マスクをしてない客の乗車拒否が可能に! 高齢化が進み「感染の恐怖」と闘い続けるタクシードライバーの苦悩

マスク着用をしていない人の乗車拒否が認められた

 2020年11月4日、国土交通省は、タクシーにおいてマスク着用をしていない利用者に対し、乗車拒否を認めることができるよう、運送約款の変更を認可した。

 もちろん、日本では外出時などにおいて、マスク着用が義務化されておらず、今回の約款変更に際しても、“運転手がマスク着用していない理由を丁寧に聞き取った上”で、“病気など正当な理由がない場合に限り”マスク着用をお願いすることを基本とし、“それでも正当な理由なく、マスクを着用しない者についてのみ”乗車を断るとし、運転士だけでなく次に乗車する利用者の感染防止に資するものとして運送約款変更が認可されている。

 つまり、現在緊急事態宣言もしくは、まん延防止等充填措置が発出されている地域では、酒類を提供する店舗に対しては休業要請が出されており、そのような地域では乗車してくる機会は少ないだろうが、要は“酔客”とも呼ばれる、お酒を飲んで酔って乗車しようとするお客とのトラブル防止を主眼に置いて運送約款の変更が認可されたといってもいいだろう。

 たとえば、東京都内で酒類を提供する店舗の休業要請が出される前、午後8時までなら酒類の提供がOKとなっていたころは、早い時間から飲み始めたひとも多く、8時ぐらいに酔ったひとが街なかに溢れて騒いでいたが、その多くはマスクを着用していない、もしくはマスクは着用しているが、顎まで下げているひとであった。このようなひとたちに対し、タクシー運転士は基本的に“着用をお願い”することにはなるのだが、聞き入れてもらえない場合(正当な理由なしに)は、“決まり事なので”としてピシャっと乗車拒否ができるようになったことは、大きな進展となったのである。

 国土交通省の資料によると、2019年時点のタクシー運転士の平均年齢が58.7歳とのこと。ただ、すでに年金を受け取りながら、乗務しているような70歳前後の運転士もよく見かけるのが現状。新型コロナウイルス感染拡大当初は“高齢者は重症化しやすい”とのことから、1カ月まるまる休むといった高齢運転士も少なくなかった。ただ、ここまで感染拡大が長期化してくると休み続けるわけにもいかない。緊急事態宣言や“まん防”が発出されている地域はもちろん、ほかの地域でも外出を自粛するひとが多く、コロナ禍でタクシー需要が低迷し、稼働台数を減らして運行しており、運転士の乗務回数も減っているので、年金を受け取っているとはいえ、支給される年金額が少ないということは、日本国民の多くが感じている。そのため、生活のために高齢ドライバーも乗務しているのが現状。

 そのような高齢運転士は、本人だけでなく家族も含めて、新型コロナウイルスへの感染に怯えながらの乗務が続いているのである。

 たとえば、ニューヨーク市ではタクシードライバーもエッセンシャルワーカーとして、優先して新型コロナワクチンの接種を受けられたとのことだが、日本政府にはそのようなタクシー運転士への“心配り”は一切ない。日本ではエッセンシャルワーカーだけでなく、高齢運転士が多いのだから、ニューヨーク市以上の配慮があってもしかるべきなのに、オリンピックの半ば強行開催を優先させる政府には、そのような配慮をする余裕はないようだ。

酒に酔った人を乗せることはさまざまなリスクが伴う

 酒類提供店舗の休業自粛が出る前の東京では、「サラリーマンは会社で飲み会自粛や禁止となっているのでめっきり減りました。繁華街は若者ばかりですが、マスクもせずに大騒ぎしているので、繁華街を通り過ぎる時には“回送表示”にすることも多いです(そのような若者は乗せたくない)」と高齢ドライバーは語ってくれた。

 もともと、目的地(自宅など)を告げられないまでに酔ってしまったひとは、介助者の同乗なしのケースでは乗車拒否することが許されていた。運転士と満足に受け答えできないことだけでも問題だが、たいていは車内で寝込んでしまうのが、さらに問題を厄介にする。

 ある事情通は「運転士が男性で、寝込んだ乗客が女性といったケースは論外ですが、酔って寝込んだお客が男性であっても身体をさすったりして起こすことが禁止されているのです。まずは運転士が大声を出すなどして自力で目を覚ましてもらうようにしますが、それでもダメならば、最寄りの交番前や警察署に車両を停め、警察官に起こしてもらうのが大原則となっています。また、車内で嘔吐されるとさらに面倒になります。こうなると、せっかくのロング客(長距離利用)でも、交番や警察署に立ち寄ったり、嘔吐された車内の清掃などに時間を取られ、最悪はその後の営業ができずに営業終了ということにもなってしまうのです」と語ってくれた。

 東京隣接県でも、若い女性などでは「あそこのタクシー会社の運転士さんは怖い」などとして、利用を控えるという話は聞くし、いまでもワンメーター(短い利用)ではブツブツ言われることはあるようだが(筆者は深夜羽田空港から近くのホテルまで乗ったら、到着するまで延々と文句をいわれた経験がある)、中国のように乗車前に目的地を告げると、「俺をこんな時間にそんなところまで連れて行くのか」と怒鳴られたり、「100元払うならいってやる(メーターを入れると40元程度)」と持ち掛けられたり、「ここで降りろ」と途中で降ろされたりといった、そこまで極端な“武闘派運転士”ばかりという利用環境ではないが、正当な理由のない乗車拒否などがまったくないわけでもないのも事実。

 ただ前出の高齢運転士は、「年齢を問わず、タクシー運転士に対し、見下す態度をとるひとは多いですが、いまどきの若者はとくに目立つ」と嘆いている。タクシー乗車時のマスク着用義務は、多々あるタクシー運転士と乗客との間のトラブル要因のなかで、コロナ禍ならではのトラブルを避けるためのひとつの対策なのである。