマルチリンク式などに比べて厳しい点があるのは事実です。ですがポテンシャルを底上げするため、コンプライアンスブッシュにリブを立てて、横方向の動きを制御しています。ブッシュの容量そのものも増やしていますので、大入力を前後方向にもいなしつつ、上方向のストロークもアップしています。これは両立が非常に難しい領域ですが、今回はそれができました。

 エクステリアデザインを見て「あ、シンプルで美しいな、乗りたいな」と感じたとき、見た目から受けるイメージと実際の走りが合うように作っています。

──このリブを立てたコンプライアンスブッシュは、現在のところは新型ヴェゼルだけですか?

平村:はい、そうですね。

──これで、片輪だけ大きな凹凸に乗り上げたときに、横に揺れないようにしているんですね。

平村:そういう効果ももちろんあります。ヘッドトス(頭部の横揺れ)も緩和できますね。

──こういうSUVは大径タイヤ&ホイールを装着し、地上高も上げているので、操縦安定性と乗り心地を両立させるのが非常に難しいジャンルですよね。

平村:そうですね。フィットはかなりしなやかな方向に仕上げられていますが、ヴェゼルはそこまでしなやかにはせず、SUVとしてしっかりした乗り味を持たせています。

──では、フィットのように穏やかな方向性ではなく、もっとキビキビした走りの性格に仕上げたのでしょうか?

平村:そうですね。ヴェゼルは初代がキビキビした方向性ですので、それは大切なところとして持っておきたいと思いました。それは、乗り心地のほうに振りすぎるとスポイルしてしまいますので。

──ボディに関してはとくに入力点や構造上弱いところを強化しているんでしょうか?

平村:はい。初代はリヤにパフォーマンスロッドを後付けしていますが、今回フルモデルチェンジするにあたり、それは構造物に取り込んでしまおうと。また、バックドア上部が初代よりも深く傾斜した形状になりましたので、それに伴って開口部が拡大したんですね。そうするとどうしてもねじり剛性が下がりますので、バックドア開口部まわりを三つ叉構造にしてしっかりつないでいます。

 また、路面と唯一接するタイヤにもこだわりました。18インチ仕様はミシュラン・プライマシー4で、これがレベルの高いグリップ性能を発揮するので、それをうまく活かせるよう、サスペンションとボディをトータルで作り込みました。

──16インチ仕様のタイヤは?

平村:e:HEVがハンコックさん、ガソリン車がダンロップさんのものになります。

空力性能もとことん磨き上げた

──NVH対策も入念ですね。

平村:はい、非常に大切なところだと思います。とくにロードノイズはタイヤからの音ですので、それがザラザラ、ゴロゴロしていると、e:HEVのEVモードで走っても古いクルマの感触になってしまいます。とくに路面の切り替わり、高速道路の雨を吸い込むアスファルトとそうでなない路面とで、音圧が大きく変化してしまうと気になりますので、車内ではそれがさほど変わらないように、フロントガラスの下にスティフナーを追加したり。

小林:フロアに敷くメルシート(アスファルトシートの制振材)の厚みを初代の2倍にして、フロアからの音や振動を抑え込んでいます。

平村:また、テールゲートが大きくなっていますので、そのドラミングノイズ対策もしています。

──フィットのe:HEVは非常に静粛性が高く感じられましたが、新型ヴェゼルのe:HEVも同じくらい?

小林:それよりも1クラス……いや、もう1クラス上くらいの静粛性です。

──空力に関しても、今回相当力を入れたそうですね。

平村:はい。新型ヴェゼルは横から見るとクーペのようなデザインになっていて、とくにテールゲート上部がかなり寝ているので、見た目的には良い一方、空力的には空気の渦が車両後端のより近い所で発生しやすくなっています。そのままでは空気がクルマを引っ張って、抵抗がかなり大きくなってしまいますので、ディフューザーとテールゲートスポイラーの大きさをミリ単位で調節しています。

 形状を決める際にはCFD(数値流体力学)と実車風洞を用いていますが、CFDではどの部分が効くかという大枠の部分が分かる程度ですので、長さや面の形状といった細部は実車風洞で見て、美しいデザインを損なわないようデザイナーとも議論しながら決めています。具体的なデバイスとしてはリヤコンビランプのディフューザー形状もそうですね。他社さんでは3つくらい細い膨らみを入れていると思いますが。

──ボルテックスジェネレーターですね?

平村:そうです。それではこの全体のシンプルなデザインを崩してしまいますので、いかにシンプルな形状にしながら同じような効果を得られるか、さまざまな形状をテストしました。

 また、ホイールアーチ後方のタイヤカバーも、ただ板状のものを追加しただけでは法的にはOKでも板の後ろで渦を巻いてしまいますので、ホイールアーチと一体化した形状にして整流しています。

小林:サイドシル後端もリップ形状にして、風を外に流していますね。サイドシル全体が、一般的には外に張り出させるところ、新型ヴェゼルでは下側を巻いていますが、これは空力的には不利なんですね。そこで、シンプルなデザインを融合させながら、風の流れをコントロールしています。

平村:そのほか、ドアミラーをドアパネル埋め込み型にしたうえ、付け根の形状も工夫しています。フロントタイヤに関しては、バンパー下側両端にスリットを設けて空気を入れ、前輪のホイールアーチの前側から抜くことで空気のカーテンを作り、前輪側面の乱流を減らしています。説明すると簡単ですが、シンプルなデザインと両立させながらこの形状を決めるまでには相当苦労しました。

──ほかのホンダ車では、チンスポイラーが左右全体に広がっているものが多く見られますが、この新型ヴェゼルは中央が空いていますね。

平村:アンダーカバーがない車種ではそうしていますが、ヴェゼルにはアンダーカバーがあり、そこで一度段付きができていますので、その部分までチンスポイラーが覆ってもあまり変化がなかったんですね。そこで、なるべく小さめにして、のれんのような雰囲気を出さない方がいいかなと。

──エンジンの下にはアンダーカバーが付いていますが、これは空力のためですか? それとも悪路を走行した際の保護のため?

平村:空力がメインですが、NV対策もですね。

小林:アンダーカバーに不織布を使うことで吸音性能を持たせています。

──フロントバンパー下部のスポイラーが二段構えになっているのはなぜですか?

平村:前側はリヤにかけて空気の流れを作るためですね。奥側はタイヤの内側に当たる空気を減らすためのストレーキです。

──パワートレインの味付けに関しても、ボディ・シャシーと同じく、フィットよりキビキビさせる方向で味付けしたのでしょうか?

平村:そうですね、クルマ全体でそうセッティングしています。ただ、パワートレインに関しては、走行モードが選べるようになっていますので、NORMALモードでは街中でしなやかに、SPORTモードではよりダイレクトな加速フィールを味わえます。また、アクセルオフ時の減速Gを4段階から選べるようになっており、4段階目ではMT車のエンジンブレーキよりも強い減速Gが出ます。

──完全停止までアクセルペダルだけでコントロールできますか?

平村:クリープしますので完全停止まではいかないですね。ですが、SPORTモードで、減速セレクターももっとも強い状態にすると、ワインディングでも楽しく走れます。

──NORMALモードも、フィットよりも加減速をキビキビさせていますか?

小林:ヴェゼルに合わせて制御を変更していますね。CVTもローレシオ化しています。

──走りの楽しさに関しては、フィットと明確に棲み分けたのでしょうか?

平村:コンセプトそのものも、ターゲットユーザー層も違いますので、そうなりますね。

──新型ヴェゼルなら、どこかに出かけて楽しむだけではなく、その道中も楽しめそうですね。

平村:はい、ぜひそうしていただきたいと思って作りましたので!